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マレーシア: オランウータン保護 VS パームオイル開発 ― 誤った記録を正す

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Mongabay.com San Francisco Bay Area (California)
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2010-04-02
 

 マレーシアのパームオイル業界は、ボルネオ島北部のサバ州で、オランウータンの頭数を過去30年間に著しく減少させたとして、広く非難されてきた。同業界はこうした非難を頑なに否定しており、マーケティング・キャンペーンをもって、反対の主張を掲げて応じてきた。すなわち、アブラヤシ(オイルパーム)のプランテーションは、この大型の赤いサルたちを養い、栄養を与えることができるというのである。

 この議論は、去る10月コタキナバルで開催された「オランウータン・セミナー」で頂点に達した。その席上、オランウータン研究の生物学者からの抗議を受けて、パームオイル業界は、川沿いに森林地帯を復旧を支援することを確約した。残された森林指定地の中を、アブラヤシ(オイルパーム)のプランテーションの「海」を横切って、オランウータンが移動するのを助けるためである。

 出席した非政府組織(NGO)諸団体は、業界と協力して野生のオランウータンが生き延び続けることができるよう、均衡点を見出す必要があることで一致を見た。
 それでも会議では、これまでに行われた多くの会議と同様に、美辞麗句の多用ばかりが目立った。パームオイル業界の役員トップは、同業界が環境の世話役を務めているなどと、またもや疑わしい主張をしたのである。しかし今回は少なくとも、パームオイル業界が環境保護において、積極的役割を果たす必要があるという認識は持っていた。

 「パームオイル産業は環境のために配慮を示すだけでなく、環境保護において現に、実際、積極的役割を引き受ける努力の一部となりたい。」マレーシア・パーム油協議会(MPOC)のダト・リー・イェオー・チョア会長は、会議の席上そう語った。

シャングリラ・ラサ・リア・リゾートで開催された「2009年オランウータン・セミナー」で、調査結果を紹介する氏 (昨年10月、マレーシア、サバ州) (写真:  H. クラー(HUTAN))


 何人かの環境保護論者が、業界が熱帯雨林を保護するという確約に対して疑念を表明する一方、今回のイベントの企画を支援したNGOであるHUTANの共同創設者兼共同理事マーク・アクレナズ博士は、両者が少なくとも話し合いをしていることに勇気づけられたという。

 同会議に対する補足、および同会議後の見解の一部として、アクレナズ博士は、HUTANの活動が集中しているサバ州およびキナバタンガン川流域におけるパームオイル生産に関するいくつかの質問に答えた。

HUTANとマーク・アクレナズ博士との質疑応答

 パームオイル業界はオランウータンの減少に直接の責任がない、という主張がワールド・グロースなど諸団体からなされていますが、同意されますか。

下キナバタンガンのモノカルチャー(単一の農作物の生産)による景観の分断。河畔林がなく、何箇所かでヤシがキナバタンガン川に向かって一帯に植えられている。(写真:ノビスタ)


アクレナズ博士: そのような主張は誤りで、無責任で、誤解を招くものです。サバ州での遺伝子研究によれば、オランウータンの頭数は過去数十年間に、50パーセントから90パーセント減少しています。この激しい減少は、狩猟やペット取引などいくつかの原因によるものですが、第一の理由は、森林が切り倒されて農業に転換される際の森林の喪失です。

 野生のオランウータンが生息するボルネオ島とスマトラ島では、森林は主としてパームオイルおよび産業用樹木のプランテーションに転換されています。森林が転換されると生物多様性が極度に失われ、オランウータンなどの種が撲滅されてしまいます。これは間違いありません。

 ではワールド・グロースやその他のパームオイル業界関連団体はなぜ、そのような誤った主張をするのでしょうか。

マーク・アクレナズ博士: オランウータン派とパーム油派の2派があるからだと思います。両派とも熱が入りすぎて、現場のありのままの状況を公平に見られなくなっています。

 環境保護論者の激しい非難の的となってきた企業は、非常に防御的な「グリーンウォッシング」アプローチを採ってきました。この問題に根源的原因があることを否定するのです。

 一方、NGO諸団体は「ブラック・ウォッシング」と呼ばれる反対の戦略を採ってきており、現場で直面するすべての問題が企業の責任であると主張しています。こちらも正しくありません。この状況は実に残念なものです。現段階の議論は、まったくどの方向にも動けないからです。私たちは皆、力を合わせて解決策を特定する必要があります。

 それが、マレーシア・パーム油協議会(MPOC)と最近、協力された理由でしょうか?

   現地にて(マレーシア、サバ州、下キナバタンガンの鳥獣保護区)


アクレナズ博士: まず、サバ州野生生物局の前局長、故ダトゥク・パトリック・マハディ・アンダウ氏に賛辞を表さなければなりません。氏はボルネオ島環境保護信託(BCT)の役員として、サバ州においてプロジェクトを展開するためにMPOC から接触を受け、パーム油地帯内のオランウータンの状況を見るように提案しました。

 この調査は、精密な情報をすぐにMPOC に直接伝達する機会となりました。これら結果を業界の土地利用戦略に組み入れるようにするのが、その目的です。MPOC が何らかの協力のために門戸を開いたので、環境保護論者と業界が同席して解決策を見出す努力が、現場の状況を改善するためにきわめて重要だと感じました。

 しかし、オイルパーム・プランテーションの内側を見るというのはなぜですか。

アクレナズ博士:  2004 年にHUTANとサバ州野生生物局が行った調査で明らかになったことは、サバ州には1万1000頭のオランウータンがいたのですが、驚いたことに、その62パーセントが、保護区域の外、材木用に主として利用される非保護区域の森林で見つかったのです。
 しかしながら、オイルパーム・プランテーションの「内側」にいるオランウータンについては、何も知られておらず、プランテーション地帯内でオランウータンが見つかるか、私たちは調査したかったのです。

 それではアクレナズ博士、サバ州のアブラヤシ地帯内の状況はどうですか。 

下キナバタンガンのモノカルチャー(単一の農作物の生産)による景観の分断。河畔林がなく、何箇所かでヤシがキナバタンガン川に向かって一帯に植えられている。(写真:ノビスタ)


アクレナズ博士: 今日オイルパーム・プランテーションは、サバ州のうち1万4000平方キロメートルという驚くべき範囲に及んでいます。これはなんとシンガポール20個分に等しい広大な土地が、プランテーションだということです。このためにサバ州は、マレーシア第一のパームオイル生産地なのです。

 ヤシは500メートル未満の低地に植えなければなりません。あいにくこうした低地の森林は、かつて農業に転換される前、オランウータンその他の野生生物の大集団が生息していました。

 ですから低地の生育地でオイルパーム・プランテーションを展開することは、ボルネオ島でしか見られない生物多様性の故郷を破壊することなのです。より局地的な規模で、私たちは1998年から、下キナバタンガン鳥獣保護区でオランウータンを研究しています。

 この保護区は約1000頭のオランウータンの生息地ですが、ここはオイルパーム・プランテーションに囲まれた森林の孤立した小区画に、きわめて「分割されて」います。最近気づいたことですが、若い雄のオランウータンたちが、私たちの研究地から姿を消していくのです。しかし彼らがどこへ行くのか、手がかりは何らありませんでした。

 もちろん、私たちはこのことをさらに調査したいと思いまして、MPOC からの財政的支援を得てBCT の下でなされた本プロジェクトが、サバ州東部のこの状況を調査する機会を私たちに与えてくれたのです。

それで何がわかりましたか。

アクレナズ博士:  驚くほど多くのオランウータンの巣が見つかったのです。それはオイルパーム・プランテーションの内側や、オイルパーム・プランテーションの展開によって本土の森林から切り離されてきたマングローブの森林の中で、極度に孤立して退化した木の切れ端の中にありました。
 数百頭の個体がサバ州東部の広大なパームオイル地帯で見つかるものと、私たちは思っています。すなわちキナバタンガン川、セガマ川、スグット川などの流域です。

 そのオランウータンたちが、パームオイル・プランテーション内で生き延びるように順応してきたということですか。

アクレナズ博士: こうした調査結果が他の人々にまた誤って引用されることがないよう、ぜひとも、ここではっきりさせておきたいと思います。

 オランウータンは、パームオイル・プランテーションの環境に順応してきたのではありませんし、プランテーション内で現状では生き延びることもできません。

 それは人間に、ジャガイモだけ食べて生き延びてください、と言うのに等しいのです。生き延びて健康でいるために人間がいろいろな食物源を必要とするのと同じように、オランウータンもいろいろな食物源が必要なのです。私たちがキナバタンガンで調査する間に、300種を超える植物が、森林のオランウータンに食べ尽くされているのを確認しています。これらの森林は彼らの天然の生育地なのです。

 しかしアクレナズ博士、パーム油地帯内でオランウータンたちが見つかったとすれば、彼らは生き延びているということではないのですか。

アクレナズ博士: いいえ、そういうことにはなりません。

母と子の写真(キナバタンガンの鳥獣保護区)(写真: ジョラーワン・ビン・タカシ所属、ズラーワン(HUTAN))


 私たちはオランウータンたちの生態を考慮に入れなければなりません。まず第一に、雄たちは大人になると、新たな森林を捜し求めて、自分の生まれた森林を離れていきます。彼らの縄張りを確立するためです。これがいわゆる「離散」です。

 しかし今日、森林は比較的小さい区画にひどく分断され、切り離され、孤立しています。特にキナバタンガンの氾濫原などがそうです。サバ州では、これは主としてアブラヤシ(オイルパーム)・プランテーションによるものです。

 ですから、オランウータンには選択の余地がありません。彼らは森林の小区画を捜して、危険を冒してアブラヤシ地帯を横切るのです。新しい森林を捜しながら、プランテーションを移動する間に、彼らは生き延びるためにヤシの実や若葉を食べるのです。彼らは地面を歩いて、見つかった木の切れ端の中に巣を作らなければなりません。

 問題は、彼らが生き延びられる大きさの森林の小区画を見つけるために、どれくらい時間がかかるかです。1週間なのか。ひと月なのか。うまく見つかるのか。この一面の広大な地域で道に迷わないのか。私たちはこうした疑問に対して、まだすべての答えを得てはいません。

 なぜオランウータンたちは、自分たちのいる森林に身を置いたままでいられないのでしょうか。なぜ離散するのでしょうか。

アクレナズ博士: 離散によってオランウータンたちは遺伝子を掛け合わせ、近親交配その他の遺伝子異常が個体群に起こるのを防止するのです。さらに、小規模の森林が散在していると、希少な食物資源を求めるオランウータンたちの間で、過密と闘争が起こり得ます。この場合、孤立した森林小区画の中で生き延びられるオランウータンの数を調節するのに、離散が必要なのです。

 オランウータンのために、何ができますか。

アクレナズ博士: サバ州のオランウータンを助けるために、今まさに私たちができることは、非常にに多いのです。私たちの調査結果は、パームオイル業界は、オランウータン保護に貢献するチャンスを与えています。パームオイル業界は過去に、オランウータンの減少をかなり促進したのですが。

 優先すべきことは、プランテーションの地所の至る所に細長い森林地帯を確保し、今なおオランウータンの住まいとなっている孤立した森林をつなぐ、という真剣な努力ではないでしょうか。

 しかしながら、このアプローチは地域によって特定されたものです。キナバタンガン氾濫原を例に取ってみましょう。最近コタキナバルで企画された「2009年オランウータン・セミナー」の参加者たちは、川の土手に沿って最低限100メートルの幅で、切れ目ない細長い森林地帯を確保するよう求めました。

 そのような細長い森林地帯があれば、オイルパーム(アブラヤシ)・プランテーション地帯を横切るオランウータンを助ける長い道になります。彼らが離散する時もそうですし、ボルネオゾウなどその他野生生物が離散する時もそうです。ボルネオゾウはサバ州、およびインドネシアのカリマンタンとの国境地帯にしか見られない動物です。

 こうしたことはまだなされていないのですか。キナバタンガンの内部で、パームオイル業界がそのように寄与してきたことについて、書かれてきたものはたくさんありますが。

母と子の写真(キナバタンガンの鳥獣保護区)(写真: ジョラーワン・ビン・タカシ所属、ズラーワン(HUTAN))


アクレナズ博士: その通りです。キナバタンガンについて、書かれたり言われたりしてきたものは、たくさんあります。しかし多くの場所で今なお、キナバタンガン川沿いに土手に至るまで、ヤシが見られます。これでは、動物たちはプランテーションを通って行く以外に、離散することができません。

 細長い森林地帯を川沿いに作り直せば、動物たちは通路と食物を得ることになります。さらにこうした森林地帯は、他の野生生物種のためにもなり、農業の慣行が環境に与える否定的な影響が緩和されることで、水質の改善に大いに貢献することになります。

 パームオイル企業のなかには、すでに森林地帯を地所内に再生することに取り組んでいるところもありますが、得られた土地の広さはごく狭く、キナバタンガン全体の将来を確保したければ、本格的な行動をアブラヤシ地帯のレベルで取る必要があります。

 州政府はすでに、サバ州野生生物局および観光・文化・環境省を通じて、行動を起こしているところです。これら当局者は下キナバタンガンの鳥獣保護区のために、この「命の通路」を作るよう働いています。

 一方で残念なことに、あまりにも多くの資源がグリーンウォッシング活動に割り当てられています。こうしたグリーンウォッシング活動を推進しているのは、「ワールド・グロース」などの団体です。特に、現場で状況の改善を試みずにオランウータンの価値を高めようと、根拠のない主張が続けざまになされる際に顕著です。

 ここで強調したいのは、オランウータンが生き残る可能性を高めるために、今こそ、現場の問題を解決し、または最小限に抑えるべきであり、先延ばしにはできないということです。

 グリーンウォッシングを止め、十分な大きさの森林通路および森林小区画を作り直すために、投資を始めるべきです。セミナーの間に認められたように、業界内でも、天然資源を取りすぎて、生態系が崩壊する前になんとかすべきだ、という認識が広がっています。

 最終的に、パームオイルの経済的な価値と、パームオイルが開発のために貢献する可能性に反論する人はいないでしょう。しかし大事なのは、正しい形で開発を行い、持続可能なパームオイルという、この議論と問題を適切に解決することです。

マーク・アクレナズ博士は野生生物研究の生物学者で、アフリカ、サウジアラビア、ボルネオ島で20年の経験を持つ。「PLOSバイオロジー」「ネイチャー」「アニマル・コンサベーション」など、専門家により評価される雑誌に、多数の論文を発表してきており、また自らもいくつかの科学雑誌のために論評している。
アクレナズ博士は、フランスの非政府組織(NGO)、HUTANの共同創設者兼共同理事である。同NGOはキナバタンガン川沿いの村スカウに拠点を置いている。キナバタンガン川は、ボルネオ島にあるマレーシアのサバ州東海岸に位置する。1998年以来HUTANは、サバ州野生生物局と協力して、野生のオランウータン保護の問題に取り組んでいる。アクレナズ博士は、サバ州野生生物局の諮問委員会の委員でもある。博士はまた、国際自然保護連合(IUCN)の「種の存続委員会」において、霊長類専門家グループのうち、ヒト科部門の運営委員会委員を務めている。



mongabay.com
2010年1月16日
HUTANによるマーク・アクレナズ博士のインタビュー
翻訳:猿渡薫


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