reports

ソーシャル・ベンチャー

back
prev_btnnext_btn
title

大町菜の花プロジェクト ~ 日本の油田とヴァージンオイル ~

信州大町市の『NPO地域づくり工房』

leader from from
三沢健直 松本市
day
2009-07-10
 

 白馬に近い長野県大町市、JR信濃大町駅の静かな駅前通りに、「NPO地域づくり工房」はある。駅から4分ほど歩くと工房の事務所があって、商店街の歩道からガラス越しに中の様子が見えた。「NPO地域づくり工房」は、関西の財団で働いた後で帰郷した傘木宏夫さんが、2002年に、地域での仕事おこしを目的として立ち上げた団体である。「大町菜の花プロジェクト」は、このNPO地域づくり工房が行なっている。

 工房では、菜の花プロジェクトのほかにも、農業用水路を活用したミニ水力発電を普及する「くるくるエコプロジェクト」や、地下伏流水から吹き上げる冷たい風を利用して風穴小屋を作る「風穴プロジェクト」など、地域の歴史的な財産を現代にリバイバルするような活動も行なっている。

菜の花プロジェクト

 「菜の花プロジェクト」は、1998年に滋賀県で始まって、全国に広がったプロジェクトである。使用しない農地などを利用して栽培した菜の花から菜種油を生産・販売し、使用した廃食油を回収・精製してBDF(バイオディーゼル燃料)として利用する、循環型経済を目指すプロジェクトである。2008年には、全国の菜の花プロジェクト団体から、610人もの人々が大町市に集まって、「菜の花サミットin信州・大町」を開催した。

 大町菜の花プロジェクトでは、菜の花農業生産組合が組織され、閉鎖された市有の小さなスキー場を利用して、菜の花の栽培を行なっている。なだらかな起伏の丘陵一面に広がる菜の花が咲き乱れる風景は、神秘的な印象すらある。
 菜の花は秋に種をまいて春先に花が咲くので、ここでは秋に収穫する蕎麦との二毛作を行なっている。筆者が訪問したときには丁度、蕎麦の花が咲いている季節だったが、それでも、なだらかな起伏を一面に広がる花の風景は、大変気持ちが良かった。

かつてスキー場だった丘陵に蕎麦の花が咲いていた


 菜の花の種まきは9月~10月ころなので、蕎麦の花の足元には、菜の花の小さな芽が出始めているのだが、菜の花は雑草と同じで非常に強く、蕎麦をトラクターで刈り取って、土地が掘り起こされた後でも、芽を出すそうだ。丘陵の上には、蜂箱の小屋があって、蕎麦の花と菜の花の双方から、高品質な蜂蜜が採れる。それもこのプロジェクトの仲間による事業の一つである。

蜂箱が二つ設置してある


菜種ヴァージンオイル

 精製した菜種油は、当初、てんぷら油として販売する予定だった。使用した菜種油を回収して、BDFにすれば、循環の環が完成する。しかし、予定通りには行かなかった。立ち上げ当時、環境省の助成金で搾油機と焙煎機を導入したが、精製器は購入できなかったので、替わりに袋で絞った。出来上がった菜種油でてんぷらを揚げてみたら、水がはねる、油が固まる。とても使えたものではなかった。

 しかし2005年の年末に、偶然にも、料理の鉄人として有名な石鍋シェフに味を見てもらえる機会があった。菜種油を、てんぷら油ではなく、バージンオイルとして利用することを勧めてくれたのが、石鍋シェフである。シェフは、「日本でも地元の原料から作られるバージンオイルがないものかと、以前から思っていた」。現在では、石鍋シェフが経営する品川のレストラン『ボボス』で、さまざまなメニューに使われている。

 したがって、菜種油はバージンオイルとして使い切る。同時に、地域の廃食油を回収してBDFを精製する。この二つを平行して行なう形に、大町菜の花プロジェクトの方向性が定まった。菜種のバージンオイルを頂いて味わってみたが、確かに「日本のバージンオイル」と呼ぶに相応しい、春の葉の味がした。
 菜種オイルは、炒めものではなく、鍋などの熱い和食に良く合う。新鮮さが大切なバージンオイルなので、菜種は冷暗所に保管して、受注生産をしている。「なたねオイル」の価格は1200円/本(200ml)。年間に、2000ℓ生産している。

        国産のヴァージンオイル『なたねオイル』


 廃食油との直接の循環はないが、菜の花の栽培には、地域の養豚の排泄物や、籾殻、堆肥を利用している。また、菜種オイルの一番絞りの良い滓を与えて黄金シャモを育てるなど、地域で循環する農業となっている。

廃食油回収

 廃食油をBDF(バイオディーゼル燃料)として精製するには、一回100ℓが必要になる。しかし、家庭からの油ではまったく足りず、事業として成立するためには「油田」が必要だ。幸い近くに大町温泉郷があり、ここが油田となった。
 回収先は、大町市と白馬の一部にまたがる地域で、2003年には27軒だったが、現在は50軒まで増えた。スタッフが定期的に軽トラで回収している。毎月3000ℓ回収してBDFを精製し、95円/ℓで会員向けに販売する。現在は74人~150人がBDFを購入している。

 BDFの用途は、農耕器、除雪機が多い。というのは、寒冷地で車両を動かすために流動点降下剤として灯油を入れる必要があるが、灯油を入れると車両取引税がかかってしまうのだ。農耕機、除雪機には灯油を混ぜても税金がかからないため、主にそれらに使われている。今後、廃油のBDFが広がっていくためには、税制を含めた法整備が必要だ。

 NPO地域づくり工房の年間の事業規模は、約900万円の売上があるそうだ。そのほかにエコツアーなど様々な事業を行なって、5人の非常勤スタッフが働く規模になっているが、さらなる事業拡大を目指している。

事務所と傘木さん(右側)


これから

 菜種生産のための農業生産組合が耕作する面積は、スキー場を含めて全部で20ヘクタールだが、今後は耕作面積を減らし品質向上すること考えているそうだ。これは、「なたねオイル」のブランド力を高め、地域の求心力にするためだ。

 傘木さんによると、かつて信州は「江戸の油田」と呼ばれていた。江戸の町では部屋の明かりを燈すために、金持ちは菜種油を使い、庶民は魚油を使う。だから金持ちの家の中は良い匂いがしたそうだ。日本講道館の「畳再生プロジェクト」という実践をしている人から、古い文書を調べたら畳作りに信州の菜種油を使ったという記録が出てきたと連絡が来たことがあるそうだ。

 かつては、信州と江戸を繋ぐような循環する経済が成立していた。地域づくり工房が創り出そうとしているのは、そのような持続可能な地域社会であり、菜の花はそのシンボルとして考えている。

 そもそも燃料の大量消費に問題があると傘木さんは言う。現在の大量消費に合わせてバイオディーゼルを開発しようとする方法論では問題は解決しないことに、プロジェクトを実践する中で気がついた。エゴマ、おにぐるみ、グレープ・シード・オイルなど、地域に眠るたくさんの「油田」を、これから掘り起こすと傘木さんは言う。傘木さんも、話しだすと止まらないタイプの人だ。

 筆者も同じ信州人として、田舎の古い地域社会で、新しいことを始めるのは並大抵のことではないだろうと想像した。しかし、「活動をうまく動かすためには、地域の人間関係を掘り起こし、信頼関係を築くことが非常に大切で、同時に非常に時間がかかるプロセスだと思っている。」そう言う傘木さんの試みは着実に地域に根付いているようだ。

この取材は、第2回共同リサーチ「人と地球に厳しいパームオイルを避ける方法」の結果に基づいて、この問題を継続的にリサーチするためにメンバーが立ち上げた『パームオイル・リサーチ・ユニット』の活動の一環として行われたものです。


天ぷら油で走る車に乗る人々(WVOというバイオディーゼル燃料)

このエントリーをはてなブックマークに追加





関連サイト
NPO地域づくり工房
菜の花プロジェクト・ネットワーク
パームオイル・リサーチ・ユニット
関連ニュース
ちょっとだけ不便、でも快適~目からウロコの非電化生活~
パームオイルに関する政策提案の試みからリサーチ・ユニットへ (中間報告 Vol.1)
オイルパーム労働者はいまだ貧困線以下、大臣声明とうらはら
現実世界の「アバター」ストーリー:企業の搾取と戦う先住民族
オイルパーム(アブラ椰子)農園労働者ヘルさんへのインタビュー
都市農地を活用する試み(2)-こだいら菜の花プロジェクト
市民によるコミュニティバスの可能性
森を壊さないカレーを食うために ~パーム油フリーカレー~
持続可能な生産の仕組・ライフスタイルの構築/「人と環境に厳しいパームオイルを避ける方法」Vol.5
私たちにできること/「人と環境に厳しいパームオイルを避ける方法」Vol.4
「公正」と「健康」という視点/「人と環境に厳しいパームオイルを避ける方法」Vol.3
パーム油の表示がない!?(植物油脂という表示)/「人と環境に厳しいパームオイルを避ける方法」Vol.2
パームオイルの問題を再確認する/「人と環境に厳しいパームオイルを避ける方法」Vol.1
関連ニュース
コメントを見るコメントする
コメント(0)

Creative Commons License
大町菜の花プロジェクト ~ 日本の油田とヴァージンオイル ~   by 三沢健直/INDEPENDENT MEDIA [レアリゼ]は、 Creative Commons 表示-改変禁止 2.1 日本 License のもとでライセンスされています。ライセンスのより詳しい説明は、こちらをご覧下さい。

クリエイティブ・コモンズ メンバー募集 メルマガ 受託型リサーチ レアリゼブックストア サポーター募集 twitter mixi face Flickr