ガーデニングの持続可能性 メルボルン近郊にある大型ホームセンターは休日ともなるといつも多くの人で賑わう。屋内のガーデニングコーナーは3列ほどあり、そのうちの1列には、何を選べば良いのか迷ってしまうほど様々な種類の除草剤、害虫駆除剤、用途別肥料が所狭しと並んでいる。 美しいバラの花や青々とした芝生のイメージ写真と効果を高らかに謳ったキャッチコピーからは、それがどれほど環境に害があるものかは全く伝わって来ず、買い物客が気軽に手に取ってカゴに入れている。商品の危険性や環境負荷度を認識せずに農薬や化学肥料に安易に手を出してしまう一般客は少なくない。 一方、私のお気に入りである近所のガーデンセンターでは、各商品の環境負荷度が一目見てわかるような表示を行っている。商品棚でまず目につくのが各商品の前に貼られている3色のカラーラベルだ。「サステナブル・ガーデニング・オーストラリア協会(SGA)」というNGO団体が、各商品に含有されている化学物質に応じて環境リスクを評価したもので、青ラベルが低リスク、黄ラベルが中リスク、赤ラベルが高リスクとなっている。
店内には環境負荷度に応じてラベル分けされた商品が並ぶ
各ラベルにはそれぞれ元気なテントウムシ、具合が悪そうなテントウムシ、ひっくり返ったテントウムシのイラストがついており、誰が見ても一目で商品の危険度がわかる仕組みだ。 持続可能なガーデニング協会 このガーデンセンターは「豪州持続可能なガーデニング協会(Sustainable Gardening Australia)」から認定を受けた「持続可能なガーデンセンター」の一つだ。同協会から認定を受けた持続可能なガーデンセンターは2009年1月現在で全国に38店、認定に向けて取り組み中のガーデンセンターは43店ある 。 2003年に設立された同協会は、このような製品の環境評価システム確立に留まらず、節水や省エネを可能とするガーデニングのあり方、環境負荷のかからない庭造りや廃物処理、在来植物や侵略性の低い植物の導入による生物多様性の確保、資源の有効活用等、持続可能なガーデニングを推進していくための様々な教育啓蒙活動を行っている。
「持続可能なガーデンセンター」の認定を受けた近所のガーデンセンターは約30人のスタッフを抱える
同協会の活動は、深刻な水不足を改善したい水道局や地域の生態系保護に取り組む自治体とも利害が一致するもので、これら多くの行政機関がバックアップしている。水道局の助成によるガーデンセンター従業員の夜間無料教育研修制度や各自治体と連携して公民館などで開催する環境市民講座などがその一例だ。 ガーデンセンターでの消費者教育 長年の園芸店勤務を経て2007年より同協会のガーデンセンター認定コーディネーターを務めるヘレン•テュートンさんもこういった教育啓蒙活動に携わる一人だ。男勝りの彼女の飾らないトークは聴衆の心にダイレクトに響く。 「世の中には二種類の人間がいます。 うんこを流すのに飲める水を使う人とそうでない人です。」 2008年10月に開催された「水と野菜畑を守ろう!市民フォーラム」では、このようなユーモアを交えつつ、生活廃水の二次利用やウィーリービン(車輪付きゴミ箱)を使った安上がりな雨水貯蔵法等をわかりやすく紹介し、節水とガーデニングを両立させるコツを指南した。 ガーデニングを楽しむ一般市民が最も足繁く通う身近な場所ともいえるのが近所のガーデンセンターだ。供給者であるガーデンセンターが消費者教育に果たす役割は非常に大きいという認識のもと設置されたのが「持続可能なガーデンセンター」の認定制度だ。認定を受けたガーデンセンターには、顧客が購買決定する上で適切なアドバイスが出来るよう持続可能なガーデニングに関する教育研修を受けた従業員がおり、その地域の気候に適した丈夫な植物はどれか、健康な土壌作りに適した製品はどれかといった相談にのってくれる。
オーガニック製品も充実
「持続可能なガーデンセンター」として認定されるには、従業員の教育研修、環境に負荷のかからない商品管理の徹底、評価ラベルの張り付け等、数々の必要条件を満たさなければならず、道のりは長いものだ。しかし、このような高いハードルを越えて認定されたガーデンセンターが自覚と責任をもって消費者の意識を変えていく意義は計り知れないものといえる。 日本での持続可能な庭造り さて、日本でも似たような趣旨の取り組みが試みられている。NPO法人「日本オーガニック・ガーデン協会(JOGA)」が持続可能な庭造りの専門家育成を目指して2008年春より開講した「オーガニック・ガーデン・マイスター講座」だ。 生態系を利用した持続可能な環境を「庭」という身近な緑から作っていくために庭の管理者や利用者の価値観をシフトしていくこと、また持続可能な庭造りをモットーとする造園業者、植木屋、ガーデニング愛好家の輪を全国各地に広げていくことを目的としている。JOGAが無農薬の庭造りにつき紹介の依頼をうけた場合には、同講座の修了者の中から造園業を営む人を紹介していくという。 オーガニック・ガーデニングの一般普及のカギを握っているとも言える供給サイドの意識改革と連帯の輪が徐々に広がりつつある。
パーマブリッツ – 現代都市に甦る「結(ゆい)」の精神
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