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アートスペース “ブリム”って何?/ヒトに効くアート Vol.2

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高橋幸世 バンクーバー、カナダ
day
2007-07-30
 

小さなアートスペース

 壁一面に描かれたアート作品を、白ペンキで消している若者達がいる。せっかくきれいに描かれているのに、ちょっともったいないなと思うが、来月の展示作品に場所を譲るのだから仕方がない。次のアーティストはビデオ・インスタレーションをやるというので、壁塗りが終わったらドリルで壁に穴をあけて、TVモニターの設置。ドリルのモーターの音が響く。
  通りに面した小さなショーウィンドウには、やっぱり若いアーティストの女の子が、小さな動物の模型や植物を使ったジオラマ作品を設置している。

「ここの壁、ピンクに塗ってもいいかしら」
「どうぞ、ご自由に」
 女の子はサンドイッチをほおばりながら、床に座って作業を続けている。

 自分で手を動かして作業する、それが “Blim”(ブリム)のやり方だ。カナダのバンクーバーの東、2010年の冬期オリンピックのための再開発がはじまった旧工業地帯に程近い「メイン通り」に、この小さなアートスペース「ブリム」はある。
  アートスペースと言っても、ブリムはアートギャラリーではない。よく道行く人が看板を見かけて入ってくる。彼らの共通の質問は「ブリムって何?」。

[ブリムの入口]


アート・リソース・センター「ブリム」

 この質問に、ブリムのディレクター、日系カナダ人のユリコさんは「アート・リソース・センター」と答える。ブリムでは毎日なにがしかの「アート」が起こっている。シルク・スクリーンプリントのワークショップ。編み物ナイト。ドローイングナイトに、ダサいTシャツをリメイクするソーイング・ワークショップ。エレクトロニクス・ワークショップに、映画上映会。そして週末には新進気鋭のアーティトたちが出演するコンサートやパフォーマンスが行われている。

 リビングルームをちょっと大きくしたくらいのこぢんまりとしたスペースには、ぎゅうぎゅう詰めになるほど人が集まることもしばしばだ。


 それでもここがイヴェント会場やアート教室ではなく「リソースセンター」と呼ばれるのには訳がある。一度ワークショップを受けた人が個人作業するための貸しスタジオの時間があったり、オリジナルのバッジを作る機械やミシンの貸し出しをしていたり、ブリムは「アートやるからちょっと道具貸して!」「分かんないとこちょっと教えて!」と駆け込むことのできる頼りになるご近所さんの感覚に近い。

  そこでは、ごはんを食べるように、掃除するように、日常の中で生まれるアイディアや、何かを作りたいという気持が普通に、気負わずにアートに変換されていく。

[アート・マーケットの様子]


 このスペースの2人の若いディレクター、ユリコさんとノエルくんは2人ともアートを専門に学んだアーティストで、彼ら独自の活動もするのだが、「ブリム」という場の創造と、それを巡るアート・コミュニティー自体が彼らのアート作品の一つだということもできる。

 カルガリーで映画や音楽、パフォーマンスを催すカフェ/ギャラリーを経営した経験もあるユリコさんが、ブリムをオープンしたのが2003年の冬。チャイナタウンの古いビルのペントハウスを借りて、アート・イベントを多く手がけたが、2005年7月に一時閉鎖。ダウンタウンからはちょっと離れた今の場所に移って再オープンしたのが2005年11月。

  新しいブリムは商店街の角をちょっと曲がった、人通りの多い通りに面した一階だから、何も知らない通行人がふらっと立ち寄ることも多くなった。前のスペースからの固定客も多いが、ワークショップに参加して、それからブリム・ファンになる人も多く、そのネットワークは日々広がっている。

[映像や音の実験的なイヴェントにはたくさんの人が集まる]


 ブリムは完璧に磨き上げられたスペースではないが、何とも言えぬアットホームな雰囲気に包まれている。ふらりと入ってミニカフェでコーヒーを頼んで、ミニライブラリーのアート本をぱらぱらめくるもよし。中古品のピンクのソファーや寄せ集めのとりどりの椅子が、かえってここでは居心地がよい。

 若い人たちにとっては、このくらいの方が、親しみが持てる。デザイナーズチェアーや、洒落た照明でコーディネートされたアート・ギャラリーもいいが、そんな場所では逆にアートが手の届かない遠いものに感じられる。

 ミニショップには若手アーティストの作ったアート作品、オリジナルのTシャツやポストカードに加え、小瓶に小分けされたシルクスクリーン用のインクなんかも並んでいる。初心者アーティストに嬉しいサポートだ。

[がらくたの電子おもちゃを使ってサウンド ・アートを作るワークショップの様子]


 「ブリム」というのはユリコさんが子供時代に作り出した架空の動物王国の名前なのだそうだ。この王国ではアートが肩肘を張らずに、等身大で浸透していく。わたしにもできるかもしれない、参加できるかもしれないという敷居の低さは、アートというものを崇め奉らず、もっと身近な日常的なものとして捉えているからこそ生まれてくる感覚なのだろう。何をするところかわからない、ゆるい不可思議さが、かえって自由な発想を刺激して、そこにかかわる人たちを拘束することなくつなぎとめている。

 手を動かす、発想する、レゴを組み替えるように作り替える。そしてまた白く塗る。壊す。また作る。通り過ぎ、集い、手を動かして作る人たちの往来によって形を変えながら少しずつ成長するこの夢のアート王国「ブリム」が、私たちの身近に領土を広げてくる日は近いのかもしれない。

(写真 Blim)


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