私たちは次に、「オーガニック認証のパームオイル」について調べることにした。欧州のオーガニック認証団体は、環境という観点だけでなく、社会的な観点も基準に入れていると聞いていたからだ。「オーガニック認証」が付いていれば、多少コストアップしても、問題のないアブラヤシだけを集めてパームオイルを生産することができるかもしれない。
そこで私たちは、日本のオーガニック認証団体である日本オーガニック&ナチュラルフーズ協会(JONA)、認証団体の連合組織であるIFOAMジャパン、さらにフランスのECOCERT(世界最大のオーガニック認定機関)の3団体にメール・電話で問合せをし、「オーガニック・パームオイル」というものが存在するか否か、またその認定基準について質問をしてみた。
まず分かったのは、オーガニック認証基準は各国で異なり、日本では有機JAS法が基準となっていること。しかし有機JAS法では社会配慮の基準がない。そのため、もし有機JAS認証がついているパームオイルがあったとしても、環境・社会に問題がないとは言えないのだった。
また世界的なオーガニック食品の基準として、80カ国以上、約500団体の有機農業団体及び関連団体のつくるNGOのIFOAMが策定する基準がある。IFOAMの基準では、ソーシャル・ジャスティスという項目があり、景観保護や労働条件についても基準に入っている。
したがってIFOAMの基準を充たした団体の認証であれば、パームオイルの社会的な問題について考慮している可能性がある。ただし、IFOAMの基準は、①目標、②推奨、③基準、の3段階になっていて、社会正義については①と②に含まれて、③に含まれていないため、厳密な基準とは言えないようだ。
次に、フランスのECOCERTに問い合わせたところ、「環境と社会に配慮したパームオイルは存在する」という自信に満ちた回答が返ってきた。それは、コロンビアのダーボン社である。ECOCERTはダーボン社にオーガニックおよびフェアトレードの認証を与えている。
ECOCERTによれば、パームオイル農場の認定基準として、原生林を破壊していないこと、開墾前の土地が草地であることを規定している。ダーボン社はその基準を充たしており、人権に関しても、SA8000(ILO等によって策定された、基本的な労働者の人権の保護に関する規範を定めた規格)に基づいている。これは、労働者の人権に関するECOCERTの基準とも一致しているとのことだった。
コロンビアのダーボン社
「環境・社会に配慮したパームオイル生産の可能性」を調べる過程で、フランスのオーガニック認証機関のECOCERTがお墨付きを与えたダーボン社の日本支社を訪問した(2008年11月)。ダーボン社は、パームオイルだけでなく、バナナなどのオーガニック食品の生産から加工、流通まで行っている。五反田にあるダーボンジャパン社を訪問すると、若く快活なコロンビア人のカンポス社長が応対しれくれた。
ダーボン社のパームオイル農場は、コロンビアの標高5,700mサンタマルタ山の山麓にある。水が多く、川もピュアで、自然に恵まれた場所にあり、有機栽培をするには素晴らしいというECOCERTのお墨付きを得てから有機農業を始めたとのこと。6000haが自社農園で、抽出工場、精製工場、BDF工場を持っている。生産量は40,000t/年。BDFは100,000t/年の計画という。
ダーボン社のパームオイルは、ECOCERTとRSPO*の認証を受けている。RSPOの認証方式は、四つある。
(1)単一の認証農園から認証パーム油をエンドユーザーが購入する方法(IDENTITY PRESERVED(IP))
(2)複数の認証農園から認証パーム油をエンドユーザーが購入する方法(SEGREGATION)
(3)認証パーム油と非認証パーム油の混合した油を、「何%認証オイル使用」として販売する方法(Mass Balance(MB),)
(4)認証農園がクレジット(証書)を発行し、販売企業が購入するBook and Claim。
最初の二つは100%トレーサビリティを確保する完全分離方式になる。ダーボン社は完全分離(IP)方式で、トレーサビリティを確保している。最後の、ブック・アンド・クレーム方式では、RSPO基準を適用した生産者は、その量に応じたクレジット(証書)を発行し、そのクレジットを購入した販売業者は、擬似的にRSPOのオイルを購入したと見なし、RSPOラベルを使用することができる。
一見して、完全分離式が当然のように思えるのだが、事はそう単純ではない。インドネシア・マレーシアでは、近隣の農園で作った油を集めて一つの工場で精製するため、一つの農園で環境・社会に配慮して生産したとしても、精製の段階で他の農園と混じってしまう。
ダーボン社で完全分離式が可能になるのは、コロンビアの農場が小さいからだ。ダーボン社が所有するパームオイル農園は6000ha、提携する他の農園も数千haの規模だが、マレーシアでは何十万haという規模になる。
RSPOの会議では、ユニリーバが、ブック・アンド・クレームを主張し、ザ・ボディショップは100%分離方式を主張したのだが、前者はインドネシア・マレーシアからパームオイルを購入しており、ザ・ボディショップはダーボン社からパームオイルを購入していることが、この対立の背景にあるようだ。ダーボン社のパームオイルは、高級商品の少量生産だとも言える。
「平和のための連携」プロジェクトについて(次頁)
カリマンタンにおけるプランテーション開発/BIN (中間報告 Vol.7)
サラワク州におけるプランテーション開発と先住民との関係/FoEジャパン(中間報告 Vol.5)
ボルネオ島のプランテーション開発/BCTジャパン (中間報告 Vol.4)
パームオイル代替オイルの可能性/バイオディーゼル燃料編 (中間報告 Vol.3)
パームオイルの流通現場からのヒアリング (中間報告 Vol.2)
パームオイルに関する政策提案の試みからリサーチ・ユニットへ (中間報告 Vol.1)
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