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インドネシア、スマトラにおける新しい村づくりのプロジェクト(オイルパームプランテーション開発の問題)

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伴昌彦 東京都
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2008-07-30
 

 第2回共同リサーチでは、「人と地球に厳しいパームオイルを避ける方法(2008年4月~5月掲載:全5回)」と題して、パームオイル・プランテーション開発における環境破壊や人権侵害の問題や、問題のあるパームオイルを避ける方法についてのリサーチを行いました。
 今回、2003年末から約4年にわたって、アジア、アフリカ、中南米の各地を居候しながら放浪してきた千田志保さんという女性から、彼女が2005年にスマトラに滞在していた時の報告を頂きました。パームオイルの問題とも深い関りのある興味深い記録なので、ここに掲載することにします。


インドネシア、スマトラにおける新しい村づくりのプロジェクト

 インドネシア、スマトラ島中西部にあるミナンカバウ族の村で、オイルパーム(油ヤシ)のプランショーン企業との土地をめぐる紛争を契機として、村人自身による新しい村づくりのプロジェクトが進められている。解決が見えぬまま長期化する紛争と、それに伴う村内の分裂に疲れた人々は、目先の経済的な豊かさを求めるのではなく、人と人や人と自然とのつながり、自らの伝統文化を大切にした、農民としての誇りある暮らしのあり方を、このプロジェクトを通じて見直し始めている。

<村の概観>

 アナック・アイエ・マゴ村は、インドネシアの西スマトラ州の北西部、西パサマン県ササック郡に位置する、ミナンカバウ族の村である。ほぼ赤道直下に位置し、年間を通じて雨の多い熱帯雨林気候に属し、ゆるやかに起伏する土地には多くの沼地が見られる。

 住民の95%は農民であり、主食となる稲のほかに、トウモロコシ、豆、野菜類、バナナやドリアンなどの果物類と、現金収入源としてみかん、オイルパーム(油ヤシ)、カカオ、ゴムなどを栽培している。また川や沼地で獲れる魚も重要な蛋白源になっている。近年、村の各屋には電気が通じ、急速にテレビが普及しているが、近隣の村にはまだ電気が来ていないところもある。

 水道はなく、入浴、排泄、洗濯はいずれも近くの田んぼの用水路などで行う。水路の中で歯磨きをしていると、そこに誰かの排泄物が流れてきたりもするが、そんなときはちょっとやりすごしてからうがいをする。

 州都パダンからは公共バスで半日、日常の交通手段はオートバイであり、高齢者を除いて男女問わず、隣近所の家や畑に行くにも子供たちの学校の送り迎えにもバイクを使用している。歩くというのは貧乏人のやること、恥ずかしいこと、という意識が人々の中に広がっており、歩けば15分で行けるような距離を、迎えのバイクが来るまで何時間でもだらだら待って過ごすのは、歯がゆい感じがしたものだった。

<プロジェクトの背景・・・終わらない土地紛争と消費経済の拡大>

 アナック・アイエ・マゴ村では1990年、ドイツ、シンガポール、インドネシアの合弁による多国籍企業ゲルシンドゥ社が村の共有地6000haを借用してオイルパーム(油ヤシ)のプランテーションを操業開始した。同社は見返りとして、土地を拓き、オイルパーム(油ヤシ)の苗を植えたら、ただちに借用地の40%にあたる2500haを苗付きで村に返す約束をしたにも関らず、以後一切の土地の返還を拒んでおり、村人との間で土地をめぐる紛争が続いてきた。

 この間、村人は返還要求闘争のための組織をつくり、陳情や話し合い、デモンストレーションの他に、山刀を持っての土地の実力占拠や、呪術による戦いなども行ってきた。また相手企業だけではなく政府にも解決を訴えてきたが、政府は一貫して企業の利益を優先してきている。

 かつて人々は当該共有地に果樹園を作ったり、建築用木材を調達したり、野生のラタンを採集して現金収入源にしていた。また魚も豊富に獲ることができたが、工場排水による水質汚染で漁獲量が大幅に落ち込んでおり、畑の作物にも病害が増え、収量が減っているという。また工場からの煙も風向きによっては周囲の畑や庭に害を与えているという。

 紛争が長期化する中では、村人組織のメンバーの一部が企業側からの賄賂を受け取り返還闘争から離脱するなど、村人間での分裂も生じてきた。現金を手にした人からバイクを買い、テレビを買い、家を立て替え、携帯電話を買い、二台目のバイクを買い、三台目のバイクを買い、子供を町の学校にやり、モデラン(近代的)な生活を実現する。

 人々の中には消費と顕示による競争が激化し、羽振りの良さが人々の羨望を集め、かつて人々の尊敬を集めていた物知りの年寄りは軽視されるようになっていった。畑で必死に働く親達は、子供が将来農民にならなくて済むよう、いい教育を受けさせたいと言う。子供たちは畑にいる親達を余り手伝おうとはしなくなり、親たちも子供たちに手伝いを期待しなくなる。学校を出て職にありつけない若者たちも、結婚して必要に迫られるまでは農民として働く意欲を持たずにぶらぶらしている・・・。

 インドネシアでは植民地時代、他国と同様、現地人官吏の養成目的で近代教育機関が整えられた経緯があり、ホワイトカラーを近代的で高貴なもの、農民を貧しく野卑で低いものと考える風潮が見られる。今、人々はテレビを通じて都市での豊かな消費生活のイメージを日々刷り込まれており、農民という貧しく卑しい生き方を抜け出したい、あるいはできることなら子供たちはそこから抜け出させてやりたいという考え方が一般的になっている。

 また大手企業が販売する種子や化学肥料、農薬が普及し、農民の暮らしも現金なしには成り立たなくなっており、消費経済やマテリアリスム、自分たちさえ豊かになれればという個人主義が強まりつつある。

<新しい村づくりのプロジェクト>

 このままでは土地が返って来る前に、あるいは土地が返ってこないという結果になったとしても、人々の心が互いに離れ、荒廃し、村でともに幸福に暮らすことができなくなってしまうのではないかという危機感を持った村人たちが始めたのが、このプロジェクトである。

 共有地は法的にも保障されており、本来その使用権限はコミュニティにあるが、政府はしばしば企業の利益を優先して開発許可を与えることがある。特に常時使用していない二次林のような形で残された共有地は開発の対象になりやすい。そこで、残された共有地が企業によって取り上げられてしまう前に開墾し、農民として誇りを持って自立的に生きられる新たなコミュニティづくりと、そのベースとなる人づくりをめざそうというのである。(2ページ目に続く)


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