NPO法人バイオマス産業社会ネットワーク(BIN)の泊みゆき理事長は、2008年11月にインドネシアの西カリマンタンのKapuas Hulu県を視察した。海辺の町から陸路を車で9時間、更に川をロングボートで遡って日本から3日かかる奥地にある。
複雑な土地制度
Kapuas Hulu県には、先住民が慣習的に使ってきた森林が多くあるが、行政区、慣習区などが入り混じっており、土地の区分は複雑で境界もはっきりしない。
先住民の慣習的な利用権は、憲法上は保証されているが、明文化された法律に組み込まれておらず、混乱している。様々なレベルの法律間の整合性が取れておらず、誰が伐採許可を出すのかもはっきりしないまま開発が行なわれている。
企業の開発による住民とのトラブルは、企業の側だけが一方的に悪いとも言い切れず、行政の問題も大きい。地方政府が地域の住民を通さずにいきなり企業に許可を出してしまうケースや、行政に癒着している村長が住民の意見も聞かずにサインしてしまうケースもある。
パームプランテーション開発の問題
現地のNGOは、オイルパームプランテーションを環境問題というより、土地、ガバナンスなどの社会問題として見ている。
視察した農園では、農薬の害について農園側もレクチャーをしているが、手袋やマスクなどの身を守る道具は支給しない。農民にとっては高価なものなので、マスクや手袋をしているのは農薬の危険性についての意識の高いに限られていた。女性は大半が防具をしていたが、特に若い男性たちはレクチャーを受けても使用しない人が多い。パームオイルの問題に取り組むNGO“サウィット・ウォッチ”は農薬の被害に関する教育活動も行っている。
インドネシア政府は、パームオイル収量の最低2割をその土地の人に分配するという法律を作ったが、サウィット・ウォッチは、5割は必要だと主張している。パームオイルは30年弱経つと収穫できなくなってしまうが、その土地は彼らではなく国に返還されてしまうからだ。
プランテーションに対する住民の意識
パーム農園で労働者が得られる収入は300円/日だ。農業収入が100円/日であることを考えれば悪い条件ではないが、反対する住民も多い。インドネシアの先住民で、自分達の場所でパーム農園を作ることには反対しているが、国境を越えてマレーシアにあるパーム農園に出稼ぎに行っているという人もいた。なぜ反対するのかと聞くと「自分達の森があんな風に皆伐されるのは嫌だから」と答えていたという。
視察で会ったある先住民の人々は「自分達は豊かであり、パーム農園なんか必要としていない」と話していたという。自分達で建てたロングハウスに大勢で居住し、コミュニティフォレストには果実がたわわに実るという暮らしをしながら、携帯電話や車を所有している人もいる。
精神的にも物質的にも豊かな生活のように思えるが、泊さんによれば、こうした暮らしはおそらく出稼ぎがあることで成り立っていると言う。また、いったん村を出た子供は、そのまま都会で結婚して村には帰ってこないことが多く、インタビューに答えてくれたのも殆ど老人だったそうだ。
先住民と一言で言っても、その思いは様々だ。伝統的な暮らしを維持したい、現金収入を増やしたい等、時には相反する希望を持続可能な形で実現するにはどうすればよいのか。オイルパームの問題については、現地の人々の視点で考えていく必要があるだろう。
(とりまとめ/伴昌彦、三沢健直)
*このレポートは、レアリゼメンバーの有志で作ったパームオイル・リサーチ・ユニットの中間報告の最終回です。
オーガニック認証のパームオイルとは?(中間報告 Vol.6)
サラワク州におけるプランテーション開発と先住民との関係/FoEジャパン(中間報告 Vol.5)
ボルネオ島のプランテーション開発/BCTジャパン (中間報告 Vol.4)
パームオイル代替オイルの可能性/バイオディーゼル燃料編 (中間報告 Vol.3)
パームオイルの流通現場からのヒアリング (中間報告 Vol.2)
パームオイルに関する政策提案の試みからリサーチ・ユニットへ (中間報告 Vol.1)
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