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ナバホ国部族政府からの手記 第九章~ ナバホ国内の恋愛・結婚事情 ~

ナバホ国で働く日本人アートセラピスト~北川のぞみ~

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北川のぞみ アメリカ
day
2005-03-05
 

ナバホの結婚

 ナバホの人たちは早婚である。10代で子供を生む女性もたくさんいる。子供の数は多いほど良い、という考え方のようである。あるとき、同僚の1人が「17歳の娘が妊娠した」と打ち明けてくれた。どうするのか聞くと、「私もあの子を17歳のときに産んだ」と言い、「本人に選択させる」とのこと。

 中絶はディネの文化(「ナバホ」という言葉は実はスペイン人が勝手につけた名前で、本来は彼等の言葉で「ディネ」という。以後、ディネと呼ぶことにする)の中でタブーなのかと聞くと、「多くの人は中絶を正しいことだとは思っていない」という答えが返ってきた。

 そんなわけで、20代前半で、もう子供が2~3人いるのは珍しくない。私はディネの男性と恋愛したことはないが、ひとの話を聞いているとアメリカの主流文化と違って「無償の愛」が存在するように思う。

 私の同僚の1人は今のご主人と出会ったとき、3人の子供を持つシングル・マザーだった。彼は別な街で働いていたが、彼女に会いにたびたび彼女の家に現れるようになる。

 彼女は「私は3人の子持ちでフルタイムで働いて、パートで学校に通っているのよ。誰かと2人で過ごす時間なんてない」とキッパリ言ったが、彼は何も言わずにただ彼女の子供の面倒を見てくれるようになる。その後、彼は仕事を辞めて彼女の住む街に引越し、そこで新しい仕事、しかも夜の仕事を見つけて、彼女が学校へ行っている間子供の面倒をみてくれるようになる。

 その後2人は結婚し、ご主人はずっと彼女のサポートをし続ける。こういう話はナバホ国(これは正式名称なので変えられない)では珍しくない。ある知人は離婚した後、4人の子供を抱えて飢え死にしそうな状況に陥っていたが、友人の男性がサポートを申し出て、友人としての距離を保ちながら経済的な援助をしてくれるようになった。その後、2人の間に愛が芽生え、結婚に至る。

 アメリカの主流文化の恋愛はいつも「ギブアンドテイク」がついてまわるように思う。もちろん親から子供への愛はどの文化でも無償の愛であるが、男女間の恋愛において、無償の愛はあまり見かけない。

+++



 ディネ社会では結婚について難しい問題がある。ディネ文化には「クラン」(母系氏族)というものが存在する。これはディネ(ナバホ)部族の中で更に細かく分かれた小部族のようなもので、「泥のクラン」「苦い水のクラン」などユニークな名前がついている。

 出身地などによって大体わかるらしい。ディネの人びとは普段は大体英語でコミュニケートするが、自己紹介するときは必ずクランと出身地を言う。そしてこのクランと出身地の部分を必ずディネ語(ナバホ語)で言う。これが彼等のアイデンティティなのである。

 私が自己紹介するときは最後に必ず「私は日本から来ました。クランはありません。」と言うが、大抵の人は笑ってくれる。私の上司(白人)は「私の先祖はスコットランドとスウェーデンから来ました」とディネ語で言うことができる。同じクランに属していると、血のつながりがなくとも(年齢などによって)叔父さん、叔母さん、甥、姪、姉妹、兄弟などと呼び合う。

 そのため、ある男女が恋に落ちても、クランが同じだと近親婚とみなされて結婚できないのである。たまにこのタブーを破る人たちがいるそうだが、その場合は居留地の外へ出てゆくそうである。同僚やクライアントによると、誰か心惹かれる人に出会った場合、まずクランを確認するそうである。それで悲劇は避けられるわけである。

 ディネ社会は元々母系社会で、クランは母方の家系から受け継がれる。伝統的には男女は結婚すると花婿が花嫁の家に「婿入り」して姓を変え、花嫁の両親と一緒に暮らす形が取られていたようだが、それは西洋化とともに変わってきているようだ。現在は西洋式に結婚時に夫の姓に変える女性がほとんどだそうである。しかし、一族がかたまって一箇所に住む、という伝統をまだ守っている人たちは多い。

 私の職場には2人、ディネではないがディネ女性と結婚している男性がいる(1人は白人、もう1人はメキシコ系アメリカ人)。文化に適応するのは結構大変そうである。ディネの人たちは同じディネ同士で結婚するのが望ましいと考えているが、他の部族の人やメキシコ系の人は文化が似ているので受け入れ易いようである。日本人と結婚しているディネの人も少なからずいるようだ。

 しかし、白人や黒人は文化があまりに違うため、受け入れるのは少々難しいようである。特に白人は迫害された歴史があるため、抵抗感は強い。しかし、一旦家族の一員として受け入れるとその後はまったく差別はないようである。前述の男性2人も奥さんの家族と円満に交流しているようである。


ナバホ国部族政府からの手記 第十一章 ~ナバホ警察 ~
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