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多言語状況における言語習得の問題

/第6回共同リサーチ:多言語教育の現状と課題 Vol.1

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三沢健直 松本市
day
2009-11-12
 

 国際結婚や仕事で海外に住む日本人家庭も増えてきましたし、日本で暮らす国際カップルや外国人家庭も増えてきました。私たちは、さまざまなバックグラウンドを持つ人々が、日常の生活で接触する多言語・多文化社会に暮らしています。

 今回の共同リサーチでは、1)多言語状況における子どもたちが、どんな場合に言語習得に問題を生じるか、2)そのような問題を解決し、子どもたちに多言語能力を身につけさせる教育や制度にはどのような方法があるか、3)そもそもバイリンガルやトリリンガルとは、どんな状態なのだろう、という3つの方向から、共同リサーチを進めることにしました。

 下のような質問ペーパーを世界各国に点在するレアリゼメンバーに配布して意見を集めるほか、知人に聞き取りを行いました。

 実際に日本国外で自分の子どもを育てるメンバーからは、言語教育に関する悩みや葛藤が、また知人へのインタビュー/アンケートを通じて、社会における「言語」の位置づけが浮き彫りになってきました。20を超える事例から見えてきたものは、各家庭でそれぞれの事情がある中で、試行錯誤しながら子どもの言語教育に向き合っている親たちの姿です。

 第6回リサーチでは、さまざまに異なる多言語環境のもとで、世界の親たちが向き合っている課題や日々の試みをまとめたいと思います。質問ペーパーの内容は以下のとおりです。

海外に暮らすメンバーから、子供の日本語教育が不安であるという声が寄せられました。将来のことを考えて英語を使うインターナショナルスクールに入学させたのは良かったのですが、最近気がつくと、日本語能力が未発達のような気がするとのこと。両親が日本人の子供は、いずれ日本に帰るはずですが、このまま海外で暮らしていては進学や就職に支障を来たしかねません。日本人学校があれば、問題はないかもしれないのですが、近くにはありません。

また、同じ海外にクラスメンバーでも、片親が移住先の出身である場合は、少し問題が異なります。あるメンバーは、移住先の言語が最近作られた言語で底が浅いと考えて、子供に日本語で喋ることを続けています。しかし、このまま行くと、バイリンガルではなくてセミリンガル、すなわち両方の言語が必要なレベルに達しない状況になってしまうのではないか、と心配しています。

ところで、日本語教育を専門にしているメンバーからは、セミリンガルの問題は、日本を始め先進国に移民している人たちの子供たちにも共通しているという意見が出されました。日本に移民している子供たちは、家では母国語を話し、学校では日本語を話しますが、両方とも学習に必要なレベルまで至らないケースが少なくないようです。
このように、状況は異なるものの、親の都合で海外に移住したり、海外で生まれたりした子供たちは、セミリンガルになってしまう危険と隣り合わせのようです。

今回は、世界では、どのような状況でセミリンガルの子供たちが生まれているのか、また、このような状況におかれた子供たちに対して、世界ではどのような多言語教育が行われているか、調べたいと思います。

(対象となる問題)
1-1. 身近なところにセミリンガル(*1)になる危険のある子供たちはいますか?どのような理由で、どんな問題が起きているか教えてください。できるだけ、問題に直面している人から状況を聞いてください。
1-2. 身近なところに、多言語教育を実践している子供たちはいますか?なぜ、多言語教育を実践しているか聞いてください。

(多言語教育)
2-1. 多言語教育のための機関、制度、支援体制にはどのようなものがあるでしょうか?それらは、上手く機能しているでしょうか?それらが解決すべき課題や問題点は何でしょうか?
2-2 身近に多言語教育を指導する側の人がいれば、どういった工夫をされているか、どんな苦労があるかを聞いてください
2-3 そのような家庭では、どのような工夫をしているか、どんな家庭の課題があるか、聞いてください。

(バイリンガルな人々)
3-1. 多言語を話せる人が身近にいれば、どのようにして多言語(バイリンガル)を身につけたか、また、バイリンガルのメリットやデメリットを聞いてください。
3-2 多言語を話す人のアイデンティティはどのようなものになっているのか(言語との関係など)、聞いてみてください。自分が受けた教育(家庭、学校等)について、どう思っているか教えてください。



 まず、まとめ担当者(せきじ、三沢)が各人からレポートを受けた印象として持ったのが、「子どもの(言語)教育実践は多種多様。国・地域の状況のみならず、各家庭の置かれた状況や、教育方針によって大きく異なる」ということでした。

 とにかく報告された各家庭の置かれた状況は千差万別です。同国人カップルと多国籍カップルの違いもあれば、海外に住み続けるか帰国するかの違いもあります。帰国するにしても、子どもが何歳になる頃に帰国するか、ということが大問題。さらに、多文化的な国での暮らしと単一文化的な雰囲気の国での暮らしの違いや、子どもの教育に関するパートナーの価値観など、それぞれの家庭がそれぞれの問題に向き合いながら、日々葛藤している様子がひしひしと伝わってきました。

 本レポートでは、提出された個々のケースを、さまざまな共通点で束ねながら、各事例を紹介していきたいと思います。(掲載のため文末など一部編集しています。)

多言語の混同という問題(幼児期における多言語環境の問題)

 複数のメンバーが報告したのが、幼い頃から多言語環境にあると、複数の言語が混乱してしまい、どの言語もきちんと喋ることができなくなるリスクについてです。

♦ラオス在中の日本人夫婦の場合

『我が家の3歳の長男はラオス語と日本語を話す。たとえば、車をさして「ろっ(ラオス語で車の意味)は、ラオス語でなんと言うの?」など、どちらが日本語でどちらがラオス語なのか、わからなくなっている単語がいくつかある。ただ、数年後には日本に戻るので、あまり心配していない。』

♦アメリカ在住で、母親が日本人、父親がドイツ人のハーフの男児(3歳)

『家では「ドイツ語」と「日本語」、幼稚園では「英語」を聞いたり使ったりしているうちに、全ての言葉について全く意味のない文節を話すようになってしまい、父親(ドイツ語)と母親(日本語)とスクールカウンセラー(英語)の3人が聞いても全く理解できない言葉の使い方をするようになってしまった。』

このような幼児期における言語の混乱への対策として、次のような実践を家庭で行っているとの報告がありました。

♦ノルウェー人と日本人の家庭における言語教育(ベルギー在住)

『とにかく言葉をMIXさせないようにする。(子どもに対して)自分は絶対日本語で話し、夫は絶対ノルウェー語だけを話す。たとえ自分と夫は英語で話しても、子どもに話す時は英語にしない。現在、ノルウェー語、日本語、そしてオランダ語の3言語を話すようになった。』

「どの言語でも、まったく意味がない文章を喋る」ような状態では、周りも問題に気が付き易いですから、ラオスの事例のように一つの言語に集中させたり、ノルウェーの事例のように、各言語を絶対に混乱させずに喋るなど、早めに対策をとることが可能なようです。しかし、このような子どもの状況に気がつかない場合に、次回報告する「セミリンガル」という状態が生じることがあります。

 次回は「セミリンガルという問題(思春期までの言語習得の問題)」です。

※1 セミリンガルとは?
二言語環境にいながら、第1言語(母語)も第2言語も年齢レベルに達していない状態をいう。セミ(semi-)が否定的であるという意見から、ダブルリミテッドバイリンガルという場合もある。セミリンガルは学問的に定義できるわけではないが、高度な学習の読み書きや認知面に問題を抱えるバイリンガルの言語状態は存在するといえるだろう。


Vol.2 セミリンガル/ダブルリミテッドという問題(思春期までの言語習得の問題)
Vol.3 多言語環境における親の姿勢 
Vol.4 多言語教育を支える教育機関
Vol.5  多言語教育を容易にする文化
Vol.6 多言語社会とアイデンティティ(最終回)

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