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日本のコミュニティアート

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井野ゆりえ
day
2003-08-10
 

 「コミュニティーアート」は、日本ではまだ耳慣れない言葉だろう。コミュニティーアートとはその名のとおり、コミュニティーに根ざした芸術活動を意味する。しかし厳密にその定義をすることは難しい。なぜならばコミュニティーの定義自体が解釈次第で変化するものであるからだ。コミュニティーというと地域社会をすぐに連想するかもしれない。だが人種や民族、デザイナーなどの職業集団などもまたコミュニティーと言えるのだ。コミュニティーを広義に捉えれば、コミュニティーアートの原点は紀元前の宗教的な儀式(シャーマニズム)にまで遡る。

 だが、活動としてのコミュニティーアートは第1次世界大戦後のイギリスに端を発したというのが一般的な見方だ。初めは演劇に親しんでもらうための言わば観客育成のためのプログラムであったが、徐々に演劇作品の共同制作を通じてコミュニティー内の問題の共有化や解決を試みるようになっていった。この活動はイギリスにとどまらず、アメリカやヨーロッパ諸国に広まっていった。

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 コミュニティーアートの特徴としては「市民参加型のプログラムであること」や「プロセスを重視する」などが挙げられる。ダンスや文学、絵画など様々な表現がコミュニティー内から発せられ、それが表現者・参加者ともに、コミュニティー内外にフィードバックされていく過程が重要なのだ。具体的には、コミュニティーアートを通して次のような効果が考えられる。

(1) コミュニティー内の文化表現が豊かになる
(2) コミュニティーが外部に開かれ、アートを通して外部との交流をはかることができる
(3) アートに参加することでコミュニティー意識が高まる
(4) 内外ともにコミュニティーの新たな側面を発見できる

 コミュニティーアートが盛んなアメリカやイギリスではこれらの効果に早くから目を向けており、数多くのNPOがコミュニティーアートを進めているほか、大学の教育プログラムに取り入れられたり、労働省の雇用促進対策に用いられたりしている。これらの国と比較すると日本のコミュニティーアートに対する認知・関心はまだ低い。それでもNPO促進法の成立などから分かるように、自助努力による地方自治やコミュニティー形成に目が向けられていく中で、コミュニティーアートへの取り組みも行われはじめた。多くの市町村や文化会館では「アートマネジメント講座」や「アートプロデューサー養成講座」などが開かれたり、市民対象にワークショップが開催されたりしている。

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 兵庫県芦屋市の南芦屋浜復興公営住宅の「コミュニティー&アート計画」などのように、街づくりの段階から居住者主体で積極的にアートを住環境に取り入れていく地域も出てきた。この計画は『育てる環境とコミュニティー』をテーマに、神戸大震災復興後の人々が自分の住む団地に親しみをもち、新たにコミュニティーを築き直せるようにと考えられたものだ。作品は計12棟のピロティ(住宅の入口にあたる通路)と中庭に置かれている。「置かれている」といっても、既成の作品をただ持ってきて置いたのではなくアーティストがその場所に何度も足を運び、住民のことを考えて作っている。場所そのものが作品になっていると考えてもいいだろう。

 例えば、小山田徹はピロティに椅子と鏡を備えつけて会話や憩いの場とし、アイデアル・コピーは蛍光灯を使い、1時間ずつ明かりが移り変わっていくことで時計の機能をもたせた。またイチハラヒロコはピロティを真っ白く塗った上に、「あしたもあしたもあしたもあいたい。」などの言葉を黒い文字で描き、藤本由紀夫は壁・床・天井を漆喰や瓦でしつらえている。このように各アーティストそれぞれのアプローチでピロティをアート空間として作品化しているのだ。住民に媚びることなく質の高い空間づくりを貫くことが、住民にとっても最良の結果をもたらすだろうという考え方が根底にあるように思われる。

 その中で、一番コミュニティーの意識が強いのが田甫律子の「注文の多い楽農店」という作品だ。中庭の2カ所に段々畑をつくり、農作業を通して住民同士のつながりを深め、新しいコミュニティーづくりに貢献しようという狙いである。そのため造園のノウハウや農作業の楽しさを住民に伝えるべく、田甫は住民の入居前から何度も「楽農講座」を開いてきた。ただ現在この楽農に参加している住民は全体の1割にも満たないという。「楽農」といっても「労働」の印象が強く、なかなかアートという感覚にむすびつかないからかもしれない。もっともこれらのアートは長期的な展望のもとに作られているから、10年・20年後にはすっかりアートが住民の生活の一部になっていることも期待できそうだ。


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