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バリアフリーな地球の楽しみ方

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江崎絢子 オレゴン州ポートランド市
day
2009-09-07
 

1. 誰の視点でバリア?

 「バリアフリー」という言葉は、障害を持つ人の生活を妨げる「バリア」がないこととして、建築物、交通機関等、様々な状況でよく使われている。しかし、障害を持つ人にとってのバリアは、物質的なものだけでない。

 足が不自由な人、目が見えない人など、様々な障害を持った、人種も性別も年齢も異なる8人が、アメリカ、アリゾナ州のグランドキャニオン国立公園でラフティング旅行に参加するストーリーを追ったドキュメンタリー映画『Right to Risk 』という映画がある。盲目の参加者セバスチャン・イバネスさんは、キャンプ地で食事の後片付けをしているシーンで、いたずらっぽくこう言う。

 「僕が目が見えないことを知ると、皿洗いとか、掃除とか、僕はできないだろうって思って代わりにやってくれようとする人が多いんです。たまに、本当にできない振りして『あ、ありがとう』ってやってもらっちゃいます。」

 このような障害に対する「過剰反応」は、障害のある人々が自力で生活する自信を妨げるバリアである。「『普通に』歩けなかったらこういう活動はできないだろう」といったような思い込みや、「目が見えないから、全てにおいて手助けが必要なんだろう」といったような不要な特別扱いが、見えないバリアを作ってしまっているのだ。

 物質的なバリアになら気がつく人も、心理的なバリアには気が付きにくい。前者が無関心に基づくのに対して、後者は障害のある人への好意に基づいた誤解であるからだ。ところが、これらのバリアは、障害を持つ人たち自身の意思を無視しているという点では、まったく共通しているのである。それは、他者の現実を自分の問題として捉えたり、他者の側に立って考えようとする意識の欠如とも言えるかもしれない。

 バリアの原因となる偏見や誤解を減らすには、「障害を持つ人々が日常生活に支障なく活動するために何ができるか」といった視点に加えて、「様々な状況にある人々が皆、それぞれの意思でできること、やりたいことを選べるようにするには何が必要なのか」という意識を高めることが、個人、そして社会のレベルで求められる。

 意識の欠如から始まるバリアをなくすための試みの例として、障害のある人もない人も、体を使った自然体験を共有する、「アクセシビリティーツーリズム 」または「バリアフリーツーリズム」という分野がある。映画『Right to Risk』 が描くのも、そのような取り組みの実践例である。

2. バリアフリー・エコツアー

 自然との交流に焦点を置いたアクセシビリティーツーリズム、「バリアフリーエコツアー」を提供しているネイチャーガイドの木村太郎さんは、「障害のある人もない人も、お年寄りから子どもまで、すべての人と地球を感じられるように」というテーマで様々な活動を行っている。

 木村さんの団体、EGGS(www.eggs-nature.net)を立ち上げたきっかけは、上高地のNPG(ナショナルパークガイド)で働いていた時、交通事故で下半身が動かなくなったお父さんと一緒に上高地の自然を楽しみたいというリクエストを、準備・知識不足のため受け入れられなかった、という経験だった。

ろう児も参加できる子どもキャンプで、子どもが手話をしている様子。EGGSでは、障害を持つスタッフがいる子供キャンプも行っている。(写真提供:EGGS)


 障害を持った参加者と一緒にツアー活動をしていると、「何が障害なのか分からないときがあります。」と、木村さん。「例えばダイビング。私達は字を書いてコミュニケーションをとりますが、聾の人は手話で話をします。そのスムーズな会話を見ていると、まるで私達が障害者になった気がします。そして障害ってなんだろうと、思うのです。」
 このようなツアー体験は、自然を楽しむ活動を共有することを通じて、お互いを認め合い、普段「バリア」と捉えている障害による不都合を、新しい視点から捉えて理解する機会になる。

 EGGSの「バリアフリー・シーカヤック・ツアー」では、現地ガイドと共に手話ガイドが同行し、聴覚障害のある方もシーカヤックを楽しみ海を感じる体験を満喫できる。また、それ以外の障害を持つ方、子どもや高齢者の参加も可能だ。

EGGSのシーカヤックツアーに参加したろう(聴覚障害者)の方。声が通りにくい海の上でも、ガイドと手話でスムーズにコミュニケーションをとれる。(写真提供:EGGS)


 参加者の希望やアイデアを取り入れて、バリアフリーでオリジナルなツアーを作り上げるため、常に新しい可能性を探しているという木村さん。「この秋からは、ハイキング、洞くつ探検、クロスカントリースキー、ゲレンデスキーなどの活動を予定しています。また、指導者の講習会も予定しています」とのこと。

3. アクセシビリティーツーリズム、世界の事例

 EGGSのような会社を支援したり、アクセシビリティーに関する取り組みに、エコツーリズムやアドベンチャー旅行を取り入れて「バリア」の認識を高める活動を行っている団体には、以下のような例がある。

IAHD(International Association for Handicapped Divers)

 IAHDは、身体障害を持つ人々に安全で心身の健康に良いスキューバ・ダイビングの体験を提供するため、障害に関する知識とスキルを備えたダイビングインストラクターを世界各地で育成している。参加者はスキューバ資格を得ることを通して、アクティブな活動に自分の力で参加するユニークな体験を得るだけでなく、自信の向上や、日常生活で参加が可能な活動の範囲を広げることにもつながる。http://www.iahd.org 

ウィルダネス・インクェリー(Wilderness Inquiry:WI)

 非営利団体WIは、障害の有無に関わらず、誰でも気軽にアウトドア活動を通して、自然体験の充実感を多くの人とシェアできるように、年間100以上のツアーを世界中で展開している。ツアーの他にも、リーダーシップ教育、「Inclusionトレーニング」(特別な援助が必要な人々の参加を可能にするための知識、技術を身につけるためのトレーニング)等のプログラムも行っている。http://www.wildernessinquiry.org/ 

ハッピー・ツーリスト(Happy Tourist)

 ハッピー・ツーリストは、「Making Europe Accessible」(「ヨーロッパをより楽に行ける地に」)というスローガンに基づき、障害のある人々の観光活動を支援するために設立された。障害のあるゲストを受け入れるために必要な知識や設備をホテルに提供したり、障害のある人々の雇用のために、雇う側、雇われる側の双方を対象にしたトレーニングを行ったりしている。http://vodafone.lst.tfo.upm.es/happy_tourist/ 

ヨーロッパ・フォー・オール(Europe for All)

 多くの国々で高齢化が進んでいるヨーロッパでは、障害を持つ人々が5千万人以上いる。誰もが心地よく休暇を楽しむことができるヨーロッパを目標に、ヨーロッパ・フォー・オールでは、広い意味で一般の観光活動の参加に困難を持つ人々(高齢者、子供連れの家族、様々な医療コンディションを抱える人々等)を対象に、アクセシビリティーに関する観光地や観光サービス情報を提供している。http://www.europeforall.com 

4. 誰にとってのバリアフリー

 アクセシビリティー・ツーリズムにおいては、障害を持たない人が、自分にとって当たり前のことが、他の人にとってはバリアになり得ることに気付いたり、障害を持っている人にはできないと思い込んでいたことも、やり方によっては安全に楽しめることを学んだり、それまでは見えていなかったものが見えるようになる。
 つまり、「自分は障害を持たない者」という意識を持つ人が、自らの中にあるバリアの存在に気がつき、それを乗り越える体験ができるということでもある。「バリアフリー」は、障害を持たない者にとっての言葉でもあるのだ。

 そして、「エコ・ツーリズム」「サスティナブル・ツーリズム」などといった用語と同様、アクセシビリティー・ツーリズムにおいても、その大きな目標は、多様な条件を持つ人の視点から捉えたアクセシビリティーを考慮することが観光産業でのスタンダードとなり、アクセシビリティー・ツーリズムといった呼び名が必要なくなることだろう。


ネイティブ・アメリカを訪ねる~先住民エコツアーの試み PART II

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