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ナバホ国部族政府からの手記 第十七章 ~ナバホ族とユート族の違い ~

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2006-01-09
 

ユート族の子供たち

 最近、私が働く治療施設ではディネ(ナバホ)の子供だけでなくお隣のユート族居留地の子供も治療を受けに来ている。最初のユートのクライアントが来る前、私の同僚たちは「ユートの子供たちはワイルドだから・・・」などと敬遠していた。

 私は単なる偏見だろうと軽く見ていたのだが、確かにディネとユートでは大きな違いがあるということに気がついた。ワイルドと日本語で言うと格好よく聞こえるが、英語で子供に対して「Wild」と言うと単に腕白だとか手に負えない等という次元を遥かに超えた意味合いがある。

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  ユートはディネに比べると弱小(?)部族で、居留地の面積も狭いし、人口も少ない。ユート語を話す人もどんどん減少しており、将来的にこの文化は消滅してしまう可能性が高いそうだ。

 ヒーリング・セレモニーを行うことができるメディスン・マンも、ユート族にはもう存在しない。私は個人的に、ディネの文化が生き残っているのはメディスン・マンがまだ多数存在しているからだと思っている。文化の中核をなすものはやはり言語と信仰だろう。

NACミーティング

 悲しいことに、ユート族には古くからの信仰を守る人がもう存在しない。代わりにNAC(Native American Church)のミーティングが数多く行われているそうだ。

 NACミーティングと呼ばれるセレモニーはナバホ国でも行われているが、これは伝統的なヒーリング・セレモニーとキリスト教、アステカ族やラコタ族の伝統を全部ミックスしたようなもので、全米のいろいろな部族の間で行われている。セレモニーはティピーと呼ばれる円錐形の形をしたテントの中で夜を徹して行われる。ティピーはもともとラコタ族が使ってきたものだ。

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  日本でも知られているだろうが、このセレモニーの中で「ピヨーテ」と呼ばれる幻覚作用のあるサボテンが使用される。ピヨーテはネイティブ・アメリカンが宗教的な儀式で使うことのみが法的に認められているが、それ以外の人びとが単にドラッグとして使用すると違法で、逮捕されるそうだ。

 私の同僚の話によると、ピヨーテはもともとメキシコのアステカ族が年に1度だけ儀式で使っていたのをネイティブ・アメリカンの人びとが採用し、NACで頻繁に使うようになったとのこと。長期に渡って使用しても脳に障害は残らないと言われているが、毎週のように使用するのはどうかな、と思う。

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 話がちょっと脱線してしまったが、ユートの人びとはNACを信仰するかキリスト教を信仰するか、あるいはまったく信仰を持たないか、の3つに分かれるそうだ。私たちの治療施設にやってくるユートの子供達はほとんど自分たちの文化、言語、信仰などから完全に切り離されてしまっている。

 つまり、アイデンティティが存在しないのである。アイデンティティのない子供は行動を制約するような価値観もないので、どんなことでも平気でしてしまう。もちろん全員がそうというわけではなく、単なる傾向である。

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  ディネの子供達は親が野放し状態で育てていても、祖父母から教わった伝統的な考え方や信仰を少しでも維持している場合がある。時間をかけて話して諭すと理解する子もいる。

 しかし、私たちのプログラムに治療を受けにやってくるユートの子供はユートの大人たちが手を挙げて私たちのもとに送り込んでくるくらいのなので、筋金入りだ。まず、行動がすごい。女の子が暴れて壁に穴を開ける、他の子供に暴行を加える、スタッフを罵倒し続ける、などである。いくら言って聞かせても罰を与えても動じない。何も怖いものがないのだ。

  困った私たちは、ユート居留地からゲストを迎えてユート文化について講義してもらったことがある。そのゲストの話を聞いていて、私たちは深く納得するものがあった。文化が明らかに違うのだ。

 ディネは母系社会で、女性の力が強いが、ユートは家父長制で、男性優位社会だ。男性的な価値観で社会が動いていると、社会全体も攻撃的になるらしい。

 そのゲストが言うにはユート社会はより個人主義的で、「俺(私)に指図するな」という態度があるそうだ。基本的に1人1人が個人の意志で行動し、個人に説教できるのは祖父母や叔父叔母のみで、親の言うことすら聞かない人が多いとか。

 私たちの施設に来るユートの子供は祖父母や親戚とのつながりがあまりない子が多い。つまり、誰も彼等に指図することはできないというわけだ。「では一体どうすれば?」と私たちが尋ねると、「彼等と同じレベルまで降りて、対等な立場で話さないといけない」「上から押し付けられると反抗するだけだ」という答えが返ってきた。同じネイティブ・アメリカン、しかもお隣同士でここまで文化が違うものかと驚かされた。


ナバホ国部族政府からの手記 第十九章 ~ ピヨーテのパワー ~
ナバホ国部族政府からの手記 第十八章 ~治療院の近況 ~
ナバホ国部族政府からの手記 第十六章 ~ スキン・ウォーカーと黒魔術 ~
ナバホ国部族政府からの手記 第十五章 ~ナバホ国内の観光地 ~
ナバホ国部族政府からの手記 第十四章 ~ ナバホ国内の政治・宗教観 ~
ナバホ国部族政府からの手記 第十三章 ~メディスン・マンの役割 ~
ナバホ国部族政府からの手記 第十二章~寄宿学校世代 ~ 
ナバホ国部族政府からの手記 第十一章 ~ナバホ警察 ~
ナバホ国部族政府からの手記 第十章 ~ アングロという言葉 ~
ナバホ国部族政府からの手記 第一章 ~ Sun Dance (太陽の踊り) ~

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