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都市農地を活用する試み(1)-東久留米市一歩の会

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伴昌彦 東京都
day
2009-01-18
 

 大消費地のど真ん中にある都市農地。輸送に費やすエネルギーは少ないし、生産履歴はまる見え。何より、アスファルトで固め尽くされた街で、畑を見るとほっとする。都会の畑は今こそ求められているように思える。でも気が付けば畑は消え、駐車場や住宅に姿を変わっているのが現実だ。

 東京都の多摩地区は、元々は農村だった。戦後郊外のベッドタウンとして急速に発展してきたが、現在も団地や住宅の中に畑が点在している。残された農地も次々に開発されていく中で、農地を守り、活用しようと様々な取り組みが行なわれている。

東久留米市一歩の会

 東京都東久留米市にある「くるめ・一歩の会」は、農作業を通じ、コミュニティや障害者の自立、雇用創出などを目指して作られた団体だ。大規模団地が多い東久留米市だが、比較的大きな畑も所々に残されている。

 代表者の宮秋道男さんは一見気のいい農家のおっちゃん風で、頭に巻いたタオルが良く似合う。しかし宮秋さんは農家ではない。農学部出身ではあるが、以前は編集の仕事をしていた。再び農業に関わるようになったきっかけは、結婚で東久留米市に引っ越してきたことだ。眼前に広がる農地に、畑をやりたい血が甦り、野菜づくりを始めたという。

 畑仕事をしていて、横で遊んでいる子ども達と仲良くなった。その中に聴覚聾唖者の両親を持つ子供がいた。その出会いをきっかけに聾唖者やその他の障がいを持つ人と出会うようになり「福祉」の世界に入った。その後、市議会議員も経験し、現在は一歩の会で農と福祉を結びつけた活動を実践している。

 会の活動の中心は畑仕事と収穫した野菜の販売。無農薬、無化学肥料で育てる作物は種類も様々だ。畑は統合失調症などの心を患う人々を含めた地域住民や、福祉を学ぶ学生などが集う場となっている。 


 活動の場は地元の農家から借りた農地。取材に訪れた日、作業したのは面積1500平方メートルの畑。カボチャ、ナス、トマト、ピーマンなど何種類もの作物が植えられていた。住宅に囲まれてはいるが、多くが一戸建てで高層の建物がないためか広々していて、東京にいることを忘れてしまいそうだ。

 しかしその朝、宮秋さんから「この畑はもう、相続の問題で続けられなくなったんですよ」と、説明を受けた。現在畑で育っている作物の収穫までは待ってくれるらしいが、それが終われば地主さんに返却しなければならない。さぞ皆がっかりしているかと思いきや、既に次の畑は確保出来ているそうで、参加者にも悲壮感はなかった。

農に集う多様な人たち

 早朝から畑仕事に集まった参加者は20代の学生から50代くらいの主婦まで年齢や性別、国籍も様々。この日は大学で福祉を学んでいる韓国からの留学生もいた。

 皆、心身ともに健康そうな人に見えるが、宮秋さんいわく「調子の悪い」人が多いらしい。「調子が悪い」というのは心の状態のことで、畑作業の参加者と雑談していたら会話の中で「私、統合失調症なんですけど…」と、まるで「風邪引いてるんですけど」くらいの気軽さで言われた。ここでは精神の不調が風邪程度にありふれた病気として自然に受け入れられているのかもしれない。畑仕事は心身の健康に役立っている様子で、調子の悪い人自身が、この畑の作業で大分元気を取り戻したと言っていた。

 畑仕事を楽しむことが目的なので、作業も休憩を入れながらマイペースで進む。この日の休憩中も、韓流好きの女性と留学生を中心に韓国の話題で盛り上がり、笑いが絶えなかった。


 午後からは団地の一角にある一歩の会の売店に移動。会の収入の多くは店舗での農作物の販売による。この日収穫した野菜を袋に入れて販売する。調子の悪い人も悪くない人も色々な人達が出入りして野菜の袋詰めや店番などを手伝っていた。

 無農薬・有機野菜といえば高額なイメージがあるが、この店では普通の八百屋と同じか、むしろ安めだ。販路を広げる努力も怠らない。団地には高齢者が多いので、トラックに収穫した野菜を積んで、引き売りにも行く。4年目にしてようやく事務所運営に必要な経費が賄えるようになった程度。農業で収入を得ることは難しい。今後は加工品の販売を増やすことも検討しているという。

 丹精込めて野菜を作っても、儲けにはならず、相続問題などで使えなくなることもある。宮秋さんに「自分の土地が欲しくならなりませんか?」と聞くと、「勿論欲しいですけど、宝くじでも当たらなければ無理ですよ」と笑っていた。田舎へ行けば安く取得出来る農地もあるだろう。それでも制約の多い都市で農業を続けるのはなぜだろう。

 ひとつには大勢の人達の集まった都会ではコミュニティが作りやすいことだ。一歩の会は単に農業で収益を上げることではなく、農業を通じたコミュニティ作りなどを目指している。

都市の農家を支援する

 もうひとつの理由は、都市部で農業を続けている人達を応援することだ。一歩の会が耕している畑はすべて「生産緑地」である。「生産緑地」とは、都市農地を守るために作られた制度だ。

 都会の畑は常に開発圧にさらされており、農家に対する不動産業者からの営業も多い。宅地として売れば億単位のお金が入ってくるが、年がら年中畑で頑張って野菜を売ってもせいぜい100万円がやっと。しかも市街化区域内の農地は税率の高い宅地並み課税となる。これではとてもではないが、都会で農業は続けられない。

 一方「生産緑地」の指定を受けた農地は、市街化区域内でも固定資産税の税率が農地並みになり、相続税の猶予もある。ところが、生産緑地では30年間は農地からの転用は出来ない。30年は短くない。農業従事者の高齢化に伴い生産緑地の畑を自ら耕して維持することが難しくなってくる。しかし生産緑地では、自分の都合で「耕作放棄」はできない。死亡するか、障がい者にならない限り、生産緑地の指定解除もできない。
 かつて都市農地を守る選択をした農家が、いまやニッチもサッチも行かない状況に置かれて悲鳴を上げている。

 「私たちは、困難な状況で敢えて畑を耕している農家の方を応援したいのです。」と宮秋さんは言う。

*****


 宮秋さんはエネルギーや食料の自給率低下を食い止め、「持続可能な社会」を構築するためには、地域の中から農業を支えていくことが必要だと主張する。「半農半X」のように誰もが農業に関わり農産物を直接入手すること、あるいはコミュニティ通貨などを媒体に地域経済の中に農産物を流通させることが理想的だ。更に、ヨーロッパで実施されているようなデ・カップリング政策※の導入で、基本的な収入を補償することも含め、農業のあり方自体の再検討が必要だと考えている。

 今回は、都市農地を生かしてコミュニティ作りを行う「くるめ一歩の会」を紹介したが、次回は、行政と市民との協働による農地活用プロジェクト「こだいら菜の花プロジェクト」を紹介する。

※ 「デカップリング」とは切り離しのこと。農業分野では、農業政策による生産の刺激と所得の保障とを切り離すことを言う。価格支持によって農産物の生産を刺激することをやめ,農家に対して直接的な所得補償を行う。農業の多面的な機能を維持する政策として注目される。


都市農地を活用する試み(3)-倉沢里山の会
都市農地を活用する試み(2)-こだいら菜の花プロジェクト

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