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パーマブリッツ – 現代都市に甦る「結(ゆい)」の精神

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緑ゆたか オーストラリア・メルボルン
day
2008-10-04
 

 オーストラリアに「バックヤード・ブリッツ」という人気テレビ番組がある。一般視聴者が推薦した家庭に番組の専門チームが突撃(ブリッツ)し、裏庭を一日で大改造するという趣旨の長寿番組だ。ありきたりの裏庭が、プロの設計による快適な空間へと大変貌をとげていく様子をみてDIY熱をかき立てられる視聴者も多いことだろう。

 この番組名をもじった「パーマブリッツ」というコミュニティー活動が2006年4月にメルボルンで産声をあげた。「パーマカルチャー」の理念に基づく持続可能で生産的な庭を地域に増やしていくために、同じ志を持つ仲間が一緒に汗を流して楽しい時間を過ごし、コミュニティーにおける知識の共有とネットワーク構築を進める活動だ。

新聞紙を下敷きにして不耕起畑を作る参加者達


 パーマカルチャーとは、自然や生態系の働きを有効活用してエネルギー消費を最小限に抑えた循環型の農的生活を達成することを目指し、70年代後半にオーストラリアで提唱されたデザイン科学である。PermanentのPerma(永続的な)とAgricultureのCulture(農+文化)が語源となっているパーマカルチャーは、以下の3つの理念を柱としている。 

「Care of the Earth(地球上のありとあらゆるものを敬い)」
「Care of People(コミュニティーの自立と責任を促し)」
「Return of Surplus(それに要する知識や労力を含めたあらゆる余剰資源を還元する)」

 日本でいえば里山や自然農がパーマカルチャーの概念を体現していると言えるだろう。

 地球環境の悪化が深刻となり、世界の食糧危機や食の安全が問題となっている昨今、自宅の裏庭から環境保護に取り組みたい、無農薬の家庭菜園を始めて地産地消の足がかりとしたいと考える人たちが増えてきている。加えて、深刻な水不足に悩まされる乾燥大陸オーストラリアでは、芝生を多用した英国風の伝統的な庭に見切りをつけ、地域の気候に適した環境負荷の低い庭へと転換する風潮も高まっている。

 しかし、ある意味で家庭菜園が最も必要な層ともいえる年金生活者や移民などの社会的弱者の中には、資金や労力不足で庭の改造がかなわないという人もいる。

 一方、パーマカルチャーの教育普及に携わることが認められる設計資格であるPDC(Permaculture Design Certificate) を取得した人の中には、まずは無償でもよいからパーマカルチャーの設計コンサルティングの実務経験を積みたいと考えている人がいる。パーマカルチャーの概念を取り入れた造園設計の練習台として喜んで庭を提供してくれるホストを必要としているのだ。

 このように利害の一致した「庭の提供者」と「知識の提供者」が結びつき、パーマカルチャーに興味をもつ人達が「労力の提供者」として一同に会するのがパーマブリッツだ。

各自が持ち寄ったランチを囲んで楽しいひと時を過ごす参加者達


 パーマブリッツは平均して約2週間に一回の頻度でメルボルン近郊のどこかで行われており、パーマカルチャーに興味をもつ人は誰でも気軽に参加出来る。パーマブリッツのホームページやメーリングリストで日時や場所、作業内容や持参する物などを確認し、興味のあるブリッツ会場に出向けばよい。参加する人数は様々で、市街地の狭い庭では10名程度と人数制限を設ける場合もあるし、150坪ほどの平均的な宅地に40名ほどが集まる場合もある。参加者の職業、年齢、民族構成は実に多彩だ。

 一昔前のパーマカルチャーといえば、ヒッピーや環境意識の高い人達が田舎に移り住んだり、発展途上国に赴いて実践する特殊なものと見られていたが、現在では裾野が広がり、ごく普通の人達が家庭で実践する都市型・郊外型パーマカルチャーが市民権を獲得しつつあるのだ。

 参加者同士の自己紹介が終わると、事前にホストの庭を訪れて設計を担当したPDC取得者が作業内容の説明をする。その後、参加者はグループ分けされ、パーマカルチャー菜園で多用される不耕起畑、ビオトープ、鶏小屋の設置等の分担作業をしていく。
 

持ち寄った苗の植え付け。手前はビオトープとして再利用するバスタブ


 庭の改造には、廃材を再利用したり、参加者が自宅から苗やコンポストを持ち寄ったりして、ホストの負担がなるべく抑えられるように心がけられる。ホストは食べ物を差し入れたり、余興タイムを設けて参加者をねぎらう。

 パーマカルチャー講座を受けてPDCを取得した私は、今までに何度かパーマブリッツに参加した。当日は、作業道具の他に、庭で余っている野菜やハーブの苗を持参する。ある参加者は自家菜園でとれた野菜をたっぷり入れたスープを作って持参し、また別の者は自分のファームからトレーラー一台分のミミズコンポストを提供したりする。園芸の専門知識を持っている人は休憩時間に初心者向けのワークショップを開催し、南米移民の家庭では余興時間にサンバ音楽で盛り上がる。

パーマカルチャー菜園でよく用いられる移動式鶏小屋


 パーマブリッツに参加した誰もが何かを得て帰る。楽しい思い出と達成感、新しい出会いと友情、伝統料理のレシピ、庭づくりのヒントや経験者のアドバイス・・

 最初は見知らぬ人の家を訪ねていくのに少し勇気が必要だが、同じ目的に向かって屋外で一緒に汗を流すうちに、すぐに打ち解け不思議な連帯感が生まれる。コミュニティ・スピリットの素晴らしさを実感し、すがすがしい気持ちになれる。田植えや屋根葺きなど昔の日本の農村でみられた「結」もこのような感情を呼び起したのだろうか。

 都市化にともない崩壊した地域社会の相互扶助精神を新しい形で復活させたパーマブリッツは、2008年8月に第50回を祝い、活動の裾野を拡げている。

緑ゆたか
1999年よりメルボルン郊外でパーマカルチャーの概念を取り入れた家庭菜園をはじめ、その様子を個人HP「OZ GARDEN(http://ozgarden.fc2web.com)」にて発信している。
2007年1月、パーマカルチャーの設計資格(PDC)を取得。


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