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ネイティブ・アメリカを訪ねる~先住民エコツアーの試み~ PART I

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江崎絢子 オレゴン州ポートランド市
day
2009-06-24
 

歴史の始まり

 オバマ大統領就任式当日(2009年1月20日)、著名人による演説やパフォーマンスで飾られた式典に続いて行われた就任パレードには、全米各地から103の団体が参加した。「アメリカ合衆国の歴史、民族多様性、そして国民のサービス精神を象徴するパレード」(オバマ氏*1)として歓迎されたこのイベントには、先住民部族を代表する11団体も参加し、オバマ新大統領の政策によりアメリカ合衆国連邦政府と先住民族との関係が向上する」という期待の高まりを象徴した。

アメリカ合衆国とは /2009年1月18日オバマ氏の大統領就任を記念したコンサートイベント(ワシントンDC)


 アメリカにおける「多様性」の定義は、「黒人、白人、ヒスパニック、アジアン」といった人種によるアイデンティティー、または「キリスト教 徒、イスラム教徒、無宗教」といった宗教関連のアイデンティティーによって捉えられることが多い。「移民の国」アメリカにおいて、様々な民族、宗教、文化の共存は、重要な遺産であり、同時に最も複雑で難しい課題でもある。

 しかし、その「多様性」ゆえの課題の一部として、アメリカ先住民にスポットライトが当てられることは極めて少ない。先住民族は「マイノリティー中のマイノリティー」的存在であり、多数のアメリカ人は、先住民の存在に対する意識に欠けている。または意識はあっても、鳥の羽や動物の皮をあしらった伝統衣服や、肌の色や体系等の外面的な特徴のイメージ、そして「カジノ経営で儲けている人々」といったような固定概念にすぎない。

 「分裂した世界をつなぐことができるリーダー」として注目を集めたオバマ新大統領を一目見ようと朝早くから歩道を埋め尽くした100万人以上の人々は、同じようにアラスカ、モンタナ、ノースダコタ等からはるばるワシントンDCに集まって、民族の誇りを主張した先住民部族の参加者たちを、どのような視点で受け止めたのだろうか。

「アメリカ先住民」とは

 アメリカが国として成立するよりもはるか昔からこの大陸に住んでいる先住民族は、16世紀以降移住してきたヨーロッパ移民によって殺害され、または外から運ばれてきた病気によって亡くなり、今では生き残りの人数が一桁、という部族もある。経済的にも、多くの先住民コミュニティーはアメリカ中で最も貧しい人々という地位にいる。様々な社会問題においてそうであるように、アメリカ先住民の現状を悪化させている一番大きな要因のひとつは、「無知」または「無関心」である。

 人気テレビドラマ「CSI: NY」のエピソード「Communication Breakdown」(2009年3月25日放映)では、マンハッタン地域に住む架空の先住民部族の数少ない生存者の一人が殺害される、というストーリーが展開された。多数の文化や言語が共存する大都市ならではの非現実的なこのエピソードは、ポップカルチャーを通して先住民の現状を視聴者に伝える良い機会になったはずだが、残念ながら、歴史的事実に反した描写や、ステレオタイプを助長するメッセージが強調され、現代に生きる先住民の生活を不自然な形で伝える結果となった。

 ドラマで、殺害された族長の遺品を文化博物館が寄付として受け取り、保存・展示することを聞いた主人公は言う。「彼らの文化はそうやって行き続けていくのだね。」このコメントに象徴されるように、人々の多くは先住民の文化を、静止した「美しい過去の遺産」として捉える視点から抜け出せていない。

「 西洋社会では、先住民族の生活様式や伝統的なコミュニティーの習慣を、『現代社会の進歩を受け入れることに失敗したために絶滅を避けられない昔の文化』として捉えがちであるが、このような見解ほど真実とかけ離れたものはない」と、民族植物学の世界的な第一人者ウェード・デイビズ(Wade Davis)氏は語る 。

演説中のWade Davis氏 /写真提供:国際エコツーリズム協会(www.flickr.com/photos/estc2008)


 「文化とは、過去のある時点に停滞して存在するものではなく、自然環境の変化や技術の進歩によって常にもたらされる新しい要素を取り入れ、生命の新しい可能性を広げていくことにより、変化を続けていくものである。部族のアイデンティティーや文化の存続を妨げる原因となるのは、現代技術や社会の変化ではなく、権力、財力や支配権を追求する人々による人権の侵害、伝染病の蔓延等、明確に認識できる事々なのです。」*2

 「先住民の伝統的な暮らしを維持する」という視点は大切だが、同時に、ネイティブアメリカンは、21世紀のアメリカに存在する自立した動的なアイデンティティであるという意識がなければ、先住民が抱える数多くの問題の解決にはつながらない。このような見方を広めていくことにより、多文化社会としてのアメリカ合衆国のアイデンティティーは、現在進行形で21世紀に生きている先住民族の人々の存在を含む、本当の「多様性」を反映したものに進化していくはずだ。

先住民主体のエコツーリズムの取り組み

 新しい地を訪ね、異なった文化や生活様式に触れることを通して、視界が広がり、他人事と思っていた問題に興味を持つ、という経験を持つ人は少なくないだろう。しかし一方では、世界の観光産業が、自然環境や地域住民の生活環境に、大きな悪影響を及ぼしてきたことも否定できない。世界中で多くの人々を魅了し続ける「旅」が秘める可能性を生かし、同時に環境とコミュニティーに重点をおいて、持続可能な形で観光を推進するために生まれたのが、「エコツーリズム」である。
 
 国際エコツーリズム協会によるエコツーリズムの定義は、「自然保護と地域住民の生活の向上に貢献する、責任のある観光」であり、次の6つをエコツーリズムの原則としている。

•自然環境や地元の文化・生活に対する影響を最小限に抑える。
•環境と文化に関する理解を深め、地元の生活を尊重する。
•環境保全のために、直接経済的な利益をもたらす。
•地元の人々に、経済的な利益と権利を主張する力をもたらす。
•旅先の国の政治、環境、そして社会的な情勢に対する敏感さを育てる。

 このようなエコツーリズムに、先住民の文化を取り入れて紹介し、居留区の生活向上に貢献している例として、北米を始め世界的にも有名なツアー会社Go Native America(ゴー・ネイティブ・アメリカ)の代表、サラ・チャップマン(Sarah Chapman)氏から、先住民エコツアーのあり方と、ネイティブアメリカの現状について話を伺うことができた。(次ページ)


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