reports

LIFE STYLE

back
prev_btnnext_btn
title

ナバホ国部族政府からの手記 第十一章 ~ナバホ警察 ~

ナバホ国で働く日本人アートセラピスト~北川のぞみ~

leader from from
北川のぞみ アメリカ
day
2005-05-21
 

ナバホ国の交通事情

 私は最近、スピード違反でナバホ警察に捕まった。スピード違反で捕まったのはこれが生まれて初めてのことである。3年前に免許を取得して以来、3回警察に止められたことがあったが、いずれも平謝りすると「今後、気をつけるように」と注意されただけでチケットは切られなかった。どうも男性の警官は女性ドライバーに甘いようだ。

 しかし、今回は女性警官で、しかも制限速度55マイル(88キロ)のところを80マイル(128キロ)で暴走していたので、逃れようはなかった。対向車線をナバホ警察の車が走ってきたのに気づき、慌ててブレーキを踏んだが、72マイル(115キロ)にまでしか落ちなかった。

 ナバホ警察の女性警察官はにこやかに「スピード違反です」と言い、即座にチケットを切られた。罰金はいくらなのか気になったが、シップロックの裁判所に電話をして金額を聞くよう指示された。電話をすると「71ドル50セント」という何とも半端な金額の罰金を支払うように言われた。ナバホ国内は所得水準が低いせいか、罰金も安い。17マイルオーバーは居留地の外であればもっと高いはずだ。

+++



 居留地内で州の警察は何もできない。ここは自治権が認められた地域なので、事件が起きたときはナバホ警察か、FBIが捜査する。恐ろしいのは、この広大なナバホ国をカバーするだけのマンパワーがナバホ警察にはないことだ。

 本当かどうかはわからないが、私の同僚は「シップロックには警官が3人しかいない」と言う。シップロックの人口は1万人である。同僚やクライアント、クライアントの家族はよく「ナバホ警察は何もしてくれない」とこぼす。それは明らかに人手が足りなくて、些細な事件には手がまわらないからだ。

 私は制限速度55マイル(88キロ)のところを80マイル(128キロ)で暴走していたと書いたが、私はスピード狂というわけではない。私は現在コロラド州コルテスからニューメキシコ州シップロックまで60キロの道のりを通勤しているが、ユート・マウンテン・インディアン居留地とナバホインディアン居留地を走りぬける。

 その間は、はっきり言って無法地帯である。この道のりを通勤している人はたくさんいるが、制限速度を守っていたのでは時間がかかって仕様がないので誰も制限速度は守らない。私が時速80マイル(128キロ)で走っていても、どんどん追い越される。

 多くの人は時速90~100マイル(144~160キロ)で暴走している。周囲は何もない荒野と奇岩だけの場所で、警察の車を見かけることはない。しかしナバホ警察はシップロックの入り口で時折待ち構えている。私が捕まったのはシップロックにかなり近い場所だったが、その辺りで警察の車を見ることはほとんどない。

  もうひとつ恐ろしいことは、居留地内では無免許で運転している人、保険なしで運転している人、飲酒運転している人、が結構いることだ。ここは車なしでは何処にも行けないので、無免許運転の罰金も安い。

 以前無免許運転で捕まったクライアントは罰金がたったの50ドルだったと言う。しかし飲酒運転で捕まると罪は重い。数を重ねると刑務所で服役しなければならない。ナバホ国内ではいたるところに「Don’t drink and drive」(飲酒運転するな)という標識が立っている。アルコール依存症の問題が深刻なため、ナバホ警察も飲酒運転の取り締まりには厳しい。

  ナバホ国には自治権があり、独自の警察もあるが、車の免許の発行や車の登録はやはり州が行っている。経済的な理由から保険なしで運転する人があまりに多いため、ニューメキシコ州では「Uninsured motorist coverage」(非保険加入者と事故を起こした際の補償)に加入していなければ、免許も取得できないし、車も登録できない。そのため、他の州に比べて保険料が高くつく。

 ナバホ国内で殺人などの凶悪犯罪が起きた場合、FBIが乗り出してくるが、それでもこの広大で無法地帯の広がる居留地内では犯人が捕まらないことが結構あるそうだ。ナバホ警察のマンパワー不足から、ディネの人びとは自衛のために銃を持つ人も多い。

 不幸なことにアルコールやドラッグの影響下で、その銃を使って人を殺してしまう人もいる。ドラッグの捜査なども人手が足りなくておざなりになっているようだ。ほとんどの凶悪犯罪はアルコールやドラッグがらみで起こっているので、依存症治療施設の増設、ドラッグ売買の摘発、などが必要だろう。しかし、何よりも先にナバホ警察の警官の数をもっと増やして欲しいものである。そうすれば私ももう少し安全運転するに違いない。


ナバホ国部族政府からの手記 第十三章 ~メディスン・マンの役割 ~
ナバホ国部族政府からの手記 第十二章~寄宿学校世代 ~ 
ナバホ国部族政府からの手記 第十章 ~ アングロという言葉 ~
ナバホ国部族政府からの手記 第九章~ ナバホ国内の恋愛・結婚事情 ~
ナバホ国部族政府からの手記 第八章 ~ アートセラピーとファミリーセラピー~
ナバホ国部族政府からの手記 第七章 ~住宅事情~
ナバホ国部族政府からの手記 第六章 ~ サバイバルスキル ~
ナバホ国部族政府からの手記 第五章 ~ スウェット・ロッジ(Sweat Lodge) ~
ナバホ国部族政府からの手記 第四章 ~ アイデンティティについて ~
ナバホ国部族政府からの手記 第三章 ~ 荒野と精霊 ~
ナバホ国部族政府からの手記 第二章 ~ シップロックの治療院で ~
ナバホ国部族政府からの手記 第一章 ~ Sun Dance (太陽の踊り) ~

このエントリーをはてなブックマークに追加





クリエイティブ・コモンズ メンバー募集 メルマガ 受託型リサーチ レアリゼブックストア サポーター募集 twitter mixi face Flickr