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外国人として住むという事

ロンドンで暮らす

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増田和子 ロンドン、イギリス
day
2009-10-06
 

国籍による違い

 日本に住んでいた時、自分が日本人という国籍を持っている事を、意識した事はなかった。自分が外国人になり、異国で生活する今、この事がいかに日本で生活する上で有利だったのか痛感している。海外駐在の命を受け、突然英国に住む事になってから4年。特別に住む事を許可されている外国人は、様々な点で英国人と区別される。英国において日本人であることに、社会制度上どのような区別があるのか、これまでの経験を基にまとめてみた。

ほとんどが外国人?


医療サービスは平等

 National Health Service(NHS)という医療サービスは、外国人というステータスによる区別がなく、正当な居住ビザを持っていれば、無料で誰でも受ける事が出来る。住所が決まると、その地域を担当するGPという医者に登録し、風邪や腹痛等の軽度の病気はGPを受診する。レントゲンや手術、その他専門医の診察が必要とGPが判断すれば、NHS診療を行う大病院が紹介される。

 この診察の予約が数ヶ月先という事が社会問題となっているが、地域差や個人の病状により、実際の待ち時間には非常に差がある。「郵便番号くじ」と揶揄され、どこに住んだかで運命が決まる。ちなみに、NHS治療の範囲として無料で使える薬の種類も全国一律ではなく、NHSトラストというNHSの運営組織により異なるので、必要な治療と薬を求めて引っ越す人もいる。

 このNHSのサービスには、様々な定期検診が含まれている。女性であれば、子宮がん検診が40歳以上になると無料で受けられる。子ども(義務教育終了の満16歳まで)は、視力と歯科の無料定期検診がある。
 それぞれ検診は1年に一回で、地域の担当医から検診のお知らせが来て、目が悪いと分かれば、検査は半年に1回となり、眼鏡が必要であれば、無料で眼鏡を作る事が出来る。歯科検診では、虫歯の検査と、歯科矯正が必要かどうかを診察し、歯科矯正が必要と判断されれば、これも無料で治療となる。

 これらのサービスを拒んで、私費でプライベートの病院に行く自由もあり、企業派遣の日本人家族は、NHSサービスの世話にならない場合が多いが、それは日本人がサービスを受けられないからではない。

 我が家も、引っ越してすぐ近所の人に担当医の場所を聞き、NHS登録をした。診察は完全予約制で、発熱などで電話すると、その日のうちに予約時間が割り当てられ診察が受けられる。診療時間はかなり正確で遅刻すると貴重な時間を無駄にしたと怒られるから要注意。日本と比べると薬を処方する量が非常に少ない。

 ある時、鼻水や咳が出るので病院に行くと、診察の後で、「処方箋等を書く必要がないほど軽症なので、することは何もない。薬局で薬剤師に相談して薬を買いなさい」と言われた。医院では必要最低限しか処方しないため、旅行のために余分に薬をお願いするなんて事はあり得ない。

 NHSサービスには、EU諸国とのサービス提携があり、EU諸国で医師の診察が必要になった場合にNHSと同様の範囲に限り無料で治療を受けられる。フランス等の欧州諸国への修学旅行の際などに、学校からこのEU医療サービスカードの携帯が求められる。日本人家庭であっても、NHS番号があればカード申請が可能で、実際申請してみるとカードは数日で発行された。

受給資格がない児童手当(Child benefit)と子ども債券(Child Trust Fund)

 16歳未満の子どもがいる保護者が受け取れるのが児童手当(Child benefit )である。16歳以上でも、大学進学に向けて勉強するか、あるいは、就職のために職業訓練を受けている場合は継続して手当受給の資格がある。受給は、収入の多寡に関わらず、子ども1人につき1週間に20ポンド(約2800円/10月5日現在*)、子どもが一人増えるごとに13.20(約1800円/同上)ポンドが追加される。子どもが一人いると、年間1,040ポンド(約14万8千円/同上)が支給される計算になる。

 さらに児童手当の受給資格者に対し、2002年9月以降に生まれた子ども一人に付き、最低額面250ポンド(約3万5千円/同上)の子ども債券(Child Trust Fund )が支給されている。低所得者の場合は、これが500ポンド(約7万1千円)まで、増額される。この債券(バウチャー)は、子どもが18歳の大学入学を迎えるまでは換金することができず、大学の学費援助の目的で支給されているものである。

 英国の大学は、以前はごく一部の人が進学するものであり、大学生は特権階級のような扱いだった。学費は全て国の負担で、学業に従事することが可能な上、生活費の支給もあった。しかし、現在は政策として、大学の数を増やし、高等教育修了者を増やす方向であるため、大学生のこうした特権は廃止されている。現在では、大学生は学費を支払うことになっており、これが若者の経済状態を圧迫しているとの批判があるが、こうした事態への政府の対応が子ども債券だと思われる。

 この児童手当と子ども債券は、英国で生活する全ての子どもに適用される訳だが、外国籍の場合は、受給資格はそのビザに状態に依存する。ビザとは、英国での滞在許可だが、ビザに「recourse to public funds」と記述されている場合は、手当の受給資格はない。全ての人を調査した訳ではないが、英国に働きに来ている日本人が所持しているビザは大抵この手当類を受給することができないステータスになっている。

選挙権

 選挙権は、当然のことながら英国籍を持つ人に認められているが、英国籍を持たない場合でもEU諸国出身と英連邦諸国 出身である英国在住者達には認められている。つまり、国籍によって選挙権の有無が決まっている。ちなみに、英国人と結婚して永住権を持っている日本人でも、日本国籍を失わないために英国籍を取得しない場合は、ずっと選挙権はないままになる。

英連邦諸国とは、オーストラリア、バルバドス、カナダ、インド、マレーシア、マルタ、ニュージーランド、サモア、シンガポール、南アフリカ、トンガ、アイルランドのこと。


 実際の選挙権は、各戸に選挙権該当者であるのかどうかの確認を求める資料が配布され、この申請用紙への自己申告に基づき作成される選挙人名簿に掲載されることにより得る。日本人は、この申請をしても選挙人名簿に登録されないので、地方および国政両方の選挙権がない。自己申告であることから、虚偽の申告も可能だが、虚偽の申告に対する罰金は1,000ポンド(約14万)。この用紙を返送しないと、選挙管理委員会から訪問者がやってきて選挙権の有無が確認される。

配偶者の相続税

 英国では、無税での相続が配偶者に認められている。ところが、その配偶者の国籍が英国人でない場合はちょっと話が変わってくる。英国籍でない配偶者は、50%の相続税を支払う必要があるそうだ。

 子どもが成長し、そろそろ老後が心配になったある日本人×英国人カップルは、この事実を知って愕然としたと言う。持ち家しかない財産は、仮に英国人である夫に先立たれると、時価評価額の半分を税金として支払わなければ妻のものにならない。どうにかして二重国籍を持てないかと思案する彼女の気持ちも良くわかる。

3倍違う英国人と外国人の学費

 英国における16歳までの義務教育、及び、その後に進学する大学入学のためのAレベルを勉強する期間の教育は、公立学校に行けばいずれも無料である。大学の学費は、前述したように無料ではなく、the Education (Fees and Awards) (England) Regulations 2007 (SI 2007, No. 779)により規定されている。通常、学費は、1学期3000ポンド程度(約43万円)であるが、英国人かそうでないかによって学費におよそ3倍の違いがある。

 英国人及びEU諸国出身、あるいは両親のいずれかがEU諸国出身であれば、英国人に適用される安い学費が適用される。一方、日本人を含むいわゆる非EU諸国の人は、その3倍の学費が請求される。大学は3学期制であるから、27,000ポンド(約380万円)から30,000ポンド(約430万円)の学費が年間で必要となる。

ロンドンの高校レベルの学校


 ただし、非EU諸国出身であっても、通常英国で生活し、英国滞在期間が永住権申請に必要な期間を満たしている場合は、個々のケース毎に事情を判断し、英国人と同様な授業料を認める事があるという。この、英国人と同様と認めるかどうかの判断基準は、卒業後英国に貢献するかどうかの可能性を推し量っている。

 単に学業のため英国に滞在するのではなく、滞在年数が長い人は、卒業後も英国に滞在し英国社会に貢献する可能性が高いと見られている。ただし、実際に卒業後の英国滞在を拘束されている訳ではないので卒業後の滞在は本人の希望による。この時、ドクターコース卒業者には滞在延長に有利な条件が設定されている。逆に、学業のためだけの滞在者には、税金により学費を補助する必要がないということから、高額の学費を請求している。

外国人比率

 ところで、ここまで「英国人と外国人」という言葉を使ってきたが、そもそも英国人の10人に9人が複数の人種を受け継いでおり、「人種的に純粋な英国人」という意味が何か分からない。また、複数の国籍を持つ事を認めているため、フランス人であり英国人である人もいる。

 その上、EU圏内の人々はビザ無しで自由に行き来するので、こうした「外国人」もたくさん住んでいるが、これらの人は「当局が外国人と見なすグループ」とは一線を画している。生活していて感じる外国人比率は非常に高いが、純粋に英国政府が移民管理する外国人の比率は35万人で総人口に対する比率はおよそ0.6%と非常に少ない。

国籍の違う国に住む

 英国は、多言語・多国籍の人が共存しているが、その移民政策は、国が必要とする人材に応じて常に変化している。移民の流入は継続的に増加傾向にあるようだが、現在、英国では、高等教育を受けた質の高い人材や裕福な投資家などの移民を促進し、社会保障負担を増加するような移民の流入を排除しようとしている。さらに、永住権のある英国籍を持たない移民に対しては社会保障の適用基準を一層厳しくしようとしている。
 加えて、英国の永住権を取るためには英語の試験に加え、英国の一般常識を問う試験が課されるなど、英国に住むためのハードルも年々難しさを増している。

 英国を含め欧米諸国は重国籍を認める国も多く、日本で考える国籍とは異なる事情も存在しており、簡単に比較できる事象ではないが、日本で住む外国人の状況はどうなっているのだろう。昨年末帰国の際、流暢な日本語を話すので一見日本人に見えるが、名札から明らかに日本人でないとわかる人が働いている場面にたくさん出会った。

 世界でも稀に見る急速なスピードで少子高齢化社会を迎えた日本。これから、ダイナミックな人の動きにどう対応していくのだろう。なぜ、日本は国籍を一つしか持てないのか疑問に思うこの頃である。


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