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多言語環境における親の姿勢 

/第6回共同リサーチ:多言語教育の現状と課題 Vol.3

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せきじえり 東京
day
2009-12-02
 

 前回まで、多言語環境における子どもたちの言語が混乱するリスクや、セミリンガルの危険性とその対策について見てきました。今回は、親の教育方針が子どもの言語習得に与える影響について考えます。

居住地の言語を取るか、親の言語を取るか

 前回紹介したように、海外に暮らす日本人家庭では、親の言語である日本語を第1言語として子どもに教えるケースが多いようです。一方、メンバーから報告された日本で暮らす中国人家庭のケースでは、居住地の言語である日本語を第1言語として教えることが多いようです。

 次の2例は、共に日本で暮らす中国人家庭のケースで、親の言語である日本語を子どもの第1言語と位置づけています。しかし一方の家庭では、親が子どもに中国語で話しかけたときに、「子どもは日本語で答えて良い」としており、もう一方の家庭では「中国語能力を維持するために、子どもは中国語で答えなければならない」という、2つの考え方に基づいて実践されています。

♦ 日本在住の中国人家庭における言語教育(中国籍だが日本の永住権を取得)

 『子どもは日本生まれで日本語を話す。親は中国語で会話しているが、子どもは日本語で答える。それで良いと思っている。無理に中国語を教えるつもりはなく、将来勉強したくなったら勉強すれば良いと思う。自分も大人になってから来日して日本語を勉強したが、まったく問題ない。』

♦ 中国語/日本語バイリンガル話者の経験談(小学校3年生で来日、有名私立大学を卒業し、有名監査法人に勤務)

 『どちらかというと日本語が得意で、英語、スペイン語も高いレベルを有する。親の言語である中国語維持のため、家庭では中国語を話し、祖父母に手紙を書くよう強制された。両親が先に来日していたので、日本語の文法・挨拶など基本的なことは教えてくれ、教育熱心な家だった。小学校の先生の指導が良く個別指導してくれた。(小学校の先生が)心の支えになっていたことは確かだ。』

 前者は、幼児期からの教育方針であり、後者は、既に9歳に達していた子どもに対する方針という違いはありますが、居住地の言語を教育する方針と、居住地の言語と親の言語の双方を教育する方針の違いがあります。しかし、両方の場合ともに居住地の言語を主な言語としている点で共通しています。子どもたちは問題なく居住地の言語を習得しており、特に後者では社会的な成功を収めています。

 これらの家庭では、「子どもたちが大人になるまで日本で暮らすこと」、「学校での国語教育がしっかり行われていること」の二つが方針となっているようです。

補習校の必要性

 思春期までの第1言語を選ぶ場合に、居住地の言語を選ぶか、親の言語を選ぶか、世界で親の方針は別れます。子どもが小さい内に帰国する可能性が高い場合は、将来を見据えて親の言語を言語にするケースが多いようですが、上で上げた中国人の家庭は、将来的にも日本で暮らすことを決めており、学校での国語教育もきちんとしていたため、居住地語を選ぶのは合理的な選択と言えるでしょう。

 一方、前回取り上げたアメリカ在住の日本人家庭の多くは今後もアメリカに住み続けることが予想されるにも拘わらず、居住地語の英語ではなく親の言語の日本語をしっかり学ばせようとしていました。しかし、親の言語である日本語教育を成功させるためには、先のアメリカの例にあるように、日本人学校や補習校などの存在が欠かせないようです。次に挙げるインドネシアと日本人カップルの家庭からは、家庭では母親の言語である日本語を使っているという報告がありました。

♦ 日本人とインドネシア人の家庭における言語教育(2)(インドネシア在住)

 『私と子どもは日本語で話すことを心がけている。子どもがインドネシア語で話しかけてきてもいちいち直さないが、相槌や答えは日本語で、日本語に誘導し、とにかくたくさん話すようにしている。毎日寝る前に日記を書いたり、本を読み聞かせるようにしている』

 このように親の言語を第1言語にしようとすると、家庭の負担が非常に重くなるようです。その国に住み続けることが明らかな場合には、上に挙げた中国人家庭のように、学校で使う居住国語をしっかり学ばせるほうが、家庭の負担は間違いなく軽くなるでしょう。セミリンガルになる危険を避けると言う意味でも、まず学習し易い居住国語から学習するのが無難に見えます。

 は言え、物事はそう簡単に割り切れません。インドネシア在住のメンバーからは、「インドネシア語は、人工的に作られた歴史の浅い言語なので、文学なども発達していない。そのような言語を第1言語にして大丈夫なのだろうか」、という不安が寄せられました。子どもの将来が明るいものになるように努力を厭わない世の親たちには、それらの苦労もまた生き甲斐のようなものなのかもしれません。

親の文化を子どもに伝えたい(継承語教育)

 さらに、居住地の言語がフランス語のように歴史ある言語だからといって、自分の子どもが自分の言葉を理解しないのは、親として寂しいことですし、自分の文化を子に伝えたいと思うのは、これもまた、親の自然な想いでしょう。これは、継承語として、文化の継承も含めた親の言語教育を行うケースです。

♦ フランス在住メンバー(フランス人と結婚)

 『わたしの家庭では父親である主人がフランス人、母親のわたしが日本人なので、子供が日仏のバイリンガルになるよう努力しています。確かに我が家では、日本に移住する具体的な理由も予定もありません。ですから、フランスで暮らしている以上、フランス語だけできればいい、あるいは困らないという考え方もアリだと思います。

 けれど、わたしたちは我が家にはフランスと日本の2つの文化が共存していると考えています。やはり文化を理解し、身につけるのにはやはり言語の習得ということが大切だと思います。「フランス語にしかない言葉」、「日本語にしかない言葉」、それぞれが存在するのは、その文化の中でその言語に関することが文化として発達しているからだと思います。それを理解するのにはやはりその言語を解してこそだと思います。』

 フランスのような先進国であれば、日本人学校もありますし、日本語教育には困らないような気がしますが、必ずしもそうは言えません。居住地語教育と継承語教育を両立させるためには、必ず家族の協力が必要なようです。

♦ フランス在住メンバー(フランス人と結婚)

 『わたしたちのようないわゆる国際カップルの場合、「日本人でない親側の取り組み方」というのも言語教育に大きく影響するように思います。「日本人でない親側の取り組み方」つまり対象言語が自分の第1言語でない親側の関心度や協力体制なしでは語学学習を続けていくのは非常に難しいことだと思います。

 ある家庭では日本人でない親側が「日本語教育は必要ない」と考えています。そうすると、日本人の親は日本語教育に関して子供とのコミュニケーションに頼ることになりますが、日常会話だけでは言語教育に限りがでてくるようです。

 別のお宅では「日本人でない親側」が日本にまったく興味がありません。日本へ行きたいとも思わないし、自分の子供が半分日本人であるということに関してもどちらかというと無関心です。けれど、日本人の親は日本語学習をさせるために子供を日本語の学べる学校へ通わせています。ところが、日本人の親が仕事などで学校へ送って行けない場合などが発生します。すると、「日本人でない親側」は自分の関心外のことなので、学校へは送って行くようなことはしません。』

 それぞれの国や状況に応じて、色んな問題があるものだな、と思います。一方インドネシアからはこんな報告も寄せられました。

♦ 日本人とインドネシア人の家庭における言語教育(インドネシア在住)

 『夫側の協力ということも重要だろうが、我が家の場合協力はないが、理解がある。日本語ができるのは素晴らしいことという空気があるし、そのための投資は重要だという考えが一致するのでそれはプラスだろう。』

 ことばに関わらず、「子どもの教育」には夫婦間の話し合いが必要でが、殊に言語教育となると、親の考え方が子どもの言語習得に直接的な影響を与えるようです。

言語教育に対する親の意識が低い家庭

 次に挙げるフランスの事例は、言語教育に対する親の意識レベルが低い場合に、子どもの言語習得にどのような影響をもたらすかについて示しています。フランスでは、HLMと言われる低家賃の集合住宅に、多くの移民家庭が暮らしています。そこに暮らす家庭の中でも言語教育意識の低い親のもとで育つ子どもたちは、親の言語も居住国語もきちんと習得できないまま成長し、Vol.2で説明したセミリンガルになる危険が大きいことが報告されています。

♦ 低所得者の多い集合住宅に住む移民家庭の子どもに対する言語教育(フランス)

 『わたし(グアダループ出身フランス在住)は同じ集合住宅に住む子どもたちを対象に、フランス語での補修教室を開いています。分からないことが普通になってしまっている子どもたちは、集中して勉強できないことが多いです。言葉が分かれば、勉強も分かるようになると気づく子どもたちもいます。こうした子どもの家庭には、親が言語教育に関して工夫をするといった時間的・精神的な余裕がありません。だから、フランス語も親の言語も両方とも未発達になっていくのでしょう。親が子供の教育に力を注ぐことができれば、どちらか一方の言語を身につけることができると思います。』

 筆者(せきじ)が日本国内で関わったことのあるケース(群馬県太田市に住む日系人の子どもたち)でも、ある小学校教員が「子どもの日本語能力を伸ばすためには、親に対する啓蒙活動が大切だ」と強調していました。子どもが日本語を学ぶため特別教室に週何回か通うことを親が理解しないケースが多いのですが、そうしないと日本語の伸びにつながり難いということでした。時間的・精神的・経済的に余裕のない家庭において、どのように子どもの言語教育を推進していけば良いかは、ひとつの大きな課題です。

 次回は、多言語教育を支える教育制度について見ていきます。


Vol.1 多言語状況における言語習得の問題
Vol.2 セミリンガル/ダブルリミテッドという問題(思春期までの言語習得の問題)
Vol.4 多言語教育を支える教育機関
Vol.5  多言語教育を容易にする文化
Vol.6 多言語社会とアイデンティティ(最終回)

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