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ナバホ国部族政府からの手記 第十章 ~ アングロという言葉 ~

ナバホ国で働く日本人アートセラピスト~北川のぞみ~

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2005-04-17
 

 同じアメリカ国内でも、場所によって使う言葉が違う。方言というのではなく、表現が違うのだ。ナバホ国で働き始めてすぐ気づいたことは、ディネ(ナバホの正式名称)の人びとが白人のことを「Anglo」と呼ぶことだった。

 ニューヨーク州やカリフォルニア州では聞いたことがない表現である。通常の英語であれば白人は「Caucasian」あるいは「White」と呼ばれる。「アングロ」とはまちがいなく「アングロ・サクソン」から来ていると思うのだが、詳しい由来は誰に聞いても知らないと言う。

 ディネの同僚が集まっていたときに何故「Caucasian」や「White」と言わないのか聞いてみたことがある。1人は「『White』はあまりに直接的で失礼な感じがする」と言う。別な人は「『White』という言葉は忌まわしい歴史を思い起こさせるので使いたくない」とのこと。「Caucasian」は口語的ではないと考える人もいるようだ。(確かに公的な書類などに使われることが多い。)

 しかし、アングロ・サクソンではない白人もいる。シップロックには大きな総合病院があり、そこで働くユダヤ系の医師は多い。彼らもひとまとめに「アングロ」と呼ばれている。居留地で働いているような医師はそういうことに理解があるのだろうが、これが例えば民族的なアイデンティティが強い人びとの多いニューヨーク市内であれば問題になる可能性はある。

 それで私はまた同僚に「ユダヤ系の人は?彼等はアングロ・サクソンじゃないけど」と尋ねると「White is white」(白人は白人だ)という答えが返ってきた。ディネの人びとは自分たちのアイデンティティには口うるさいが、他の民族のアイデンティティには結構無頓着なところがある。

 日本の文化と中国の文化をごちゃ混ぜにする人も多い。いずれにしても、彼らの話を総合すると「白人にまつわる忌まわしい歴史を思い出したくないがためにあえて婉曲な表現を用いている」というのが本音のようである。

+++



 私たちの治療プログラムでディネでない職員は日本人である私、白人の上司、メキシコ系アメリカ人のカウンセラーの3名だけである。白人の上司はディレクターで、いわばプログラムのトップである。よく観察していると、彼には白人であるが故の苦労が多いのがわかる。

 例えば、彼がディネの職員たちの主張に同意しないと、それが例えば論理的に正しくても「彼は結局アングロだから、私たちのことは理解できないんだ」という方向に話が流れてしまったりする。特に彼がプログラムで行う伝統的なヒーリング・セレモニーに関して口を出すと、ディネの職員は過剰反応してかなり感情的になる。

 それと文化の違いから起こる摩擦もある。これは日本と似ている部分だが、ディネの文化では全体の合意、いわゆるコンセンサスが重要である。しかし、これは効率を優先するアメリカ主流文化と相容れない。

 アメリカ主流文化では上層部が決定し、下のものが従うことが多い。しかし私たちは何か1つ決断するのに何時間も話し合ったりすることがある。確かにこれは効率的とは言えない。時間的余裕がないときもあり、西洋人であるディレクターは時々忍耐を失って「私はディレクターなんだから1人で決定する権利がある」などと言ってしまう。そうなるとまたディネの職員は過剰反応し、「やっぱり彼はアングロだから・・・」という方向に流れる。

 私は中立的なアジア人であり、しかも文化が似ているのでそういう攻撃を受けることはない。メキシコ系アメリカ人の職員も同様である。たった1つの言葉でも、細かく分析してゆくとその地域の歴史や葛藤が見えてくるものである。ディネの人びとの白人に対する不信感は今だ根強い。


ナバホ国部族政府からの手記 第二十一章 ~ナバホ国での最後の1ヶ月 ~
ナバホ国部族政府からの手記 第二十章 ~ディネ(ナバホ)の言葉、名前 ~
ナバホ国部族政府からの手記 第十九章 ~ ピヨーテのパワー ~
ナバホ国部族政府からの手記 第十八章 ~治療院の近況 ~
ナバホ国部族政府からの手記 第十七章 ~ナバホ族とユート族の違い ~
ナバホ国部族政府からの手記 第十六章 ~ スキン・ウォーカーと黒魔術 ~
ナバホ国部族政府からの手記 第十五章 ~ナバホ国内の観光地 ~
ナバホ国部族政府からの手記 第十四章 ~ ナバホ国内の政治・宗教観 ~
ナバホ国部族政府からの手記 第十三章 ~メディスン・マンの役割 ~
ナバホ国部族政府からの手記 第十二章~寄宿学校世代 ~ 
ナバホ国部族政府からの手記 第十一章 ~ナバホ警察 ~
ナバホ国部族政府からの手記 第九章~ ナバホ国内の恋愛・結婚事情 ~
ナバホ国部族政府からの手記 第八章 ~ アートセラピーとファミリーセラピー~
ナバホ国部族政府からの手記 第七章 ~住宅事情~
ナバホ国部族政府からの手記 第六章 ~ サバイバルスキル ~
ナバホ国部族政府からの手記 第五章 ~ スウェット・ロッジ(Sweat Lodge) ~
ナバホ国部族政府からの手記 第四章 ~ アイデンティティについて ~
ナバホ国部族政府からの手記 第三章 ~ 荒野と精霊 ~
ナバホ国部族政府からの手記 第二章 ~ シップロックの治療院で ~
ナバホ国部族政府からの手記 第一章 ~ Sun Dance (太陽の踊り) ~

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