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ナバホ国部族政府からの手記 第四章 ~ アイデンティティについて ~

ナバホ国で働く日本人アートセラピスト~北川のぞみ~

leader from from
北川のぞみ アメリカ
day
2004-10-16
 

ナバホと日本

 ナナバホ国で働き始めて気がついたことは、日本の文化とナバホの文化が非常に似ているという点である。彼等の宗教(宗教という言葉は適切ではない。Spiritual Beliefという言葉がもっとふさわしい。)は日本の神道にとても似ている。日本でも動物や巨大な岩、大木などを御神体として祀っている神社がたくさんあるが、基本的に自然界の物は全て神聖で精霊が宿っているという考え方は同じである。

 それと、人に対する敬意の払い方、人とのコミュニケーションの仕方も似ている。目上の人にはもちろん、同僚にもきちんと敬意を払う。日本人同様、激しい感情を表に出すことは良いことではなく、そのため苦しいことがあっても人に言わず、じっと耐え忍ぶことが多い。

 面白いのは、日本人同様、ナバホの人の間でも心身症が非常に多いことである。これは感情をあまり表現しないので、身体症状となって現れているのである。一般のアメリカ人のようにずけずけ物を言うことなく、表現も柔らかい。私はこの職場で働く前は白人に囲まれて仕事をしていたので、その違いは明白だった。文化が近いとこうまで一緒に働くのが楽なものか、と驚いた。

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 それと同時に、自分がどれほどアメリカナイズされていたか気づいた点もある。一般のアメリカ人は常に他人の話を遮る。これは日本ではとても失礼なことなので、私も日本にいたときはしなかった。しかし、アメリカに来てからその点で非常に苦労をした。というのは人の話を遮らないと自分の意見を言う機会がないのである。しかも、意見を言わないと馬鹿だと思われる。大学ではディスカッションへの参加の度合いも成績に関わるし、職場では意見を言わないと仕事をしていないと思われる。日本人であることは不利以外の何物でもなかった。

 しかし、ナバホ国に来て働き始めた頃、人の話を遮っているのが自分1人だと気づいて衝撃を受けた。アメリカ社会で生き延びるために自分の文化、価値観を歪めてきたのである。ナバホの人はきちんと人の話を聞くので、遮る必要はもうない。

 それに伴って気づいたことは、前述のようにほとんどのナバホのティーンエージャーはナバホ語が話せないという事実である。言葉は文化の中核をなすものであり、これが無くなれば、文化は滅びる可能性がある。私がアメリカ主流文化(つまり西洋文化)に適応するために日本人としての価値観を歪めてきたことを思うと、ナバホの人びとの苦労は容易に想像できる。

 社会で成功するには白人化して英語を母国語として生活するのが一番である。しかし、そのつけとして、自分たちの文化、アイデンティティを犠牲にしなければならないだろう。他所から来た私がこんなことを言っても余計なお世話と思われるかもしれないが、ナバホの将来が非常に心配である。このままのペースで西洋化が進めば、この文化は無くなってしまうかもしれないからだ。

先住民のトラウマ

 私は実は北海道出身で、アイヌの人びとに数は少ないが触れたことがある。日本に住んでいた頃はこんな危機感を感じることはなかったが、彼等の苦労も同じものなのだろう、とつらい気持ちになった。クライアントとその家族を見ていると、何世代にも渡ってトラウマが引き継がれてきているのがわかる。

 寄宿学校世代の親たちはナバホであることに恥のような感覚を持ち、ナバホ語アクセントを嫌う。私の同僚もほとんどこの世代であり、寄宿学校でひどい虐待を受けたと言っている。ある同僚は少しでもナバホ語で会話をしていると、寮長に石鹸を口に突っ込まれたりしたそうである。

 それと、7歳くらいで親から引き離されて寮生活をしているので、親の愛情も満足に得られなかった人が多い。学校を卒業して家に戻ったときには親はすっかりアルコール依存症になっていた、というケースも多く、きちんとした親を見たことが無い。そのため、子供を持ってもどう子育てしていいのかわからず、むやみに甘やかしてみたり、逆に虐待したり、と子供の発達にも影響を与えている。

 クライアントの親の中にはまだアルコールやギャンブル依存症で苦しんでいる人がたくさんいて、子供よりも先に治療を受けて欲しいと思ったりもする。家庭内暴力や性的虐待も非常に多い。あとは自殺、アルコールに関わる交通事故死で家族を亡くしているクライアントも非常に多い。日本でも知られているかもしれないが、居留地内の糖尿病率は非常に高い。

 私の同僚もほとんど皆肥満している。これはナバホの伝統的な食生活から離れ、ファーストフードばかり食べている結果である。それ故、糖尿病で苦しむ家族を持つ、あるいはそれで家族をなくしているクライアントも多い。とにかく問題があまりにも多く、何から手をつけていいのかわからないようなケースがほとんどである。私にとっては毎日が戦いである。


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