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ある日系企業と地域NPOによる職業訓練施設立ち上げの試み

――カリフォルニア・ダイバーシティ vol.7

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飯田恵子 東京都
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2010-02-11
 

 少し前に日本では、CSR(企業の社会的責任)という言葉が広がり、企業は利益を追求するだけでなく「社会の公器として、自らが存立するコミュニティや地球規模の問題などに積極的に取り組んでいく責任がある」という議論が活発になった。

 今回は、ロサンゼルスにある日系自動車企業と地域NPOが協力し合って貧困や高失業問題を改善するために自動車技術訓練センターを設立した事例を紹介したいと思う。

背景には、ロサンゼルス大暴動

 ロサンゼルスでは、1991年にアフリカ系の青年がスピード違反で警察に捕まった際に、無抵抗であったにもかかわらず、大勢の(多くは白人の)警察官から暴行を加えられるという事件が発生した。その様子をたまたま近所の住民がビデオで撮影していたことで、それが全米のメディアで繰り返し放映され、大きな人種差別事件へと発展した。その後、暴行した複数の警察官のうち、このビデオによって身元の判明した4人の警官(白人3名、ヒスパニック系1名)が起訴された。

 しかし、起訴後、約1年が経って出された陪審員の評決は、「無罪」であった(無罪評決が出た要因は、白人の多い地区で法廷が開かれ、陪審員の中にアフリカ系の者が1人も含まれなかったためとする意見もある)。この評決に怒った一部のアフリカ系住民がサウスセントラル地区で暴動をおこしたことをきっかけに、暴動は瞬く間に大暴動へと拡大して約1週間続き、世界中にその模様が報道された。

CSRと地域の貧困・失業問題への取り組み

 このロサンゼルス大暴動の要因は、単に無罪評決が出たということに留まらず、それ以前からあった様々な人種差別や地域の貧困など複雑な問題が潜んでいる。
 1992年のロサンゼルス大暴動をきっかけに、ロサンゼルスを本拠地とする日系自動車企業のトヨタはこうした深刻な地域の問題に目を向け、CSRの観点から暴動の中心地となったサウスセントラル地区の貧困問題や高い失業率問題の改善を図ることが大切であると考えた。

 そこで、同地区のアフリカ系の地域NPOアーバンリーグと協力して、1993年に自らがノウハウを提供できる非営利の自動車技術訓練センターATCを設立した。以来、現在までトヨタとアーバンリーグは、積極的にATCの運営支援を続けている。
 近隣住民の希望などを取り入れつつ、当初はこの二者が行っていた取り組みであるが、徐々に話を聞いた多くの自動車部品メーカーや自動車販売店、市や州などの自治体が支援や協力を申し出た結果、現在では、この職業訓練センターの運営に多くの人達が関わっている。

 訪問して実際に話を聞いたところ、センターの卒業生の約7割が自動車関連会社への就職を果たしており、センターへ雇用協力を申し出ている雇用主は、現在100社以上にのぼる。

写真:自動車職業訓練センターの様子


訓練生のエスニック・ダイバーシティ(人種的多様性)

 また、訓練生のエスニシティについて尋ねたところ、「当初はサウスセントラル地区で圧倒的に多かったアフリカ系の訓練生が多かったが、近年ではヒスパニック系やアジア系、白人の職業訓練生もおり、訓練生のエスニシティは年を追うごとに多様化している」とのことであった。
 自動車技術訓練センターの概要は参考までに以下のとおりである。

資料出所:ATC


 なお、2度目に訪問した時には、訓練生の卒業式を行っており、白い角帽をかぶった卒業生とともに沢山の協賛企業や団体に対する感謝の垂れ幕がセンター中の壁にかかっていた。
 その中の日系人の卒業生に話を聞いてみたところ、「高校を中退してどうしようかと思っていた時にこの職業訓練センターのことを知った。ここで自動車に関する技術を学んで近所の修理工場に就職することができた。本当に、このセンターの皆に感謝している」という話をしていた。

 卒業式の冒頭には、ロサンゼルスの市議会議員が「この自動車技術訓練センターの設立によって、実際に同地区の失業率や治安が改善された。関係者や近隣住民の協力に心から感謝したい」という旨の話をしていた。

 今から約20年前に、死者も出す大規模な暴動の拠点になった地区にあるとは思えないような明るく清潔なセンターの中で、誇らしそうに卒業していく訓練生たちの笑顔が印象に残った。
 1人では解決できない地域の問題も、何とか解決したいと思う人は沢山いる。その地域の住民や企業、NPO、地方自治体などが力を合わせれば、このように現状を変えられるという勇気を与えられた卒業式だった。

(記事は2004年取材時のものであるが、その後同センターは、地域での一定の役割を終えて2007年に発展的に解散した)


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