reports

LIFE STYLE

back
prev_btnnext_btn
title

ナバホ国部族政府からの手記 第十六章 ~ スキン・ウォーカーと黒魔術 ~

leader from from
北川のぞみ アメリカ
day
2005-11-13
 

  私はナバホ国で働き始めるまで、「スキン・ウォーカー」という言葉を知らなかった。Skin Walkerとは「獣の皮を被って歩く者」という意味だが、実際には魔術のようなものを使って獣などに姿を変えることができるShape Shifter(形を変える者)のことである。迷信と言ってしまえばそれまでだが、ディネの人びとの 多くはこのスキン・ウォーカーをひどく恐れている。

  私の同僚はスキン・ウォーカーにまつわるいろいろな話を教えてくれる。まず、スキン・ウォーカーになるには、メディスン・マン同様、そういう力を持った人に弟子入りしてトレーニングを受ける。最初に自分の家族を1人殺すというイニシエーションをクリアしなければならないそうだ。

 スキン・ウォーカーとしての能力を身につけると、コヨーテなどの動物に姿を変えたり、人を呪い殺したりすることができるようになる。要するに悪魔に魂を売り渡した人、というか黒魔術を使って悪事を行う魔術師のような存在だ。人を癒す役割を果たすメディスン・マンとは対極に位置する。しかし、ある同僚によると、使う力 はメディスン・マンと同じで、ただその意図が違うだけだという説もある。

  私の働くプログラムでも、クライアントがよくスキン・ウォーカーの話を始めるが、これは規則によって禁じられている。クライアントがそういう話を始めるとスタッフが注意してやめさせる。理由は無意味に他のクライアントの恐怖心を煽ることになるし、黒魔術を自分たちの行動の言い訳に使うこともあるからである。

 以前、私のクライアントの1人がファミリー・セラピーのセッションの最中、怒りのあまり壁をパンチしたことがある。そのあと私のオフィスにやってきて、「○○(他のクライアント)がWitch Craft(黒魔術)をやっている。私に呪いをかけてああいう行動を取らせたに違いない。」などと言う。つまり、自分には責任はないということだ。

 私はディネではないので何も言えないだろう、という計算も見え隠れする。そういうときはメディスン・マンの出番なので、私はそのクライアントを同僚のメディスン・マンのところへ連れて行った。あるメディスン・マンはそういう邪悪なエネルギーは信じるから存在すると言う。信じなければ存在しないということだ。人を癒すエネルギーにも同じことが言えるだろう。

  ナバホ国ではこのWitch Craft(黒魔術)が頻繁に行われているらしい。スキン・ウォーカーに限らず、一般の人が友人や親戚に呪いをかけるのだ。私の同僚の1人が教えてくれた話では、彼女の姪のワンピースがある日行方不明になり、探しに探したところ墓地で発見された。そのワンピースの周りには明らかに何か儀式が行われた跡があり、誰かがその姪に呪いをかけていたことがわかったのである。日本で言えば藁人形を使った丑の刻参りに相当する。これは誰にでも起こり得ることで、別に恨みを買わなくても、嫉妬だけでこういった黒魔術が行われることがあるそうだ。

  私はそれを知って以来、恨みを買わないように注意しているが、他人の嫉妬はコントロールのしようがない。新しい家を建てた、昇進した、給料が増えた、などのめでたい話に嫉妬する人がたくさんいるそうだ。それは居留地の生活の厳しさ、貧困などが原因だろう。私の同僚の1人は「ディネではない人に黒魔術を使う人はいないから、安心しなさい」と言う。

 しかし、別な同僚は「髪の毛や爪は黒魔術に使われる可能性があるから、絶対に人目につくような場所に自分の髪の毛や爪を捨ててはいけない」と言う。私はメディスン・マンの力は信じるが、スキン・ウォーカーや黒魔術の力は信じていない。仮に誰かが私に呪いをかけたとしても、影響はないだろう。


ナバホ国部族政府からの手記 第十八章 ~治療院の近況 ~
ナバホ国部族政府からの手記 第十七章 ~ナバホ族とユート族の違い ~
ナバホ国部族政府からの手記 第十五章 ~ナバホ国内の観光地 ~
ナバホ国部族政府からの手記 第十四章 ~ ナバホ国内の政治・宗教観 ~
ナバホ国部族政府からの手記 第十三章 ~メディスン・マンの役割 ~
ナバホ国部族政府からの手記 第十二章~寄宿学校世代 ~ 
ナバホ国部族政府からの手記 第十一章 ~ナバホ警察 ~
ナバホ国部族政府からの手記 第十章 ~ アングロという言葉 ~
ナバホ国部族政府からの手記 第一章 ~ Sun Dance (太陽の踊り) ~

このエントリーをはてなブックマークに追加





クリエイティブ・コモンズ メンバー募集 メルマガ 受託型リサーチ レアリゼブックストア サポーター募集 twitter mixi face Flickr