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家族送金の光と影- エルサルバドル東部地域の課題 -

家族送金をコミュニティに

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飯塚謡子
day
2003-07-26
 

エルサルバドル訪問

 町じゅうに響く物売りの声、外資系企業のまばゆいネオン、人々で賑わう市場…。2003年1月、開発ワーカーの卵として途上国援助の仕事についている筆者は、初めてエルサルバドルの首都サンサルバドルに降り立った。「バイタリティあふれる国」、これがエルサルバドルに降り立った私の、この国に対する最初の印象であった。

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 エルサルバドルと言っても、多くの人々はイメージがわかないことだろう。同国は北米と南米の中間、ちょうどアメリカ大陸がくびれている中米に位置している。面積は日本の四国程度の小国である。

  80年代前半から10年間、この国はアメリカが支援する時の政権と、ソ連が支援する左翼ゲリラが泥沼の内戦を行っていた。これについてはオリバーストーン監督の映画「サルバドル」等でご存知の方も多いかもしれない。

 90年代前半に停戦合意をし、現在に至っている。筆者が初めて見たエルサルバドルはまさにこれからの国であり、戦後復興期の活気を呈していた。

 その後私はこの国の東部地域を訪問した。この地域は内戦時代にゲリラの本拠地があり激しい戦闘に見舞われ荒廃した。10年経った現在でも復興から取り残され同国でもっとも貧しい地域である。

 ここでこの国に対するイメージは一転する。一日中だるそうに道端に座っている男たち、ゴミだらけで汚い町の通り、ジリジリと照りつける太陽、たちこめる腐敗臭、手入れがされず荒れ果てた農地。停滞と無気力と倦怠感がここを支配している。酷暑のせいか犬までもがだるそうに寝そべっている。

 小さな国のこと、首都から車でわずか数時間の距離である。しかしそこはもはや外国であった。エルサルバドル人は働き者で、かつて「中米の日本」と呼ばれていたそうであるが、この地域にはその言葉を彷彿とさせるものは何もなかった。

 だが私はある不思議な事実に気がついた。同地域はエルサルバドルで最も貧しいはずなのに、建築中の家や新しく綺麗なタイルが張られる等、リフォームされた家が多いのである。

 「この地域は米国に出稼ぎに行く人が多く、なんと3割の家庭が出稼者からの送金を受けている。」と同行してくれた現地の案内人が教えてくれた。なるほど、家族からの仕送りにより家を修復したというわけだ。この地域には産業らしい産業はなく、職についていない者も多い。それなのに日々人々がそれなりの暮らしを送っているのは送金のお陰であったのだ。

出稼ぎの弊害

 エルサルバドルでは海外への出稼ぎが盛んであり、総人口600万人に対し、100万人が出稼ぎに出ているといわれている。その行き先はほとんどが米国である。仕送りを受けている家庭は2000年時点で全国では2割、前述したように東部地域にいたっては3割にものぼり、GDPに占める送金の割合は、同年で13.3%に達している。

 確かに貧しい地方に生まれ育ったら、裕福な国で暮らし、故郷の家族には仕送りをして少しでも楽な生活をさせてやろう、というのは古今東西誰しも考えることだろう。しかし果たして仕送りは良い結果ばかりをもたらしているか?

 面白いデータがある。1999年時点でエルサルバドルの全ての世代において仕送りを受けている人の労働力率(労働可能人口のうち働く意思のある人の比率)は受けていない人に比べて低かったのである。この現象をどう読むか?仕事につかないから仕送りを受けるのか、仕送りがあるから仕事につかないのか?

 あるエルサルバドル人はこう言っていた。「家族送金は害である。それがあるから皆仕事に着こうとしないし、子供に教育を受けさせることもしなくなっている。人々は何もせず、ただ仕送りを待っている。」それが本当だとすると私が感じた東部地域の無気力さ、停滞感の大きな原因は仕送りにあると言えるだろう。

家族送金をコミュニティのために活用する

 それではどうすれば仕送りを東部地域の発展に繋げられるか?その鍵は、いかに家族向け送金を、遅れた社会基盤整備のための投資に廻すことができるかにある。筆者が考える仕送り活用方法は次のとおりである。

・ 在米エルサル人の教育。米国にはホームタウン・アソシエーション(HTA)と呼ばれる在米エルサル人の協会が多く存在し、活動内容としては、エルサル文化の紹介、寄付金集めがメインである。HTAの会員に対し家族送金の負の影響、社会基盤への投資の重要性について教育するとともに、HTAの職員が投資向けの資金集めやエルサルバドル国内の関係者と連携して実際に投資できるよう、必要なトレーニングを実施する。

・ 金融機関を介しての送金の一部を社会投資基金などの基金の財源として徴収する。

・ 米国内でNPOを設立し、エルサルバドルの社会資本整備のための寄付金集めを行い、投資する。

 現在わずかではあるが、在米エルサル人の資金を投資に活用する試みは始まっている。例えばエルサルバドルではFISDL(社会投資基金)と呼ばれる基金があり、学校整備等住民からの要請があったプロジェクトに資金を付けて実施しているが、一部HTAが集めた資金により行われたケースもある。

 こうした試みを上述した枠組みなどを利用して増やし東部地域発展の原動力とするとともに、何らかのインセンティブ(例えば職業訓練を受ける人の受講料を補助する等)を付与することにより、いかに東部の人々の「やる気」を引き出せるか、それが今後政府や開発援助機関に課せられた大きな課題といえるだろう。


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