reports

LIFE STYLE

back
prev_btnnext_btn
title

ナバホ国部族政府からの手記 第二章 ~ シップロックの治療院で ~

ナバホ国で働く日本人アートセラピスト~北川のぞみ~

leader from from
北川のぞみ アメリカ
day
2004-08-09
 

シップロック

 ナバホ国は巨大で、アリゾナ州、ニューメキシコ州、ユタ州の3つの州に広がっている。私が働くことになった施設はニューメキシコ州シップロックにある。シップロックは首都ウィンドウロックから車で2時間、「Four Corners Area」と呼ばれる地域にある。全米で唯一、4つの州(ユタ州、コロラド州、アリゾナ州、ニューメキシコ州)の境目が十字に交差する場所である。

 シップロックの人口は約1万人だが、何もない。かろうじてファーストフードのお店やスーパーマーケットはあるが、映画館などの娯楽施設やレストランなどは皆無である。アジアの食品や有機栽培の野菜などは当然売っていないので、私は週1回、片道40キロの道を車で飛ばしてFarmingtonという街まで食料品を買出しに行っている。Farmingtonは居留地の外で、人口4万人ほどの普通の街である。

 シップロックには街の名前の由来になった「シップロック」という巨大な岩山がある。街の何処からでも見ることができ、壮観な眺めである。

[シップロック]


ティーンエイジャーのための治療院

 私の働く施設は薬物・アルコール依存症の問題を抱えるナバホのティーンエイジャー(13歳~17歳)のための治療施設である。治療期間は90日間で、この間クライアントはこの施設内で寄宿生活をする。朝6時の起床から夜9時の消灯まで一日中びっしりと詰まったスケジュールをこなさねばならない。

 このプログラムのディレクターは白人男性の心理学者(ナバホ人の妻を持つ)で、私ともう1人のファミリーセラピスト2名、薬物・アルコール中毒カウンセラー3名、看護婦1名、教育スペシャリスト1名、その他レジデンシャル・スタッフ(クライアントの日常の面倒を見るスタッフ)、事務スタッフ、キッチンスタッフ、メンテナンスのスタッフなど計25名ほどのスタッフがいる。

 クライアント数は現時点で14名である。ティーンエイジャーの扱いが難しいのは世界中何処でも同じだろうが、ここでは特に難しい。考えられないような複雑な家庭環境を持つ子供がほとんどで、親の方が治療が必要なケースが非常に多い。親が自分自身の問題で手一杯で、子供の躾などに手がまわらないので、ここに来る子供たちはまったく野放し状態で育ってきている。そんな子供たちがこの厳格なルールとびっしり詰まったスケジュールの中に入れられると、怒り狂う場合が多い。家具を蹴ったり、スタッフを罵倒したりなどは日常茶飯事である。しかし、スタッフが躾なければ、彼等は永遠に社会に適応できない。

 現在のクライアントは全員男の子なので、暴力行為などで逮捕され、保護観察中の子供も何人かいる。酒酔い運転で逮捕されている子供もいるし、ギャングのメンバーもいる。施設に来たばかりの頃(最初の1~2週間)は大体皆おとなしいが、2~3週間目くらいから反抗し始める。しかし治療期間の終わりにはおとなしくなる。

 私はアートセラピストであり、薬物・アルコール中毒カウンセラーでもあるので、2つの役割を演じている。アートセラピストとしてグループアートセラピーを行い、必要に応じて個人アートセラピーセッションも行う。そしてファミリーセラピストとして、ファミリーセラピーセッションも行う。これは言語的アプローチでやることもあれば、ファミリーアートセラピーという形で行うこともある。

 ナバホの人びとは日本人同様、言葉でなかなか自己表現をしないので、アートが役立つことが多い。個々の家族の問題を探り、できるだけ解決の方向へ導いてゆく。薬物・アルコール中毒カウンセラーは薬物・アルコール乱用に関する教育、再発防止などのグループを行い、さらに個人カウンセリングも行う。忘れてはならないのが、このプログラムでは伝統的なヒーリングセレモニーを治療にとりいれていることである。Sweat Lodgeやメディスンマンによるセレモニー、就寝前の祈りなどである。

 ほとんどのナバホのティーンエイジャーはナバホ語が話せない。なぜなら、親たちが寄宿学校世代で、インディアンであることを恥と感じるような教育を受けてきているためである。彼等は、自分の子供たちには英語をアクセントなく話して一般社会で成功して欲しいという悲しい親心から、あえて子供にナバホ語を教えないのである。この状態が続けば、ナバホ語はじきに滅びるだろう。

 そんなわけで、ナバホのティーンエージャーにとっては英語が母国語となるが、彼等は深刻なアイデンティティの危機に直面している。英語を話し、生活は西洋化する一方だが、価値観はアメリカの主流文化とはまったく異なる。しかし社会に適応するには主流文化の価値観も受け入れなければならない。彼等の苦悩は深い。ティーンエージャーはほとんど自分たちの文化を知らないため、この治療施設ではできるだけ文化的な教育をする。Sweat Lodge、伝統的なセレモニー、ナバホ織り、ドラムや歌、ビーズ細工などを、スタッフが教えている。


ナバホ国部族政府からの手記 第五章 ~ スウェット・ロッジ(Sweat Lodge) ~
ナバホ国部族政府からの手記 第四章 ~ アイデンティティについて ~
ナバホ国部族政府からの手記 第三章 ~ 荒野と精霊 ~
ナバホ国部族政府からの手記 第一章 ~ Sun Dance (太陽の踊り) ~

このエントリーをはてなブックマークに追加





クリエイティブ・コモンズ メンバー募集 メルマガ 受託型リサーチ レアリゼブックストア サポーター募集 twitter mixi face Flickr