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ナバホ国部族政府からの手記 第六章 ~ サバイバルスキル ~

ナバホ国で働く日本人アートセラピスト~北川のぞみ~

leader from from
北川のぞみ アメリカ
day
2004-12-08
 

自動車事故

 私がナバホ国にやってきて驚かされたのは、ナバホの人びとのサバイバルスキルである。過酷な環境で生き延びる中で培われてきた強さなのであろう。日本という温室のような場所で生まれ育った私は、時々自分の軟弱さが情けなくなる。

 ナバホ国の自然環境、住環境の厳しさは実際に住んでみないとわからないだろう。「居留地」というのは白人が自分達の都合で勝手に決めたもので、ナバホの人たちの都合などは考慮されていない。ナバホ国の領土のほとんどは不毛の砂漠、荒野である。

 私は12月にカリフォルニア州から引っ越してきたのだが、その頃のカリフォルニア州は雨季だった。日本で言うと梅雨のような状態からいきなりこの凄まじく乾燥した場所にやってくると、なんと手足の皮が剥け始めた。慌てて保湿ローションを塗り始めたが、毎日続けないと肌がボロボロになる。髪も乾燥と強烈な日差しで、染めてもいないのに茶色に脱色されてしまった。

 この辺は標高が高い(海抜1600メートル以上)ので、紫外線もきついようだ。ほとんどのナバホの女性はどういうわけか化粧をしない。経済的な理由なのか、文化的な理由なのか、聞いてみてもはっきりした答えは返ってこないのでよくわからない。彼女たちは紫外線対策にも無頓着で、肌は結構ひどいダメージを受けている。そのため、年齢よりかなり老けて見える。

 ここは美容、という観点からすると最悪の場所である。冬は寒く、雪も降るし、夏は灼熱地獄である。すぐ脱水症状を起こすので、水を持たずに外出はできない。何十キロもの間ガソリンスタンドすらない荒野が延々と続く場所が多いので、遠出する際はガソリンスタンドを見つけたらどんなに高くても満タンにしておく必要がある。

 高速や主要な道路は舗装されているが、その他はほとんどとんでもない悪路で、道路とはとても呼べない道も多い。しかも、この辺の土は粘土質で雨が降ると道が泥沼化し、住んでいる場所が陸の孤島となって外出できなくなる人も多い。そのためほとんどのナバホの人は四輪駆動のトラックを運転している。

 こういう悪路のことを「Dirt Road」というが、カリフォルニアから引っ越してきたばかりの私はこのDirt Roadの運転の仕方を知らず、2度も危険な目に遭った。そしてその度にナバホの人に助けてもらった。

 ある日、私はモルガン湖という小さな湖を見に行った。ちょっと泥状になった場所があったが、表面は乾いて見えたのでそのまま進むと、泥にはまって身動きができなくなってしまった。脱出しようともがけばもがくほど沈んでゆく。あきらめて外へ出たが、周辺には何もないし携帯電話も役に立たない。

 途方に暮れて歩き始めると、四駆のトラックが湖の近くに止まっており、中にナバホ男性が座っていた。私が助けを求めると、全身泥まみれになりながら私の車を押してくれた。ロープやチェーンがなかったので、彼は道に落ちていたタイヤを拾い、それを自分のトラックと私の車の間にクッションとして置き、私の車を後ろからトラックで押して泥から救い出してくれた。車へのダメージはゼロだった。ナバホの人はこういうことをいとも簡単にやってのける。

 あるときはチャコ・キャニオン国立公園という巨大遺跡を見に行こうとして道に迷い、その挙句Dirt Roadでタイヤが同時に2本もパンクしてしまった。(あとから同僚にスピードの出し過ぎを指摘された)その瞬間は何が起こったのかわからず、ただスピンする車の中で呆然としていた。車は大きな土の塊とセイジの茂みにぶつかって止まり、命を救われた。

 近くには電柱が何本もあって、あれに衝突していたら死んでいたかもしれない。私は非常に悪運が強く、今まで数々の危険な目に遭っているが、怪我をしたことがない。運転席側のドアが壊れて開かないので、助手席側から出てみると、車は無残な姿になっていた。

 その事故は荒野の真っ只中で起こり、周辺には何もないし、携帯も役に立たない。途方に暮れているとトラックに乗ったナバホの夫婦が通りかかり、わざわざ家に引き返して息子達に私を助けるよう指示してくれた。6人の息子が様々な器具を使って私の車のタイヤに応急処置をすると、「これで少しの間は走れるから家まで来て。家で完全に直せるから」と言い、私を自宅へ誘導した。

 なんと家には修理工場のような設備があった。彼等は「この辺では車を修理してくれる所なんてないから、皆自分で修理するんだよ」と言う。修理してくれただけでなく、外輪やタイヤまでくれた。あまりの親切さに涙が出た。こういう過酷な環境で生きている彼等には、自分たちで何でもやってしまう強さと、助け合いの精神がある。ナバホ国では失業率が高く、所得レベルも非常に低いにもかかわらず、ホームレスや物乞いの人を見たことがない。人は物質的に豊かになり過ぎるとこういう美しさを忘れてしまうのかもしれない。


ナバホ国部族政府からの手記 第八章 ~ アートセラピーとファミリーセラピー~
ナバホ国部族政府からの手記 第七章 ~住宅事情~
ナバホ国部族政府からの手記 第五章 ~ スウェット・ロッジ(Sweat Lodge) ~
ナバホ国部族政府からの手記 第四章 ~ アイデンティティについて ~
ナバホ国部族政府からの手記 第三章 ~ 荒野と精霊 ~
ナバホ国部族政府からの手記 第二章 ~ シップロックの治療院で ~
ナバホ国部族政府からの手記 第一章 ~ Sun Dance (太陽の踊り) ~

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