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多言語教育を支える教育機関

/第6回共同リサーチ:多言語教育の現状と課題 Vol.4

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せきじえり 東京
day
2009-12-23
 

 前回は、多言語環境にある家庭で、親の方針が子どもの言語能力に及ぼす影響について考えました。今回は、多言語教育を支える教育制度について見てみます。

 言語教育に関する支援体制は国や地域によって大きく異なり、支援リソースの有無や、支援の質・量といった現状は多岐に渡っています。「今住んでいる場所でできることをする」しかないのが現実ですが、他の地域での成功事例を参考にすることにより、解決案を見出す、あるいは政策提言に繋げることもできるかもしれません。

多言語教育を支える教育機関と奨学金制度

 自国外で、現地語ではなく、親の言語を教育機関で学ぶ機会としては、○○人学校(日本人学校、ドイツ人学校)と呼ばれるものや、自国にある学校の分校が海外に設立されるケースがあります。各地にあるインターナショナルスクールでは基本的に英語が使用言語とされていますが、現地語の授業を設ける学校もあります。他にも、民間の語学学校や、ESL教室などで、母語の支援を受けることができる国・地域もあります。

*ESL教室(English Second Language School)海外から来た英語の得意でない子どもたちのために設置されている英語のための補習教室。


 プライベートなサポートとしては、家庭教師を個人的に手配したり、地域のクラブ活動に参加したりすることが考えられます。
 政府や企業、特定の支援団体によるサポート体制としては、たとえば外務省のJET(Japan Exchange and Teaching Program)や、豊田自動車のEducator to Japan Program、日系団体の奨学金制度などが挙げられます。奨学金などの、経済的な支援は、やはり必要になるようです。

 「多言語を維持するための高額な費用」に関して、イギリス在住のメンバーは次のように報告しています。

 「補習校に通う、塾に通う等、別の言語を維持するため、多くの場合は、正規の教育に加え、何らかの教育を外部から受けている。つまりそれなりの費用を支払っていることになり、これらの教育費は非常に高額で、経済的に余裕のある家庭でなければ支払うことのできない金額である。残念ながら多言語を維持することも、親の経済力に左右されている部分があるようである。」

 政府・市町村、あるいは企業などによる多言語教育サポートがあれば、各家庭の経済力に関わらず、子どもに言語を学ぶ機会を与えることができるはずです。

欧州の第一言語教育

 ヨーロッパでは最近「移民のための言語教育」を政策として打ち出しています。この背景としては「ヨーロッパ統合」の大目標があり、人の移動が頻繁になる域内において、言語能力をひとつの重要な資質として位置付けていることが挙げられます。

 ドイツでは、小学校就学前の子どもに対し、4歳児で一斉ドイツ語試験を実施し、一定のドイツ語能力がないと判断された場合には、出自に関わらず、政府の補助を得てドイツ語クラスを受けることが義務付けられています。
 大人に対しても、ドイツで生活するために必要となるドイツ語レベルに達していない場合には、統合コースと呼ばれるドイツ語コースに通い、ドイツ語試験にパスすることが求められています。一定のドイツ語能力を証明ができると長期滞在が許可されるなどのメリットがあり、仕事も得やすくなります。オランダやフランスなど他の諸国でも、長期滞在を予定していて、現地語が第一言語ではない話者に同様のレベル到達を課しています。

多言語カウンセラー制度

 学校教育の他に、アメリカでは言語カウンセラーの仕組みが浸透しているという報告がありました。Vol.1で紹介した、アメリカ在住で、両親の言語であるドイツ語、日本語、そして居住地言語である(幼稚園で使う)英語の3言語がごちゃまぜになり、すべての言語において意味をなさない文節を話すようになってしまった、という報告です。

 このケースでは、言語カウンセラーの下で英語に重点を置いて治療中とのことでした。専門家のアドバイスが必要な時に、言語カウンセラーのような形で、両親や本人に対してサポートがなされれば、家庭での試行錯誤や精神的負担が少しは軽減しそうです。

 これらのサポート体制が具体的にどのように実践されているのか、そもそも多言語教育を実践する家庭におけるニーズ(何が課題か、どのような支援システムがあれば助かるか)、といった点では、引き続きリサーチをする必要があります。
 ただ、筆者(せきじ)の直観では、もし言語教育の専門的アドバイスが求められているのならば、インターネットなどのネットワークで日本語教師と現場(試行錯誤で言語教育を行っている家庭)を繋ぐことは、ひとつの解決策となるかもしれません。

多文化社会における多言語教育

 ところで、多言語教育を支える教育制度は、多文化社会においては必須の制度です。例えば、義務教育機関における言語教育に関して、ベルギーのような多言語社会では次のようになっていると報告がありました。

 『ベルギーはオランダ語、フランス語、そしてドイツ語が公用語であるため、初等教育の段階でオランダ語が第一言語の人はフランス語(またはドイツ語)を、フランス語が第一言語の人はオランダ語(またはドイツ語)を学習することが義務付けられている』

 これは、公用語が複数指定されている国では良くあるケースといえます。このような多文化社会では、複数の言語教育の制度が充実しているだけでなく、他の言語に寛容な雰囲気があり、それが多言語教育に良い影響を与えているようです。

 次回は、「多言語教育を容易にする文化=多文化社会」について見ていきます。


Vol.1 多言語状況における言語習得の問題
Vol.2 セミリンガル/ダブルリミテッドという問題(思春期までの言語習得の問題)
Vol.3 多言語環境における親の姿勢 
Vol.5  多言語教育を容易にする文化
Vol.6 多言語社会とアイデンティティ(最終回)

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