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日本におけるカウンセラーの課題と展望

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井野ゆりえ
day
2004-02-21
 

 西村氏のおっしゃるように、日本ではカウンセラーの職分が今ひとつはっきりしていないようだ。その原因はカウンセラー資格の法的制度にある。日本にはカウンセラーという名称に対する法的な裏付けがない。そのため自称カウンセラーやカウンセリング関連の民間資格が多数存在しているのだ。

 カウンセラーに対する疑念や不信感は、ここに起因していると考えられる。先ほど主な資格として挙げた「臨床心理士」、「認定カウンセラー」、「学校心理士」、「産業カウンセラー」は、どれも心理学修士を条件としており認定試験も課しているため、ある程度信頼がおける。これらの資格をカウンセラーの判断基準にすればいいだろう。

 ただ、一方でカウンセラーの国家資格化を求める声が近年聞かれる。先述した中で、公的資格は労働省認定の産業カウンセラーだけだ。臨床心理士は準公的資格だが、その他は学会認定の資格にすぎない。なぜ国家資格化が求められているのか。西村氏は次のように語ってくれた。

「国家資格化が期待されている理由は、それによってカウンセラーの社会的地位が保証されるからです。医療の現場を例に挙げましょう。医師や看護士、ソーシャルワーカーはみな国家資格です。それに対し、同じ現場で働く臨床心理士は国家資格ではありません。おのずと待遇に差が出ることになります。心理士たちからすれば、働きと待遇が見合わないわけです。」

「国家資格化が難しい理由は、主に政治的問題だと思います。例えば、精神科医と心理士の間には明確な違いがありますが、一番大きな違いが国家資格かどうかです。もし臨床心理士が国家資格になれば、医者側は自分たちの利権が侵害されると考えるでしょう。そのため、なかなか国家資格化が認められにくい部分があるのです。」

「医師側からの反発を避けて、厚生労働省では修士ではなく学部卒を条件にした心理士の国家資格を設けようとする動きがあるようです。要求レベルを下げることで医師資格と差別化を図るつもりなのでしょうが、これはカウンセラーの専門性や院教育を否定する資格の安売りとも言うべき行為だと思います。少なくとも、心理士たちの現状に見合う対策ではありません。」

 ここでアメリカのカウンセラー制度を見てみよう。アメリカでは、心理の専門家として、大別してクリニカルサイコロジストと各種カウンセラーの2つがある。ともに心の問題を専門とするが、クリニカルサイコロジストの方がより病的な心的症状を扱っている。クリニカルサイコロジストの場合、修士と博士を合わせた計5年間の院教育が義務付けられており、またその他のカウンセラー資格の場合も博士レベルを要求するものが多いようだ。

 アメリカの大学院博士課程では心理学的知識を幅広く習得するとともに臨床実習を義務付けられており、博士号を得ると州立資格を得て開業できる制度が確立されている。以上のことから、アメリカではカウンセラーの専門性が重要視されており、その社会的地位も保証されていると言えるだろう。この違いはどうして起きるのだろう。西村氏は以下のように分析している。

 「私見ですが、日本社会はPublic(公共)の意識が強く、知識や技術をみなで分け合うべきだという発想があるのだと思います。病院に保険証を持っていって安い医療費で診療してもらうというのはその典型です。いつのまにか、相応の対価を払って優良なサービスを受けるという発想が薄いことに慣れてしまっています。専門家もそのシステムに頼っています。そのため、心理のような専門性の高い技術があまり重視されず、社会的地位や収入に直結しないのです。」

「教育としてのカウンセリングが安価な公共サービスとして提供されてきた半面、精神分析をはじめとする心理ケアは、元来富裕層を相手にした高価な技術でした。富裕層がカウンセラーの技術に高い対価を払うことで、その社会的地位や専門性を確立していた面もあるのです。今の日本は、諸外国に比べて貧富の差が小さく、飛びぬけた富裕層もあまり存在しません。その影響もあるのではないでしょうか。」

「いずれにせよ、カウンセラーの専門性が軽んじられるべきではないと思います。最近、専門性の高い高価な技術としての「精神分析」を経済的余裕のある人々に推奨していく動きが精神分析学会にあるようです。貧困層を切り捨てればよいという意味ではなく、専門家が国家政策に頼らない経済的自立のあり方を模索する営みであり、心理ケアの技術の専門性を見直す働きかけとして、期待したいですね。もちろん、日常生活に必要な専門性を保証する社会システムも、今後ますます展開していく必要があるでしょう。」

 日本のカウンセラーが現在抱えている課題は、大きく2つに分けることができるだろう。

① カウンセラーの職分に対する理解が不十分なため、結果として協力していくべき医師や教師との間に葛藤や対立を生んでしまうこと

② 心理ケア技術の専門性があまり重視されておらず、カウンセラーの社会的地位が保証されていないこと

 ②の問題に関しては、すぐに改善していくことは難しいかもしれない。日本社会の体質と深く結びついているし、社会制度の改定が必要だからだ。だが、①の問題については、私たちにも出来ることがある。それはカウンセラーやカウンセリングについて正しい認識を身に付けることだ。カウンセラー資格やカウンセリング技術についての正しい知識があれば、医療の場でも患者として心理の専門家を上手く利用できるし、学校でもスクールカウンセラーを頼りやすくなる。また、結果としてカウンセラーにとっても働きやすい環境を作ることにもなるはずだ。

 科学技術の急速な進歩による都市化した生活、単調化した職業生活、高齢化社会、不景気など色々な条件が重なり、人々の心理的ストレスは増大する一方である。心理の専門家としてのカウンセラーは、さらに必要とされていくだろう。一時的なブームに踊らされるのではなく、「カウンセリング」を正しく理解すること。そしてカウンセラーがその力を社会で十分に発揮できる環境を整えることが今後必要なのではないだろうか。


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