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ナバホ国部族政府からの手記 第八章 ~ アートセラピーとファミリーセラピー~

ナバホ国で働く日本人アートセラピスト~北川のぞみ~

leader from from
北川のぞみ アメリカ
day
2005-02-05
 

二つの役割 ~アートセラピーとファミリーセラピー~

 私は職場で2つの役割を演じている。ひとつはアートセラピスト、もうひとつはファミリー・セラピストである。アートセラピーは心理療法のひとつで、言葉の代わりにアートという媒体を使って心理的なトラウマや葛藤などを表現させ、それを通じて治療を行うものである。

 ファミリーセラピーでは、クライアントの症状は家族全体の病理の表れであるという考えのもとにセラピーを行う。つまり、家族全体の病んだ部分を癒すことによって、クライアントの症状が改善されるという考え方である。

アートセラピー

 アートセラピーの方は、週に1回グループ・アートセラピーを行い、1~2人のクライアントに対して個人アートセラピーを行っている。グループではその都度クライアントにテーマを与えて作品を作ってもらい、そのあとディスカッションをする。1人1人のクライアントに作品について語ってもらい、他のメンバーが質問をしたり感想を述べたりする。テーマは初めのうちは比較的軽い、心理的負担の少ないものを選ぶ。

 更に感情を象徴的に表現してもらうために、ある程度の方向性を指示する。最初のテーマは大体、「あなたという人間を樹木として表現してください」で、その木の周辺の環境も表現してもらう。あるクライアントは全く葉のない、枯れかけた木として自分を表現した。

 一緒にお酒を飲んだりドラッグをやっていた仲間はこの木にダートの的を貼り付け、ダートを投げつけている。鳥が空から糞を落とし、木の近くにはビールの空き缶、酒瓶が散乱している。周り中から痛めつけられ、生命を失いつつある自分がそこに表現されている。

 クライアントの表現力の豊かさにはいつも驚かされる。その後、少しずつ深いテーマへと移行してゆく。例えば「今までの人生でもっとも悲しかった日」、「どうしても許せない人」などである。初めのうち、クライアントはアートセラピストにも他のメンバーにも信頼感を持っていないので、深いテーマを与えても表面的なものしか現れない。

 信頼感を深まるにつれ、作品に表現する内容もディスカッションで話す内容も、より深いものへと変化してゆく。クライアントの中には家族を亡くしたり、親に捨てられた子も多く、「もっとも悲しかった日」では親や兄弟姉妹のお葬式、1人で置き去りにされた日、などが表現される。

 皆多くは語らないが、作品に十分すぎるほど表現される。「許せない人」も親を表現するクライアントが多い。治療期間の半ばには「自分が今治療の上でどの辺りにいるか山で表現する」というテーマを与える。そしてその作品のどこかに自分を置いてもらう。あるクライアントは氷と雪に覆われた山の頂点から下に転がり落ちる自分を表現した。

 ディスカッションでは「一旦頂上に上がったと思ったけれど、ここ(治療院)を退院したあと再発(再びお酒、ドラッグに走ること)するかもしれない」と退院後の不安を表現する。別なクライアントはエベレストのように高い山をようやく上り始めた自分を表現し、その頂上に「鍵」を描いた。

 ディスカッションでは「ここ(山の底部)に長い間1人で住んでいたけれど、やっと登り始めた。頂上には私の人生の扉を開く鍵がある」と言う。最後のグループでは「自分が今人生のどの辺りにいるのかを橋を使って表現する」というテーマを与える。橋の途中に座り込み、その傍らに酒瓶があるという悲しい姿を表現するクライアントもいれば、木々も草花も枯れ果てた場所から生命に満ち溢れた世界へと渡ってゆく姿を描くクライアントもいる。

 最後の作品で表現されたもので大体そのクライアントが再発するかどうかわかる。

ファミリーセラピー

 ファミリーセラピーは、週1回ファミリーセッションを行う。クライアントと親(ほとんどは母親)と同時に会って家庭内の問題を解決してゆく。ほとんどのケースではクライアントが親に対してものすごい怒りを抱えており、それを表現させることで問題を解決してゆく。

 このプロセスは非常に感情的になり、クライアントも親もセッション中によく泣いたり叫んだりする。その他、肉親の死に対する悲しみを表現してこなかったことによる未解決の感情をほぐしてゆく作業も行う。もっと難しいケースでは家庭内暴力、性的虐待などの深刻なトラウマが存在する場合もある。毎週金曜日はファミリー・デイといい、クライアントの家族を招いてクラスを行う。

 クラスではクライアントの親に対して子供のしつけ、ドラッグやお酒に関する教育、家庭内暴力や虐待に関する教育などを行う自分達の家庭に問題があると思っていない親もたくさんいるので、こういった教育は非常に重要である。このファミリー・デイに個々の家族とファミリーセラピーセッションを行い、更に深く、個人的な問題を探ってゆく。

 ほとんどの子供は家庭内の問題が原因でお酒やドラッグに走っているので、ファミリーセラピーは治療上、非常に重要な部分である。私はアートセラピーをファミリーセラピーにも使う。家族で1つの作品を作ってもらうこともあれば、グループや個人セッションでクライアントが作った作品を親に見せることもある。作品を見て泣き出す親もいる。言葉では表現できない苦しみが1つの作品の中に表現されている。作品を見ることでそれにやっと気づく親も多い。アートは言葉より多くを語る。


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