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異文化間教育 授業実践 (1) スペイン語を学ぼう♪ 

leader from from
せきじえり 東京
day
2008-06-04
 

異文化間教育の授業実践

 日系ペルー人児童カルロスがはにかみながら黒板の前に出てくる。
「これからカルロスが1~20を発音するからみんなしっかり聞いてリピートしてね」と私。
カルロスは、ウノ、 ドス、トレス…と大きな声でゆっくりと、クラスメートの前で発音のお手本を見せた。

*****


 S小学校に入り浸っていた数年前、私は先生方の好意のもと一般クラスにて授業実践をする機会に恵まれた*1。ここでいう一般クラスとは普通学級のこと。S小学校には多数の外国人児童が在籍しているため市が設置を求めた日本語教室も存在しているが、ペルー、アルゼンチン、ブラジル、ベトナム、フィリピン、エジプト、中国など様々なバックグラウンドを持った児童は、この教室に週数時間通う以外に、一般クラスでも授業を受けるのだ。

 カルロスは日本に来てまだまもない5年生。ひとつ上のお兄ちゃんピサロが6年生に在籍しているため、休み時間も廊下や日本語教室でふたりで遊んで過ごすことが多かった。カルロスの日本語能力は、挨拶に毛が生えた程度。私のことも「センセイ、センセイッ!」と呼んで一生懸命お話してくれるけど、少しするとスペイン語になってしまう。ただ、日本語教室の先生が大好きで、日本語教室で過ごす時間が学校生活の中で一番楽しいためか、「好きな教科は何?」と聞くと「ニホンゴ!」という答えが返ってくる。

 ある時カルロスの担任と「せっかくカルロスがクラスにいるんだから、それをきっかけに他の児童も何か学ぶことができないだろうか」と話し合う機会があった。この先生は市が主催する教員のためのスペイン語講座にも参加しており、学校内でも国際理解担当となっている若手教員。日本語教室担任とも密にコンタクトをとっているため、カルロスの日本語学習進歩をある程度把握している。

 そんな中、「身近な異文化を学びのきっかけにしよう!」ということで生まれたのが授業実践プロジェクト。総合的学習時間を利用して週1回ペースで15回程度 *2、カルロスの母語であるスペイン語を学んだり、ペルーの文化に触れたり、また世界に存在する様々な「異文化」について考えたり、そういったことを通じてクラス内でカルロスに対する理解が高まることを、結果的に彼がクラスに溶け込めやすくなることを期待したのだ。

「2人の学生先生と子どもたち」


第1回目スペイン語授業は自己紹介

 「私の名前は~です」「調子はどう?」など簡単で覚えやすいセンテンスを学んだ。
“メ ジャモ(Me llamo)”、“ジョ ソイ(Yo soy)” や “ケタル?(Qué tal)”など音が面白いためか皆楽しんで発音していた。カルロスは頬杖をついたり、机にうつぶせになったりあまり興味がない様子。友達との会話練習でもそこまで積極的な言動は見られなかった。

 転機は2回目のスペイン語授業。「ありがとう」「どういたしまして」と「私は~歳です」の例文を練習したあと、数字を発音してみようということになった。カルロスに「ちょっとみんなの前でお手本をみせてくれないかなぁ」と手招きしたら、はにかみ顔で前に出てきてくれた。

 ウノ(1)、ドス(2)、トレス(3)、クアトロ(4)…
 と、ゆっくり手本を見せるカルロスの後に続いて37人の児童が復唱していく。驚いたのはその直後。私が作ったプリントには13までの数字しか載せていなかったのに、

 カトルセ(14)、キンセ(15)、ディエシセイス(16)…
 とその上の数まで発音を続けたのだ。一瞬、動揺したクラスメート。驚いて私の顔をみる児童もいたが、皆しっかりと

 カトルセ(14)、キンセ(15)、ディエシセイス(16)…
とカルロスの後に続いて、結局トレインタ(30)まで復唱した。
カルロスはクアトロ(4)の発音以降、プリントを見ようとしなかった。
「だって僕スペイン語できるもん」と主張するように。

 そしてこの日以来私が作ったスペイン語のプリントを一切受け取ろうとしなくなった。スペイン語授業に対するモチベーションも高まったのか、進んでお手本を示したり、日本人児童相手にゆっくりペースで発音してあげたり積極的に参加するようになった。。
そしてクラスの中には

 「カルロスはスペイン語できてすごい」
 という風潮が少しずつ広がっていくように思えた。授業で分からない単語があると休み時間にカルロスに聞きに行く児童もいたという。以前「カルロスは話しかけても無視するんだよなー」と発言したことのある男子児童も、日本語はできないけどスペイン語はできる存在としてカルロスのことを認めていった。(つづく)

*1 本稿は2004年9月から2005年3月まで筆者が実施した「身近な異文化を知ろう」プロジェクトを元に執筆。
*2 実際には17回の授業実践となった。


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藤沢市立S小学校日本語教室

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