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ナバホ国部族政府からの手記 第十二章~寄宿学校世代 ~ 

ナバホ国で働く日本人アートセラピスト~北川のぞみ~

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北川のぞみ アメリカ
day
2005-07-02
 

寄宿学校世代

 以前に「寄宿学校世代」という言葉を何度か使ってきたが、日本人にはあまり馴染みがないと思われる。寄宿学校制度はアメリカ連邦政府がインディアンを白人文化に同化させるために考え出した政策の1つで、1880年代後半から始まり、1969年まで続いていた。(カナダでは1970年代まで続いていたそうである)

 6~7歳のインディアンの子供たちを無理やり親から引き離し、居留地から離れた寄宿学校に入れ、彼等の言語、文化、宗教をとことん否定する教育を行った。この寄宿学校では考えられないような虐待が行われていたそうである。

 英語を使うことやキリスト教を信じること強要したり、逆らう子供に身体的虐待を加えたり、神父や牧師による性的行為の強要が行われていた。殺された子供たちも数多くいるそうだ。この寄宿学校制度は今なおナバホ国の人びとの心に深い傷を残している。

 私の同僚の中には寄宿学校を体験した40代~50代の人も結構いる。1969年当時に7歳くらいだった人、つまり現在43歳くらいの人が最後の世代だ。皆ひどいトラウマ(心的外傷)を受けている。学校内でナバホ語で少しでも話すと、石鹸を口に押し込まれたりする虐待を受けたそうだ。

 この寄宿学校制度の最大の罪は子供達の本来の文化を否定し、ディネ(ナバホの正式名称)であることを恥と感じるような教育をしたことである。私の同僚はよく「BIAメンタリティ」という言葉を使う。もちろん私は最初どういう意味か理解できなかったのだが、同僚が説明してくれた。BIAとはBureau of Indian Affairs (インディアン局)という連邦政府の一部のことで、かつてはネイティブ・アメリカンの人びとにとっては「敵」と言える存在だった。BIAは寄宿学校制度を含む、ありとあらゆる同化政策を作り上げ、ネイティブ・アメリカンの人びとのアイデンティティを破壊してきた。

 「BIAメンタリティ」とは、平たく言ってしまえば「奴隷根性」のような意味で、アメリカ連邦政府に媚び、キリスト教徒になり、ナバホ語を話さず、ディネであることを恥と思っている人びとの姿勢や考え方を指す。しかし、これはアメリカ主流文化の中で生き延びていくためのサバイバルスキルであり、彼らを責めることはできない。

 以前の章でも触れたが、この寄宿学校世代の人びとは、子供達に同じ苦労をして欲しくないという親心から、あえて家庭でナバホ語を教えない。居留地の奥地に行くと少し事情は違うが、外の世界に近いシップロックなどでは、ほとんどのティーンエージャーがナバホ語を話すことができない。

 親は子供にナバホ語アクセントのない英語を話し、教育を受け、主流文化の中で成功して欲しいと切に願っている。しかし、言語は文化の中心をなすもので、ナバホ語を話せない子供達は一種のアイデンティティの危機を抱えている。

 問題はそれだけではない。6~7歳で親から引き離された寄宿学校の世代は、親からの温かい愛情を受けずに育っているため、どういうふうに子育てをしていいのかわからないのだ。以前の章でも触れたが、まず躾のしかたがわからない。そのため、子供をむやみに甘やかしたり、逆に虐待してしまったりする。

 寄宿学校では体罰によって躾を受けている人が多いため、同じ方法を使う人もいる。それは虐待だと私たちが指摘しても、「私たちはこういう苦労を乗り越えて育ってきた。これくらいは虐待とは言えない」などと主張する親もいる。逆に寄宿学校であまりにひどいトラウマを受けたため、子供にはそのような思いをして欲しくないと、とことん甘やかす親も多い。躾を受けたことのない子供は何でも自分の思い通りになると信じ、それが犯罪行為にまで発展してゆく。このような家族に対するファミリーセラピーでは、親も一緒に治療しなければいけないケースが多々ある。

  また、この寄宿世代の親たち(クライアントの祖父母の世代)は子供を奪われた絶望感やその他の問題(貧困、疎外感など)からアルコール依存症に陥っているケースが非常に多い。現在70~80歳代くらいのディネの人びとの多くは英語を話せない。孫と満足な会話ができない人がたくさんいるのだ。

  こうして、トラウマが世代から世代へと受け継がれ、アルコールやドラッグ依存症の問題も受け継がれてきている。治療も個人個人の問題ではなく、一族全体、何世代にも渡る家庭問題を探っていかなければならないことが多い。私はアメリカ連邦政府がネイティブ・アメリカンの人びとにしてきたことの結果を毎日いやというほど見せつけられている。


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