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スペインにおける日本人移民事情 -たかが紙、されど紙

日本人不法滞在者たち

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松嶋公美 スペイン、マドリッド
day
2004-08-30
 

日本人移民の境遇

 海外在住の日本人が強盗を働いたり、麻薬を密輸したり、売春させられたり、人を撃ち殺したりした話はまず聞いたことがない。貨物トラックの積荷に身を隠したり、ボートで海峡を渡ったりして密入国したという人もないだろう。

  スペインでも、こうしたことは第三世界や途上国からの「不合法」な移民や、ジプシーの仕業とされている。だから「移民」というテーマを考える時、我われ日本人にスポットが当たることはあまりない。しかし、外国に住む我われも「移民」には違いないわけであり、それなりに厄介でやるせない問題やドラマが、日本人の移民生活にも存在するのだ。

 今回は、3ヶ月以上滞在するにあたって避けては通れない「紙(許可証)」について、Sさんの事例を挙げながら見ていきたい。

  「自国ではもはや食べていく途がない」という理由から「やむなく」移住して来た人々とは違い、日本人の場合、選択できる自由がある上で「あえて」移住しているのだが、EU圏外の国籍保有者であるからして、スペインに長期に渡って「合法的」に滞在するのはけっこう難しい。

 日本企業の駐在員やその家族、正規の語学留学生、スペイン人配偶者と結婚しているなどの場合を除いて、条件的には上記の「やむなく」移民と全く同じ境遇に置かれているということを忘れてはならない。

 90日以上合法的に滞在するには「レシデンシア」と呼ばれる居住許可が要るし、さらに働こうとすれば労働許可証「ペルミソ・デ・トラバッホ」が必要になる。

 なんとかスペインに居残りたいとしながらも、この「紙(許可証)」が取れない、また仕事がないために泣く泣く日本に帰国した友人・知人を、私は大勢見送ってきた。

不法滞在という手段

  運悪く見つかれば「強制送還」、という憂き目にあうのを覚悟の上「不法滞在」を決め込むつわものも、当然出てくる。もちろん日本人の話だ。

 世界を放浪中に気に入って住みついたというヒッピー系もいれば、語学の勉強で渡西し学生証の期限が切れてもスペインに居座るタイプ、思い立ったが吉日で包丁一本さらしに巻いて(?)乗り込んで来た板さん、アンダルシアに大挙して押し寄せるフラメンコ留学生と、その形態はさまざま。

 例えばフラメンコ留学の場合、仮に週/40時間の授業を受けたとしても、舞踏・音楽アカデミーに通っていたのでは正規の学生としては滞在できない。スペインでは、大学で専門教科を学ぶか、語学の習得以外では原則的に学生証は発行されないことになっている。よって語学学校に籍を置きながらフラメンコを習う人もいるが、時間と授業料のダブル損失でこれもそう長くは続けていられない。

 不法滞在する日本人の数は、けっして少ないとは言えない。私の見る限り全体の3割といったところだろうか。これはなにも若い人に限ったことではなく、30代後半や40代の人もいる。

 こういった人たちと話をしていて感じるのは「自分たちは、何も悪いことはしていない」という意識が共通してあるということ。

 「犯罪を犯すわけでもなく、誰にも迷惑かけず、自力で生活している」もしくは「お金を落としてあげている」だけなのに、「なぜ白い眼で見られたり、非難されたりしなければならないのか?」と、ほぼ例外なく考えている。

 確かに気持ちは分かるのだが、お世辞にも治安がいいとはいえないこの国で、泥棒に入られたり、首絞め強盗に身包み剥がれたり、また不慮の事故にあったりした場合、不法で滞在していると「出るところにも出られない」という笑えない事態になってしまう。その時この人たちはどうするのだろう?と他人事ながら心配になる。

 例えば、今年の3月に起こったマドリッドの列車テロでも、紙のない移民だった被害者やその家族は「捕まりたくない」という一心から、しばらく身元を明かさなかった人が多かった。

 とりあえず平穏無事な日々を過ごしている間は、「違法」だという実感は湧きにくいもの。たとえ犯罪歴など1つもない善良な日本人だとしても。

日本人Sさんの経緯

 在西3年目に入った29歳の日本人女性Sさんも、そんな不法滞在者の1人だ。

 日本でOLをしながらビデオ・アートの活動にも取り組んでいた彼女は、海外でさらに広くアートの勉強がしたいと、会社を辞めて貯金を資金にマドリッドにある国立大学の美術学部に編入した。

 「語学はさっぱりでしたが、絵や版画の勉強に言葉は必要ないと開き直り、身振り手振りと簡単な英語でなんとか切り抜けました。」 と華奢な見かけによらず、なかなか肝が座っている。

 マドリッドの物価はけっして安くなく、1年後には所持金が底をついてきた。どうやって暮らし続けようか頭をかかえるも、学友の勧めで「スペイン政府奨学金」に申し込むと見事合格。向こう1年は、学費と生活費を政府から支給してもらえることになった。

  「がぜん自信がつき、これを機に積極的に動こうと決めたんです」と言うSさんは、滞在2年目を終える前に、マドリッドで個展を2つ開催するにいたる。

  スペインには、長年絵筆を握っていてもグループ展すら開けないアーティストがゴマンといることを考えると、2年弱しか勉強してないいわば「ひよっ子」のSさんのこの快挙は、「勲章もの」と言っても過言ではない。

 さて、その奨学金の支給もこの春で終了してしまった。1人につき1回、1年のみと定義されているため延長は不可能。Sさんは再度身のふり方を悩んだが、「やっぱり可能な限り残りたい」と、学生証の期限が切れた後もマドリッドに滞在し続けることを決断する。
何か仕事を見つけるつもりだった。


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