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シュタイナー学校に文部科学省の認可が下りる日

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玉村麦太郎
day
2004-08-23
 

東京シュタイナーシューレの移転

 来春、東京シュタイナーシューレが移転するというニュースが伝えられたのは今年はじめのことでした。移転先は人口一万人ちょっとの過疎の町。神奈川県藤野町の山中にある名倉小学校です。
 藤野町は7校ある小学校を2校に減らす方針で、名倉小学校も今年限りで廃校になる。その跡地をシューレが借り受けようというわけです。

 JR藤野駅は高尾からたった2駅め。とはいうものの、周辺を見渡せば、目に入るのは山と湖、温泉の看板。宿場町の面影を残す古いお屋敷も見られます。芸術村構想を中心に町づくりがすすめられているというだけあって、たくさんのアーティストがこの町に移り住んでいます。そのせいか、のんびりとした雰囲気のなかにも文化的な香りがそこはかとなく漂っています。

 名倉小学校は藤野駅から山道を歩いて50分のところにあります。山村とか廃校とかいったことばから連想される古ぼけたイメージとはまったく無縁の、近代的な小学校です。この校舎に移転することで、園芸、林業、炭焼きなど、いろいろな実習が可能になるとシューレは期待しているようですが、そうでなくても、土地のもつ雰囲気そのものが生徒に与える力は大きいように思われます。

 小学校に向かう道は「森林浴の森・日本100選」にも選ばれた遊歩道で、道沿いにはパブリック・アートが散見され、色とりどりの花が咲き乱れています。近所にある商業施設といえば、芋掘り栗ひろいができる観光農園ばかり。コンビニもないから、都会でよくある、若者が座り込んでいるような風景は見られません。若者が集まりそうな場所を無理やり探すなら、学校から50メートルほどのところにたったひとつだけある缶ジュースの自販機ぐらい。ここで子供がグレている光景というのは、ちょっと考えられません。

 ところで、シューレの移転と構造改革特区構想の関係は?

 東京シュタイナーシューレの生徒数は7年間で2倍になり、シュタイナー関連の団体もたくさん生まれました。ここ数年、ちょっとしたブームで「うちの子をぜひシュタイナー学校に通わせたい」という親も増えてきています。でもシュタイナー学校は、日本においてはあくまでもフリースクールであって、文部科学省が認めたものではありません。となると制度上は、卒業しても小中学校を卒業したことになりません。お母さんたちにとって、そこをどうクリアするかが問題でした。

 そこに助け舟を出したのが構造改革特区構想でした。昨年10月の規制緩和で、NPO法人や株式会社でも学校経営を行ってもいいということになったのです。特区に指定された地域限定ではあるものの、卒業時の資格に関してもふつうの学校と同じ扱いです。これなら、シューレに通わせたいお母さんたちにとっても、いっきに敷居が低くなるというわけです。

 藤野町役場の企画課によると、今回の移転計画には地元も大賛成。小学校跡地の有効利用、過疎化対策、都会などとの交流人口の増加。これら三つのメリットがあるからです。

 たとえば、シューレに通うために、東京から40世帯ほどが引っ越してくるそうです。
 40世帯というと中ぐらいのマンションひとつ分ですが、そもそも藤野町には3400世帯しか住んでいないから、それでも1パーセント以上の転入実績となるのです。
 すでに特区の認可は出ており、シューレが学校法人格の取得をすすめている段階。10月に県の私学審議会からの認可が下りれば、手続き的な面での課題はすべてクリアになるそうです。
 「認可は下りそうなんですか?」と役場にうかがうと、ちょっと考えてから「そう聞いています」と教えてくれました。移転はほぼ決まりといえそうです。

・・・


 シュタイナー教育はこれまで、日本にはどこかなじみのないものとして受けとめられてきました。一番の原因はもちろん、シュタイナー思想のオカルト的な要素でした。「霊」や「魂」について語られた時点で、たいていの教育者は「ちょっと待ってくれよ」と叫ばずにはいられなかったようです。シュタイナー学校が学校法人となるなんて、かつては考えられなかったことでしょう。

 でも時代は変わり始めました。「オカルト的な内容そのものを子供に教えることはない」ということが理解されてきたからかもしれませんが、それ以上に感じさせられるのは日本の教育に対する危機感の根深さです。私たちは、「いまの教育はほんとうに大丈夫なのだろうか?」という不信感や危機感がこれまでのタテマエを押し流していく、まさにその現場に立ち会っているといえそうです。


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