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ナバホ国部族政府からの手記 第十四章 ~ ナバホ国内の政治・宗教観 ~

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北川のぞみ アメリカ
day
2005-09-23
 

 ディネの人びとは、はっきり言って政治や世界情勢に疎い。昨年の大統領選の際も、40歳代の同僚の1人が「今年は投票に行くつもり。今回が初めてになるわ。」などと言っているのを聞いて驚いた。

 ナバホ国の領土は3つの州に広がっているが、これらの州(ニューメキシコ州、アリゾナ州、ユタ州)は政治的に保守的なことで知られる。私はナバホ国に来るまでは、先住民は少数民族なので当然民主党を支持しているものと信じていたのだが、それは大きな間違いであることに気づいた。

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 現在のアメリカは、日本ではおそらく想像もできないほど宗教と政治が複雑に絡みあっている。私はニューヨークやカリフォルニア州という特にリベラルな場所に住んでいたため、この地域に引っ越してきた際、その保守ぶりには驚かされた。

 日本でも知られていると思うが、ユタ州はモルモン教徒が多く住む州で、婚前交渉、妊娠中絶、同性愛、アルコールやドラッグなどはご法度である。

 現在のブッシュ政権はキリスト教右派と密接に結びついており、妊娠中絶や同性婚には強行な姿勢を貫いている。ニューメキシコ州やアリゾナ州にはかなり保守的なキリスト教徒が多く、これらのモルモン教徒、キリスト教徒が宗教的な理由からブッシュ政権を支持している。

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 もちろんナバホ国内は居留地以外の場所とは文化や宗教が違うが、ディネの人びとが全員伝統的なメディスン・マンを信じているわけではない。

 ディネの人びとの宗教というかスピリチュアリティは、大まかに分けると3つに分類される。1つは「Traditional」(伝統的)と言われ、メディスン・マンにヒーリング・セレモニーを頼んだり、日の出とともに起きて朝の祈りを捧げたりする日本の神道的な信仰である。もう1つはNAC(Native American Church)と呼ばれる、伝統的な信仰とキリスト教を合体させたようなものである。

 NACでは毎週末に「NAC Meeting」と呼ばれるセレモニーが夜を徹して行われる。メディスン・マンの代わりに「Road Man」と呼ばれるキリスト教の牧師とメディスン・マンが融合したような存在の人たちがセレモニーを取り仕切る。

 このミーティングでは「ピヨテ」と呼ばれる幻覚作用のあるサボテンの1種が使われる。ネイティブ・アメリカンのメディスン・マンやロード・マンだけが合法的にセレモニーで使うことを認められているが、それ以外の人たちが使用すると違法ドラッグとして摘発される。3つ目は純粋なキリスト教徒である。

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 ナバホ国で働いて気づいたことは、ディネのキリスト教徒には白人のキリスト教徒よりも更に保守的な考え方の人が多いということだった。クライアントの親の中には狂信的なキリスト教徒もいて、ファミリー・セラピーの最中にまるで宣教師のようにキリストを賛美する発言を繰り返す人もいる。自分の本来の文化を学ぼうとするクライアントにとっては非常につらい状況になる。

 キリスト教徒にしても、伝統的な信仰を持つ人も、NACを毛嫌いする人が多い。幻覚作用のあるピヨテを使用することに抵抗を示す人もいれば、伝統的な教えを使いながら、本来とはまったく違ったセレモニーをしていることに抵抗を感じる人もいる。ピヨテはアステカ帝国に住んでいたインディオの人びとが年に1回祭りで使用していたもので、元々はディネの伝統ではない。

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 ディネのキリスト教徒も宗教的な理由でのみブッシュ政権や共和党を支持する人が多いが、政権のその他の方針については無頓着な人が多い。イラク戦争などについてもメディアで報道されることをそのまま鵜呑みにしているケースがよく見受けられる。その他の伝統的な人やNACを信仰する人びとも、政治に疎い人が多い。ナバホ国には独自の政府があり、独自の大統領がいるので、アメリカ連邦政府や大統領選に興味を示さない人も結構いる。

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 もう1つ居留地外と違う点は、居留地内には限られた職しかないため、軍隊に入る若者が非常に多いことだ。イラクに派遣されたディネの若者はたくさんいるので、その家族たちの思いは複雑である。

 イラクに赴いた息子や娘が正しいことをしている、国にために役立っていると信じたい親たちはブッシュ政権やイラク戦争を支持する。私の同僚の娘さんもイラクに派遣されており、大統領選の前に「私はブッシュに投票する。ケリーが当選すればイラクから撤退することになり、今までの犠牲がただの無駄死になる。」と言っていた。筋金入りのリベラルである私には到底理解できない理屈だが、親心はわかる。

 そんなわけで、ナバホ国内の政治・宗教観というのは個人個人に聞いてみなければ予測できない。私はここに来て以来言葉に気をつけるようになり、無用なトラブルを避けるために同僚と政治の話はしないようにしている。


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