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ナバホ国部族政府からの手記 第十三章 ~メディスン・マンの役割 ~

ナバホ国で働く日本人アートセラピスト~北川のぞみ~

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北川のぞみ アメリカ
day
2005-08-06
 

メディスン・マン

  私は今の職場でメディスン・マンと一緒に働いている。メディスン・マンと言えば浮世離れしたシャーマン、眼光鋭い老人などを連想する人が多いかもしれない。しかし私の同僚のメディスン・マンは野球帽を被った30代前半の男性である。みんなと冗談を言ったりもする、一見はごく普通の好青年だ。しかし、彼は子供の頃から訓練を受け、ナバホの伝統的な哲学を身に付け、様々なヒーリング・セレモニー(癒しの儀式)を行うことができるれっきとしたメディスン・マンである。

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  かつてナバホ国には300種類以上のヒーリング・セレモニーが存在したそうだが、現在は30種類くらいしか残っていないそうだ。それは後継者不足で多くのセレモニーを行うことのできるメディスンがもう存在しないからだ。

 ナバホのヒーリング・セレモニーでは歌が非常に重要かつ神聖なもので、メディスン・マンが歌によってその場のエネルギーを変え、クライアントを癒すという考え方がある。例えは悪いが、日本の茶道のように1つ1つの動きに間違いがあってはならない。

 歌や動き、方角に1つでも間違いがあると、癒しの効果がなくなるどころか、かえってクライアントにとって害になる場合もあるそうだ。その上、こうした聖なる歌は録音したものを繰り返し聞いて覚えるのではなく師匠(?)のメディスン・マンから口伝えで覚えなければならない。

 多くのメディスン・マンやメディスン・ウーマンは親や祖父母がメディスン・マンあるいはウーマンで、幼い頃からセレモニーを見て育ち、助手のような役割を経て歌やセレモニーの手順を覚えてきたようだ。

 しかし、今の40~50代は寄宿学校の世代で7歳くらいで親から引き離されたため、そういったトレーニングを受ける機会がなかった人が多い。私の同僚のメディスン・マンは寄宿学校の制度が廃止された後の世代なので、トレーニングを受ける機会に恵まれたのだろう。それでも近代社会の子供は毎日学校に通わねばならないので、フルタイムでメディスン・マンになるためのトレーニングは受けられない。そのため、彼が行うことができるセレモニーは数が限られている。

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 彼の職場での役割は、まずクライアントの子供達にナバホ哲学や文化、ナバホ語を教えること、週1回スエット・ロッジを行うこと、必要に応じてヒーリング・セレモニーを行うこと、伝統的なカウンセリングを行うことである。クライアントが悪夢に悩まされているときや悪い霊が見えると訴えるときは彼の出番である。つい最近も、悪夢に悩まされているクライアントのために彼がヒーリング・セレモニーを行った。日本で言えば、神社の神主のよるお祓いみたいなものである。

  彼は、ときにはスタッフのためにセレモニーを行うこともある。私たちの仕事は一般の人には想像も出来ないほどストレスフルである。ストレスや忙しさのために職場内の人間関係がぎくしゃくすることもある。そういったとき、スタッフの中から「セレモニーが必要だ」という話が出てくる。

 つい先月も3時間かけてスタッフのためのセレモニーが行われた。メディスン・マンの彼は3時間歌い通した。(一番長いセレモニーではメディスン・マンは10日間歌い続けるそうである)彼の専門はAsh Ceremony(灰セレモニー)で、雷に打たれた木の枝を燃やして作った灰を使う。最後には「マウンテン・タバコ」と呼ばれる、様々なハーブを調合して作った煙草をパイプで回し飲みする。

 彼はセレモニーの間はほとんどナバホ語で話すので、私は指示を理解できないこともある。同僚の1人が私に間違いがあってはならないと、横で英語に訳してくれた。終わると何とも言えない平和な気持ちになり、とても仕事をする気になれなかった。

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  メディスンマンは自然現象を自然界からの「教え」として解釈する役割も果たす。以前、フクロウが職場の敷地内の木に止まっていたことがある。スタッフが皆怯え、これが朝のミーティングの重要な話題になった。もちろん私は初め何が問題なのか理解できなかったが、同僚がフクロウは悪いことの起きる前兆だと教えてくれた。

 その当時私たちの職場にはメディスン・マンがいなかったので、別なプログラムのメディスン・マンに相談した。その人は「それは悪い前兆ではない。フクロウは人を暗闇から光へと導く役割を果たす。それはプログラムにとってポジティブなメッセージだ」と解説してくれた。その当時、クライアントの問題行動があまりにひどく、制御不能のような状況に陥っていたのだが、その直後から少しずつ落ち着いていった。

 ナバホ国内ではメディスン・マンの役割はまだ非常に大きい。


ナバホ国部族政府からの手記 第十五章 ~ナバホ国内の観光地 ~
ナバホ国部族政府からの手記 第十四章 ~ ナバホ国内の政治・宗教観 ~
ナバホ国部族政府からの手記 第十二章~寄宿学校世代 ~ 
ナバホ国部族政府からの手記 第十一章 ~ナバホ警察 ~
ナバホ国部族政府からの手記 第十章 ~ アングロという言葉 ~
ナバホ国部族政府からの手記 第九章~ ナバホ国内の恋愛・結婚事情 ~
ナバホ国部族政府からの手記 第八章 ~ アートセラピーとファミリーセラピー~
ナバホ国部族政府からの手記 第一章 ~ Sun Dance (太陽の踊り) ~

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