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ナバホ国部族政府からの手記 第一章 ~ Sun Dance (太陽の踊り) ~

ナバホ国で働く日本人アートセラピスト~北川のぞみ~

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2004-07-03
 

ナバホ国部族政府に至るまで

 私がナバホインディアン居留地で働くことになったきっかけは、インターネット上に掲載された小さな広告だった。その頃私はカリフォルニア州立病院で精神病の犯罪者を対象にアートセラピストとして働いていた。患者さんたちと働くのは楽しかったが、病院の治療方法が完全に認知・行動療法に偏っており、スピリチュアリティのかけらも感じることのできない職場だった。

 多くの患者さんは凶悪な犯罪歴を持っていたが、自分たち自身がひどいトラウマを抱えていた。精神科医、心理学者などは犯罪者の行動を矯正することにのみ集中し、患者さんの魂の奥底に潜む傷を癒そうなどという考えはまったくなかった。

 そんな折、何気なくインターネットのあるサイトを見ていて、「A Call for All Healers」(ヒーラー全員への呼びかけ)というタイトルの広告を見つけた。開いてみると、ナバホインディアン居留地で行われる「Sun Dance」というセレモニーの間、簡易クリニックがそこで開かれることが記載され、そこで働くボランティアを募集していた。

 その広告を掲載したのはマッサージ・セラピストで、その他鍼灸師や漢方薬を調薬できる人などもボランティアとして参加しているようだった。私は何故かここへ行かなければならない思いに駆られ、すぐEメールを送った。私はアートセラピストだが、薬物・アルコール中毒カウンセラーの資格も持っている。インディアン居留地の多くがアルコール依存症の問題を抱えているのは知っていたので、何かできるのではないかと思ったのである。すぐにメールの返事が届き、やはり薬物・アルコール中毒カウンセラーの資格が非常に有益なので参加して欲しいと依頼された。

 しかし、私はナバホインディアンの文化について何も知らなかったので、出発前にインターネットでいろいろとリサーチをしていた。そのとき、ナバホインディアン居留地はナバホ国部族政府というれっきとした自治政府であることを初めて知り、その部族政府の公式サイトも見つけた。そのサイトの中で、部族政府がセラピストを募集しているのも発見した。何故そんなことをしたのか未だによくわからないが、出発前に人事部に履歴書をFaxで送った。

Sun Dance(サンダンス)に参加する

 「Sun Dance」の会場はアリゾナ州のWheatfieldという、ナバホ国の首都Window Rockから車で1時間ほどの村にあった。アリゾナ州は荒野が多いが、この辺りは草原が広がり、セージやシダー(杉の一種)が生い茂っている。この近辺には未だに電気や水道の設備のない家がたくさんある。Sun Danceに参加しているひとびとは皆会場でキャンプを張っていたが、アウトドア派ではない私はWindow Rockにあるホテルに滞在し、片道1時間かけて通っていた。

 10年ほど前、「ローリング・サンダー」というチェロキー族のメディスンマンのことが書かれた本を読み、いつか本当のメディスンマンに会ってみたいと考えていた。私がSun Danceの会場に到着し、最初に出会って会話を交わした人物がなんとメディスンマンだった。

 変わった服装をしていたので英語は通じるだろうかと思いながら車の窓を開けると、いきなり「こんにちは」と日本語で挨拶された。このメディスンマンは若い頃軍隊にいて日本に2年ほど駐留したことがあるとのこと。私がナバホの土地に何も知らずに突然やって来たので、そこに違和感なく馴染めるようにと小さなセレモニーをしてくれた。このメディスンマンと、もう1人メキシコから遥々訪れていたメディスンマンが、私を様々な方法で癒してくれた。

 このSun Danceというセレモニーは元々ナバホ族の伝統ではなく、ラコタ族など平原インディアンの人びとの伝統なのだが、今は全米各地で様々部族によって行われている。Sun Dancerは4日間断食し、炎天下で一日中踊り続ける。家族、友人、コミュニティ、そして世界中の人びとのヒーリングを祈って踊るのである。

 Sun Dancerは4年間のコミットメントをしなければならない。つまり、一旦Sun Dancerとなったら4年間毎年来て4日間踊らねばならない。Sun Dancerの中には背中や胸、腕などに小枝を突き刺し、血を流しながら踊り続ける人たちもいる。彼らは一種の生贄なのである。当然身体に傷あとが残るが、彼等にとっては誇らしい勲章のようなものである。

 Dancer以外の人びとはサポーターと呼ばれ、ダンサーをサポートする立場にある。観光気分で見物に来ている人など誰もいない。その会場にいる人たち全員は無私の奉仕精神、自己犠牲の精神に満ちており、感謝の気持ちに満ち溢れていた。私もそのエネルギーに触れ、毎日のように泣いていた。ごく小さなことにも感謝の念が湧いてきて、涙が出てくるのである。これは人生を変える体験だった。その後、部族政府から「面接をしたい」と連絡があり、ナバホ国に住んで働くことになってしまった。


ナバホ国部族政府からの手記 第二十一章 ~ナバホ国での最後の1ヶ月 ~
ナバホ国部族政府からの手記 第二十章 ~ディネ(ナバホ)の言葉、名前 ~
ナバホ国部族政府からの手記 第十九章 ~ ピヨーテのパワー ~
ナバホ国部族政府からの手記 第十八章 ~治療院の近況 ~
ナバホ国部族政府からの手記 第十七章 ~ナバホ族とユート族の違い ~
ナバホ国部族政府からの手記 第十六章 ~ スキン・ウォーカーと黒魔術 ~
ナバホ国部族政府からの手記 第十五章 ~ナバホ国内の観光地 ~
ナバホ国部族政府からの手記 第十四章 ~ ナバホ国内の政治・宗教観 ~
ナバホ国部族政府からの手記 第十三章 ~メディスン・マンの役割 ~
ナバホ国部族政府からの手記 第十二章~寄宿学校世代 ~ 
ナバホ国部族政府からの手記 第十一章 ~ナバホ警察 ~
ナバホ国部族政府からの手記 第十章 ~ アングロという言葉 ~
ナバホ国部族政府からの手記 第九章~ ナバホ国内の恋愛・結婚事情 ~
ナバホ国部族政府からの手記 第八章 ~ アートセラピーとファミリーセラピー~
ナバホ国部族政府からの手記 第七章 ~住宅事情~
ナバホ国部族政府からの手記 第六章 ~ サバイバルスキル ~
ナバホ国部族政府からの手記 第五章 ~ スウェット・ロッジ(Sweat Lodge) ~
ナバホ国部族政府からの手記 第四章 ~ アイデンティティについて ~
ナバホ国部族政府からの手記 第三章 ~ 荒野と精霊 ~
ナバホ国部族政府からの手記 第二章 ~ シップロックの治療院で ~

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