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ナバホ国部族政府からの手記 第十九章 ~ ピヨーテのパワー ~

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北川のぞみ アメリカ
day
2006-04-02
 

NACミーティングとピヨーテ

 前回NAC(ネイティブ・アメリカン・チャーチ)の説明をした際にピヨーテについて触れたので、今回はピヨーテについてもっと詳しく説明したいと思う。前述のように、ピヨーテは幻覚作用のあるサボテンの一種で、見た目はちょっとグロテスクだ。色は灰色がかった緑色で、きのこのような形をしている。

 NACミーティングで使用されるのは生のピヨーテだが、乾燥させ、パウダー状にしたものを使用する場合もある。NACを信仰する人びとはピヨーテのことを「もっとも聖なる薬」と呼ぶ。ネイティブ・アメリカン文化の中では、薬(Medicine)という言葉は単に飲んだり塗ったりする物理的な薬だけではなく、形而上的なヒーリング効果のことも指す。つまり、ピヨーテによって起こる幻覚などの神秘的な体験を通じて自己を癒すのである。

 実は私はピヨーテを使用したことがある。はっきり言っておくが、私はドラッグを一切やらない人間だ。初めての体験は2003年にSun Danceに参加したときだった。夜中にメキシコ人のメディスン・マンによるセレモニーが行われ、どういうわけかそれに参加することになってしまった。

 これはNACではなく、メキシコのネイティブの人たちに伝わる伝統的なセレモニーのようだった。私が初めてスエット・ロッジに入ったときのように、数人の人が私の身を心配してくれた。多くの人はピヨーテを初めて食べた後にひどい嘔吐に襲われたりして具合が悪くなるそうだ。しかし、その嘔吐を「浄化」と考える人も多い。

 つまり、身体の中にあるネガティブなエネルギーを吐き出す役割を果たすというわけだ。ピヨーテを食べた後に体験する内容は個人個人でまったく異なるそうだ。Sun Dancerの1人が私にセージの束を渡して「これがネガティブな体験からあなたを守ってくれるから」と言った。セージはネガティブなエネルギーから私たちを守ってくれるものと考えられている。私はこのセージの束をセレモニーの間中(一晩中)握り締めていた。

 私はそのセレモニーにマリアンという友人(白人)と一緒に参加したのだが、彼女は「ピヨーテはひどい味だから、オレンジと一緒に食べた方がいいわよ」と言ってオレンジを少し分けてくれた。セレモニーは夜中の11時半頃始まり、祈りのあと、ピヨーテが配られた。

 メディスン・マンが私にとっては初めての体験なので心配し、ごく少量を渡してくれた。確かにひどい味だ。とてつもなく苦い。我慢してゆっくり噛んで食べた。幻覚は起こらなかったが、食べた直後にものすごい悪寒が襲ってきた。身体が一気に冷たくなり、震えで歯の根も合わない状態になった。「この先一体何が起こるのだろう」と不安になったが、セージを握りしめて祈った。その悪寒は5分ほどで嘘のように消え、そのあと身体にエネルギーが満ち溢れてきた。その後、もう1度ピヨーテを食べたが、何の変化も起こらなかった。

 セレモニーは朝の6時まで夜を徹して行われたが、その後も一睡もせずに一日中ボランティア活動に従事した。疲れを感じないのである。夕方、メディスン・マン2人と一緒に座ってSun Danceを見ていたとき、そのうちの1人がオレンジにきな粉のようなものをかけて食べているのを見た。「それ、何ですか?」と尋ねると、私の手のひらにその粉を少量分けてくれた。舐めてみると実に苦い。「これってピヨーテ?」と叫ぶと2人とも笑って頷く。私はその後1時間運転してナバホ国の首都ウィンドウ・ロックに帰る予定だったので、事故でも起こしては大変と思い、丁重にお礼を言ってその粉を返した。

 Sun Danceの会場を後にし、運転し始めたとき、「あれ?道を間違えたかな?」と一瞬思った。周りの風景がまったく違って見えたのだ。日が沈んだ直後でまだ空はうっすらと明るく、岩山にその光が反射している。何もかも信じられないほど美しく、感動のあまり涙が出てきた。私がSun Danceの会場に丸2日間いた間に世界が変わってしまったかのような感覚を覚えた。私は泣きながら運転してホテルに帰った。

 翌日、私はSun Dance会場に戻り、メディスン・マンにこれらの出来事をどう解釈すればいいのか尋ねた。彼は「ピヨーテを食べた直後に身体が冷たくなったのは、古いあなたが死んだから。そのあと生まれ変わったんだよ。世界が違って見えたのも、あなた自身が以前とは違う人間になったからだ。」と言われた。私はひどく納得したが、カリフォルニアに帰って友人にその話をしても、皆「単にドラッグでハイになっていただけでしょ?」などと言われた。


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