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現実世界の「アバター」ストーリー:企業の搾取と戦う先住民族

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Mongabay.com San Francisco Bay Area (California) 江崎絢子 オレゴン州ポートランド市
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2010-01-31
 

(注:映画「アバター」のエンディングがこの記事の中で明かされます。)

 ジェームスキャメロン監督の最新映画、「アバター」では、 衛星パントラに住む先住民が、 パンドラの資源を狙う侵略者たちと、故郷の森を守るために戦う。パンドラの資源で儲けようと開発を企む企業は、「警備」のために元海軍兵からなる軍隊を雇い、利益のためなら民族大虐殺も厭わない。

 6本足のサイが走り回り、巨大なトカゲが飛び回るこの架空の星を舞台に繰り広げられる奮闘は、まさに「遠い星」の話に聞こえるかもしれないが、利益を求める企業と先住民との、資源・土地をめぐる衝突は、決してSFの世界だけの話ではない。

 実際に、世界中の先住民は、何十年にも渡って鉱物・木材・石油・天然ガスなどの資源の搾取を最優先する大企業との衝突を強いられている。映画「アバター」に登場する会社のように、これらの大企業はたいてい政府の支援を受けており、時には元軍隊や地方警官等の「警備」力を使う権利も与えられている。

 ただ、先住民の人々が侵略者を相手に勝利を収める映画のストーリーとは違って、現実の世界における先住民の戦いが、公正な結果で終わることは、滅多にない。ペルーでも、マレーシアでも、エクアドルでも、企業の搾取と戦う先住民の苦しみと闘いは、今日も続いている。

槍 VS 銃

 映画「アバター」で、ナヴィ族と呼ばれる先住民は、先端に毒を仕込んだ矢を使って、銃・ガス・爆発物で武装した人間の侵略に立ち向かう。これは正に、「映画のような現実」だ。今年6月(2009年:訳注)にペルーで起こった先住民と警官の衝突では、政府への抗議のために集まった先住民達は槍を持つか、あるいは何も武器を持たない者がほとんどだったのに対し、警官は厳重に武装していた。

ブラジル、カヤポ族のシャーマン


 これは、Alan Garcia 大統領率いるペルー政府により、海外企業が資源搾取のために先住民族の土地を開発することを奨励する100余りの新しい規定が定められたことに対する抗議活動だった。

 武器を交えたこの衝突により、23人の警官と、少なくとも10人の先住民族の抗議参加者の命が犠牲になった。正式に発表されたこれらの死者の数について、後に先住民側は、政府が先住民の犠牲を少なく見せるために死体を川に捨てて隠蔽した、と主張している。

 事実として分かっているのは、82人の抗議者が銃弾を受け、合計120人の抗議者が負傷したということだ。催眠ガスの他に、機関銃も使用された(写真参考)という目撃証言もある。

ペルー政府の警備隊がプロテストに参加した先住民を銃撃している。 (Photo:2009年、Marijke Deleu)


 この残酷な衝突からわずか数週間後、テキサス州に拠点を置くHunt Oilは、ペルー政府から全面的支援を受け、ヘリコプターや地震調査用の大きな機械を駆使し、Amarakaeri Communal Reserve(アマラカエリ共同保護区)に侵入した。これは、映画「アバター」の中で武装した企業の戦艦がナヴィ族の土地に侵入するシーンを思わせる。地震調査のみで、300マイル(483km)もの実験用の道路、1万2千以上の爆発物、そして100ヶ所ものヘリコプター着陸用施設が、それ以前はほとんど開発の手が入らず、知られていなかったアマゾン熱帯雨林の奥地に作られた。

 先住民族の土地を守るための保護区のはずだが、このままでは石油開発のために切り開かれてしまうかもしれない。保護区に住む先住民の人々によると、 Hunt Oil の進出に関して、彼らの同意を得るための然るべき手続きは全く無かったということだ。

 先住民による抗議の原因となった新しい規定の多くは、その後憲法違反と判断され、ガルシア大統領はその内の二つを撤回した。しかしガルシア大統領は、 Hunt Oilの例が示すように、アマゾン地域の先住民族の土地における石油、天然ガス開発を進める意向を明らかにしている。

 開発対象となる地域の中には、外界との接点を持たず、伝統的な生活を続けているアマゾン先住民族の土地も含まれる。これらの部族の存在は、上空からの写真に捉えられた槍を持った姿により証明されているが、ガルシア大統領は何度もこの証拠を疑問視する発言をしてきた。抗議の対象となっている契約は、合衆国、カナダが共に合意している自由貿易協定の一部である。

ペルーとの国境に近いブラジルのアクラ州にある保護区域、Terra Indigena Kampa e Isolados do Enviraで撮影された、外界との接点を持たない先住民族の写真。(Photo:© Gleison Miranda/FUNAI)

2008年5月に NGOサバイバルインターナショナルによって発表されたこれらの写真は大きな反響を呼んだ。(Photo:© Gleison Miranda/FUNAI)


 映画「アバター」の中で、惑星侵略を率いる企業の経営者はナヴィ族を「青い猿」、「野蛮な者たち」と差別的にあしらい、企業関係者も企業に雇われた兵士たちも、ナヴィ族を人間に及ばない生物として捉えている。

 現実世界でも、ペルーのガシア大統領は、先住民の人々を、「混乱した野蛮人」「二等市民」「罪人」「無能」などと呼ぶだけではなく 、ペルーの悪名高いテロリストグループ「 Shining Path」と同等に扱うような発言までもしている。政府の許可を受けた海外企業に侵略されるペルーの先住民族の苦悩に終わりが見えないのも無理は無い。

ボルネオでの数十年に渡る抑圧:暴力、レイプ、殺人

 世界の反対側、ボルネオでも先住民族が彼らの土地を企業の搾取から救うために戦っている。マレーシアのボルネオ島に住むペナン族の人々は、木材産業のブルドーザーや電動のこぎりの進出により、彼らの文化にとって大切なお墓のための敷地も含む、先祖代々引き継がれた土地を失うだけでなく、暴力、レイプ、そして殺人までもの被害を被ってきた。

2006年3月、マレーシアの企業 Interhill のブルドーザーがペナンの中央バラム地区の Ba Abang 村に立ち入った。

1980年代後半以降、 Interhill はサラワク州の中央バラム地区で5万5千ヘクタールに及ぶ伐採権を利用し、熱帯雨林をきり続けている。(Photo: Bruno Manser Fund)


 ペナン族に対するこのような侵略が始まったのは1980年代のことだが、今日においても未だに解決の兆候は見えてこない。その上、近年では多くの企業が森林伐採から大規模なパームオイルプランテーションに乗り換えて利益を得ているため(レアリゼ注1)、伐採された森林であった土地が自然の力で回復する可能性、そしてペナン族が彼らの土地を取り戻せる可能性はゼロに近い。

 今でもペナン族の中には、ボルネオの森の中で狩猟採集と家畜を生活の糧にする生活を続ける人々も多く、企業の木材資源搾取に対し、裁判や道路のバリケードなどの手段で戦ってきた。そんなペナン族の抵抗に対し、企業はマレーシアの警察や警備隊を雇い暴力で対抗した。

 2008年、長年にわたる抵抗運動を抑えるために、ペナン族の長老 Kelesau Naan氏が殺害されたという申し立てがあった。死後2ヶ月してから見つかった死体に何ヶ所か骨折の跡があったため、ペナン族の人々は、 Naan氏が企業の一族の土地への侵入に反対していたため殺害されたと信じている。これ以前にも、1990年代にはペナン族の抵抗運動家2名が説明のつかない形で行方不明になり、2000年にはペナン族の権利を支援し戦っていたスイス人の運動家 Bruno Manser氏が同地域で消息を絶っている。

 近年でも、ペナン族の子供が開発企業の従業員から性的虐待を受けたと告白している。マレーシアの女性、家族、コミュニティー開発担当省( Ministry for Women, Family and Community Development)による110ページにも及ぶレポートの中で、これらの少女たちの証言が記録されており、政府の調査チームも、確認できる限り少なくとも8人の証言が「確かに真実である」と述べている。

 まだ10歳の子供も含め、被害を受けた少女の中には性的虐待者により妊娠した子もいた。これらの少女たちは森林伐採に関わる開発企業の従業員が家から学校まで送っていたため、その間に性的虐待行為が行われることが多かった。しかし、警察による調査では十分な証拠が得られずこの証言の確認はなされなかった。

 今月(2009年12月:訳注)も、サラワク州土地開発省( Sarawak Minister for Land Development)の役人、 James Masing 氏は、BBCのインタビューに応じ、ペナン族の人たちは「作り話が上手」であり「気が向いた時にすぐ話を変える」と発言、ペナン族の少女への性的虐待に関する証言を却下した。

ペナン族の元地域代表、 James Laloh Keso(中央):(Photo:Bruno Manser Fund)


 ペナン族の抵抗手段の一番最近の例は、どんどん少なくなっていく彼らの土地を守るための「平和パーク」という取り組みである。ペナン族の17部族が集まり、 彼らの現状に関する意識を高め、開発を引き止めるよう政府に圧力をかける目的で、16万ヘクタールほどのペナン族の土地を「peace park」と宣言した。政府はこの「平和パーク」の地位を公式に認めることを拒否し、開発は引き続き行われる予定だ。

 この30年間で、これほどの悲劇、絶望、屈辱を体験してきた先住民族は、ペナン族以外いないだろう。

レアリゼ注1:記事には出てこないが、パームオイル生産に伴う熱帯雨林の破壊を抑えようとする動きも出てきている。

 例えば2002年に、WWF、ユニリーバ(Unilever)、オーフスユナイテッドUK (Aarhus United UK Ltd)、ゴールデン・ホープ・プランテーション(Golden Hope Plantation Berhad)、ミグロ(Migros)、マレーシア・パームオイル協会(Malaysian Palm Oil Association)、セインズベリー(Sainsbury's)が中心となって、持続可能なパームオイルの生産と利用について非公式に協力を始めた。

 2003年に、クアラルンプールで初めてのRSPO(持続可能なパーム油のための円卓会議)を開催し、継続して活動している。RSPOは、公正な方法で生産されたパームオイルへの認証システムの導入を進めている。
 世界最大のパームオイル購入企業の一つであるユニリーバは、2015年までにRSPOによる認証を受けた供給企業のみから購入するという目標を発表している。
 動きは出ているが、課題は多い。私たちに何ができるのか、詳しくは、レアリゼのパームオイル・リサーチ・ユニットやメンバーの日記を参照して欲しい。

 マレーシア半島のパームプランテーションは、主にゴムプランテーションからの転換で、新規の伐採はボルネオ島のサバサラワク州で行われている。近年ではマレーシア側よりもインドネシア側での急激な森林伐採が問題となっている。また、森林伐採の目的は、パームオイルだけでなく熱帯木材、合板材の生産を目的とするものも多い。



石油の呪い
 
 また違った種類の戦いが、エクアドルでは展開している。石油メジャーのChevronは現在、買収したTexaco社が起こした環境破壊による被害をめぐり、27億ドルに及ぶ裁判の途中である。
 Texacoは1964年から1990年にかけて、18億ガロンもの有害汚染物質をエクアドルの熱帯雨林内で投棄してきたことを裁判で認めた。専門家の調査によると、 Texacoが使用した井戸の敷地の全てにおいて 有害物質 が見つかり、被害を受けた地域はロードアイランド州ほどの広さで、悪名高いExxon-Valdez による流出の30倍のレベルの被害と考えられる。

 「アマゾンのチェルノブイリ」とも言われるこのケースには、30万人もの先住民の人々が原告として関わっている。有害汚染物質は6つの部族に被害を与え、そのうち一つの部族は一人残らず死亡した。調査によると、1400人以上の被害者が、汚染が原因の癌により時期尚早の死を迎えた。

 これらの調査に基づく事実にも関わらず、 Chevron は被害者への賠償を避けるために、あらゆる手段を使ってきた。2008年に Chevron は、政治的影響力のある元上院多数党の院内総務 のトレント・ロット氏やジョン・マケイン氏のファンド・レイジング担当ウェイン・バーマンなどの大物を雇って、訴訟が取り下げられるまでエクアドルとの貿易を停止すると脅しをかけるよう要求した。
 このような働きかけは、 米通商代表 スーザン・シュワブ氏、国務副長官ジョン・ネグロポンテ氏、その他の国会議員などを対象に行われたが、 合衆国の政治的圧力を利用して3万人の先住民の要求を抑圧しようとしたChevron の企みは失敗に終わった。

 さらに、2009年9月にエクアドル政府の役人がこの裁判に関連して賄賂を受け取っている証拠であるとして Chevron が発表したビデオは、薬物犯罪の受刑者が賄賂を渡すビジネスマンの役を演じ、 Chevron との契約で稼いでいたエクアドル人の建築業者も登場する作り物の映像であったことが証明された。このビデオに映っているその他の人々も、映像が極端な編集により事実とかけ離れていると証言した。 Chevron 側は、このビデオの作成に関わったことを否定している。

 エクアドルの Chevron 裁判は2003年から続いているが、判決は未だに出ていない。 Chevron は、例え裁判で負けたとしても要求されている賠償金は払わない、という声明を発表している。 Chevron のスポークスマン ドン・キャンベル氏によると、「賠償金は支払わないし、必要ならば今後何年、何十年かけてでも戦っていくつもり」というのが Chevron 側の姿勢だ。

 2009年に劇場公開された「 Crude 」というドキュメンタリー映画は、Chevronを相手に企業責任の開明を求めて奮闘する先住民族の人々の様子を描いている。 Chevronはこの映画に対し、映画製作者や先住民の被害者の声を 軽んじる大々的な広報活動で対抗した。[Mongabay.com編集長注:この広報活動は、Mongabayの記事に対するコメントも含まれていた。]

ハリウッド映画のようには行かない現実

 映画「アバター」では、ナヴァ族は彼らの土地を地球からの侵入者から守ることができるが、現実世界でこのようなエンディングは滅多に見られない。先住民族の企業や政府との戦いは多くの場合数十年にも渡り引き延ばされ、結果的に先住民族の努力は報われず彼らの土地は少しずつ開発の手に渡っていく。

 森林は伐採され、生物多様性は失われ、森林に保たれていた二酸化炭素は大気に放出され、そして先住民の部族は外からのプレッシャーで次第に抵抗力を失い、彼らの土地が撤収されると同時に先祖代々伝わる文化や伝統も失われていく。

アマゾン西部の石油と天然ガス開発区の地図。濃い黄色で示されたエリアは、既に企業に開発権が与えられた土地。(Photo:PLoS ONE)


 先住民族の人々が度重なる不当行為を受けているにも関わらず、 マスメディアがこれらのストーリーを報道することは少ない。多くの企業が正当な罰を受けることなく先住民族の生活を破壊し続ける原因のひとつは、先進国と経済成長を遂げる途上国の底を知らない消費欲が、木材・パームオイル製品・天然ガス・石油などの資源を求め続けるからである。

 多くの鑑賞者は「アバター」を単なる派手なSFエンターテイメントとして捉えるかもしれないが、他の惑星に行かずとも我々の地球にある現実の戦いや不正を、明らかに示唆するストーリーである。

(翻訳:江崎絢子)


バーガーキング社による発表:ボルネオの熱帯雨林破壊に影響を及ぼしているパームオイル生産者との取引停止
より環境にやさしいパームオイル、アメリカに到着
サラワク政府と警察と伐採業者は、「共謀して先住民族コミュニティを威嚇し攻撃している」と断言する新しいレポート
マレーシア: オランウータン保護 VS パームオイル開発 ― 誤った記録を正す

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関連サイト
Jeremy Hance氏による原文(英語):The real Avatar story: indigenous people fight to save their forest homes from corporate exploitation (記事提供:mongabay.com)
マレーシアの先住民族(Amnesty International)
レアリゼ/パームオイル・リサーチ・ユニット
関連ニュース
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