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農村とつながる旅のかたち (フランスから「旅」を考える ①)

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今成彩子 フランス パリ郊外
day
2010-07-16
 

 フランスに住み、フランスの国内旅行をしていると様々な発見がある。バカンス(長期休暇)を人一倍楽しむ国だけあって、旅のスタイルは多様で旅行関連のサービスも充実している。とはいえ、旅行者の「快適さ」を追求することだけが旅行サービスではない、というのがフランスを旅行していて常に感じることだ。自然の景観を守ることや文化遺産の保全が、ひとりひとりの旅行者に豊かな旅体験を提供する要素となっている。

アキュイユ・ペイザンの休日

 数日間の休暇をとって、どこかに行こう!というとき、泊まる場所を探すために、まず開いてみるウェブサイトがある。「Accueil Paysan(アキュイユ・ペイザン/農家のもてなし)」のホームページだ。

 アキュイユ・ペイザンは、農村に暮らす人びとと旅行者とをつなぐネットワークで、 もともと農村の活性化や小規模農家の支援を目的に立ち上げられた。ウェブサイトでは、フランスの地図から地域を選び、その周辺にある農家経営の宿やレストランなどを探すことができる。

アキュイユ・ペイザンのウェブサイト


 先日、2泊3日で西部のポワトゥー・シャラント(Poitou-Charentes)地方に遊びに行った際にも、アキュイユ・ペイザンで宿を決め、ジェヌイエ(Genouillé)という静かな農村に滞在した。

 アキュイユ・ペイザンで紹介されている宿は、たいてい広大な農地の中にあることが多い。隣の家まで、車で10分かかる、という宿も少なくない。今回滞在した、ジェヌイエの宿も例にもれず、宿の周りには、見渡す限り畑や森や山が広がっていて、なんとも言えず気持ちのいい景色に囲まれていた。

 トウモロコシ畑に面した緑いっぱいの庭に身を置いていると、鳥のさえずりや虫の音色だけが、心地よく聞こえてくる。生命力に満ちた豊かな静けさに、都会暮らしで堅くなった体中の細胞が、ひとつひとつ開いていくような満ち足りた感覚を覚える。

 夜になると、周りは濃い闇に包まれ、宿の明かりだけが柔らかく灯り、宿泊客を迎え入れてくれる。宿によっては、前もって予約をすると、季節の食材をふんだんに使ったディナーをご馳走になることもできる。私たちは今回、ジット(Gîte)と呼ばれる台所つきの宿泊施設に滞在したので、夜は自分たちで食料を調達して食卓を囲んだ。

朝もやの中にひろがる農村の風景


 実を言うと、今回の旅の主な目的は、ジェヌイエの宿から車で30分〜45分ほどのところにある海沿いの一帯と、2つの島を訪れることだった。旅の効率を考えれば、海沿いに宿をとることもできたが、それではなんとも味気ない・・・と思う自分がいる。

 アキュイユ・ペイザンの宿に泊まることで味わえる自然とのふれあい、そして人との豊かな出会いを知ってしまうと、少しぐらい遠くてもこちらを選びたくなるのだ。

 こうした出会いがなければ足を延ばすこともなかっただろう小さな村や農地で、田舎の、そしてフランスの奥深い魅力を再発見し、旅行がより楽しくなる。地平線まで広がる畑の風景や森の空気が、旅行後の日常でもふと思い出され、日々を生きるエネルギーになってくれる。

農村を守り育てる「旅」

 旅行者にとって得るものが多いアキュイユ・ペイザンの宿だが、経営する農村の方々にとってはどうなのだろうか。また、フランスにはアキュイユ・ペイザンのネットワークが確立される以前から農村ツーリズムが存在していたが、その中でアキュイユ・ペイザンが育ってきた理由はなんなのだろう。

 今回泊めていただいたジェヌイエの宿を経営するモリセット夫妻が、そうした疑問に答えてくれた。偶然にも、モリセット夫人はアキュイユ・ペイザンの地方代表を務められていて、活動についての興味深い話を、いろいろ教えていただくことができた。

 「わたしたちは7年前に、このゲストハウス・レストランを始めたの。それまでは、農とあまり関わりのない仕事をしていたのだけれど、二人とも、もともとこの土地に住んでいて自然が好きだったし、何よりも人が大好きだったから、ずっとこういうことをしてみたかったのよね。
 夫のフィリップの退職を機に、ここの土地を買って、息子と一緒に建物を少しずつ直していって、今のような形になったのよ。」

モリセット夫妻の宿


 モリセット夫妻の宿には、シャンブル・ドット(chambre d’hôtes)と呼ばれる民宿スタイルの建物と、前述した台所つき一軒家の宿、ジット(Gîte)とがある。

 通常、ジットは家族や4〜6人くらいのグループが一週間単位で借りるものだ。シャンブル・ドットの方は5部屋あり、最大で15人ほど宿泊できるようになっている。
 どちらの建物もシンプルで居心地の良い作りになっていて、台所やシャワールームも使い易かった。息子さんが建築に関わる仕事をしているのかと思い、聞いてみると、そうではないという。

 「わたしたち、建築なんて全く勉強していないのよ。家を直すのに建築の知識なんていらないわ。技術は本で学んで、自分たちの感じるままに直していけばいいんだから。」

 家の中は壁の塗り方や家具の設置の仕方に、ちょっとした遊びがあって面白い。その遊びが、宿泊客に自分の家で過ごしているような安堵感を与える。それにしても、これだけの部屋が全て埋まったら、二人だけで手が足りるのだろうか。

 「私たちの宿は規模が大きいほうね。宿によって、部屋の大きさや部屋数は違うのよ。私たちはレストランで出す野菜を庭で栽培しているくらいで本格的な農業を営んではいないから、大勢のお客さんが来ても対応できるけれど、専業農家ではこうはいかないでしょうね。もちろん忙しい時はあるわ。5部屋が全部埋まって、全員がディナーを食べたいと言ったら、もうその日はディナーの準備で大忙し。」

 そしてバカンスシーズンで忙しくなる頃には、スタージュ(※1)の学生を雇うこともあるそうだ。ちょうど、私たちが滞在した時にも、女の子が一人スタージュ生として手伝いに来ていた。

畑はモリセットさんの楽しみ


 「アキュイユ・ペイザンは、主に小規模農家が、『農』をつづけながら自活するための手段として、『もてなし』を位置づけているの。だから、食事だけを提供するところもあれば、1〜2部屋だけの宿を経営しているところもある。その家庭にあった規模で『もてなし』を提供しているわ。」

 昨年、ブルターニュ地方でお世話になった宿のことを思い出す。そこは100頭の乳牛を世話する酪農家の宿で、民宿は3部屋ほどだった。夫を10年前に病気で亡くした50代の女性と、30歳になる息子さんの二人が、酪農と民宿業を元気に切り盛りしていた。

 彼らも、本業の酪農がいちばん忙しくなる時期には民宿を休む、と言っていた。一方、農閑期の民宿経営は大切な収入源だという。酪農をつづけながらの民宿経営について「いろんな人に酪農業を知ってもらえる機会になるし、何より外の人との触れ合いは良い刺激になる。忙しくてもずっと続けて行きたい」と語ってくれた。

 アキュイユ・ペイザンの宿泊費は、直接、小規模農家の生活の糧となり、いわば国内の小規模農業を支える小口支援のような役割を果たしているようだ。

農村ならではの「もてなし」を見直す(次頁)
 


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