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アボリジニーとツーリズム/先住民技術センター

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永井亮宇 パース、オーストラリア
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2010-09-04
 

 オーストラリアの開拓が始まったのは、1770年、今からちょうど240年前のこと。日本は江戸時代中期であった。わずか240年で、オーストラリアは世界でも有数の経済大国になり、また現在でも豊富な天然資源を用いて発展を続けている。

 オーストラリアが、元々はイギリスからの流刑の地であり、囚人たちによって開拓されたのは有名な話だが、オーストラリア大陸には入植者が来る以前から生活していた人々がいた。それは、森で原始的な生活を営むアボリジニー(英語で先住民の意)である。

 入植者たちがオーストラリアに来る以前は、250の異なった言語(今日では145まで減少し、そのうち110の言語が絶滅危惧言語とされている)を話す、約600ものアボリジニーの部族が住み、彼らはブッシュタカ(Bush Tucker)と呼ばれるオーストラリア固有の植物や木の実を食べ、狩猟をして生活していた。

 アボリジニー達は、入植者たちによって様々な問題に直面させられた。多くのアボリジニーたちはヨーロッパから運ばれた伝染病などによって倒れた。兵士に殺された者もいた。1789年には天然痘が流行し、シドニーに住んでいたアボリジニーの半分以上が命を落とした。
 1780年には30~100万人居たアボリジニーの人口も、1966年には約12万人にまで減り、多くの言語や部族が失われるに至った。

失われた世代

 1910年からは、政府や教会によるアボリジニー親子の隔離政策が行われた。政府は、「アボリジニー保護」の名目でアボリジニーの子どもたちを親元から連れ去り、教会の施設などに収容し、オーストラリア人との同化政策を行った。

 これにより1910年から1970年までの60年間で、アボリジニーの子どもの約10~30%、最大で5万人が強制的に家族と引き離された(これはオーストラリア政府発表の公式データであって、諸説有る)。隔離政策が行われた世代は「盗まれた世代(The stolen generation)」と呼ばれ、今でもオーストラリアの歴史に大きな影を投げかけている。アボリジニーの人々は、200年以上に亘って虐げられてきた人々であり、今日でも社会で様々な障害と向き合いながら暮らしているのだ。

貧困、差別、格差

 現在のアボリジニーの人々の生活を単純明快に描写するならば、「貧困」、「差別」、「格差」となるだろう。法律では人種や性別等による不公平な雇用や解雇を禁じているにも関わらず、現実にはアボリジニーの人々の就職のチャンスは少ない。アボリジニーの人々の解雇率は、他のオーストラリア人に比べて3倍も高いのだ。

 教育においては、アボリジニーの子どもたちには、文化的に配慮された教育が必要であるにも関わらず、一般のオーストラリア人の子どもと同じ教育を強いられている。そのために、中等教育を修了する者は少ない。また、先進国ではほぼ根絶されているトラコーマ(結膜炎の一種。失明する場合もある)は、未だにアボリジニーの人々の間には存在している。

 さらにオーストラリアの平均寿命は81歳(「世界開発指標(世界銀行2008年)」)だが、アボリジニーの人々は53歳である。アボリジニーの人々は、オーストラリア人口の2.1%という“少数派”であるが故に、未だに押しつけられた教育、保健や雇用に縛られ続けているのだ。

アニー・ヴァンダーウィクさんと先住民技術センター

 そんなアボリジニーの人々の生活向上の手助けをする団体や人々も少なくない。アニー・ヴァンダーウィクさんもその一人である。アニーさんは先日、YouthConnections.com.au (以下YC)と共同で、「先住民技術センター」を設立した。同センターでは、アボリジニーの起業トレーニング、環境管理・ブッシュタカガーデンの設立・持続可能なエネルギー・建築などに関する教育を行う、

 ここではアボリジニーの若者だけなく、それ以外の若者も一緒に学ぶことができる。センターには「教育機会の欠如、および『会社や雇用主からアボリジニーの労働者への低い期待』によって失われてしまった文化的、精神的、そして社会的な強みをアボリジニーの若者に取り戻してほしい」というアニーさんの願いが込められている。

 アニーさんが大学に入ったのは、他のアボリジニーの女性と同じように社会人クラスに入る年齢だった。39歳でニューキャッスル大学に入学し、現在は博士過程の最終段階だ。

 彼女は、2005年にアメリカのフルブライド奨学金を得てスタンフォード大学に留学。2006年には、同大学内で、ワシントンDCにある「エコツーリズムと持続可能な発展センター(CESD)」の外部リサーチユニットのコーディネーターの職を得て、先住民観光を取り巻く国際的な問題に関わるようになった。

 アニーさんは、先住民たちが、旅行者に対して楽器演奏やダンス、伝説の語りなどの民族の伝統を披露することを通して、自分達の文化的な信仰や慣習を守っていく「先住民観光・文化観光・エコツーリズム」が、オーストラリアの先住民にとって経済的な民族自決を達成する手段になると考え、その新しい方法を研究するため、世界中の先住民のコミュニティーを訪れている。

先住民技術センターの設立まで

 アボリジニーの文化に配慮し、さらに観光業や製造業で活躍できる人材を育成する教育機関の設立は、アニーさんが長年夢見ていたことだった。しかし、先住民技術センターを設立するためには、資金集めというハードルがあった。

 政府が非営利団体に資金援助をする制度を利用しようとしたが、利用するためには、政府に認定された特定の団体を通じて、“アボリジニーのコミュニティー”から事業認定を得る必要があった。たとえアボリジニーを支援する活動を行っているNGOと連携していても、“アボリジニーのコミュニティー”から承認にはならないのである。しかし、このスキームは非常に狭き門で、利用するのが非常に難しいのだ。

 幸いなことに、アニーさんは政府認定団体であるYCの協力を得ることに成功し、YCを通じてアボリジニー・コミュニティから承認を得ることができた。

アニーさんインタビュー

 私は毎日街中で見かけるホームレスのアボリジニーの人々が気になっていたので、「どうしてオーストラリアの多くの都市部で、“たくさん”のアボリジニーのホームレスの人々がいるのですか?」と、彼女に質問をしてみた。

 すると、アニーさんは「都心に住むホームレスのアボリジニーたちは、オーストラリア全体に住むアボリジニーの数と比べると極わずかです。」と強調し、こう続けた。

 「しかし、都市部に住んでいるわずかなアボリジニーのホームレスの存在は、長年にわたって教育的・社会的に植え付けられたオーストラリア人の、アボリジニーに対する強い偏見や固定観念をより強くしています。

 多くのアボリジニーのホームレスは、他のホームレスと同じくアルコール中毒やドラッグ中毒、または家族の荒廃や財政的な問題のせいでホームレスになっています。アボリジニーの人々が大切にする「文化的な血縁関係(コミュニティーとコミュニティーが相互に助け合うシステム)」は、公共住宅の不足や都心の生活費の高さのため、機能していません。

 ホームレスとは、240年にわたりアボリジニーたちが文化的、社会的、そして人種的に経験してきた差別の結果なのです。」

 知らず知らずのうちに私も他のオーストラリア人と同様、「“多くの”アボリジニーはホームレスだ」という偏見を持ってしまっていたのだ。また、アニーさんの回答は、オーストラリアの社会構造が、いかに先住民の生活を脅かしているかを容易に想像させてくれる。   

 日本の人々にできることを問うと、次の助言をくれた。「財団や基金を設立することで、アボリジニーの人たちへ資金援助をすることができるかもしれません。現在は、獲得するのが難しい政府の資金援助にしか頼るあてがないのですが、国際的な団体からの資金援助があれば、アボリジニーのコミュニティー発展のためのプロジェクトなどを、より活発化することができます。

 アボリジニーの人たちは“先進国”であるオーストラリアの市民であるために、国際開発基金等にアクセスできないのです。」

 つまり、オーストラリア政府はアボリジニーの人々に市民権を与えたが、実際には他のオーストラリア人との格差は埋まらず貧困のままであり、しかしオーストラリアの市民権を保持しているがために、アボリジニーの人々は国際的な援助に頼ることができないのだ。

 アニーさんへのインタビューの後日、面白いことが起こった。「Realiserの読者がアボリジニーの人々に一番簡単に貢献できる方法として募金が挙げられると思うが、どの団体が募金活動を行っているか?」、という問い合わせをしたところ、現在は、その様な団体が存在しないとのことだった。

 しかし、私がアニーさんにその質問をしたことがきっかけになり、YCがアボリジニーの若者や起業家などを支援するための基金を設立しようとする活動を始めたのだ。財団や基金を設立するのは容易ではないが、募金などの寄付ならば簡単に貢献できる(YCの詳細についてはwww.youthconnections.com.auを参照)。もしこの動きが大きくなれば、アボリジニーの若者や起業家は、難しい政府資金の申請をすることなく、様々な活動のための資金にアクセスできるようになるだろう。

 みなさんはオーストラリアと聞くと、シドニーのキレイな街並みや大自然、エアーズロックなどの世界遺産、豊富な固有の生物を思い浮かべるかもしれない。しかし、そこには現在も苦しい環境下で暮らす多くのアボリジニーが居ること、そして彼らはオーストラリア人であるにも関わらず、他のオーストラリア人と同じ生活ができない現実があることを覚えておいて欲しい。

参考文献一覧

*A Concise Companion to Aboriginal History(マルコム・プレンティス著/ローゼンバーグ社)
*Aboriginal Australia(コリン・ブルーク編著/オープン・ラーニング社)
*Creative Spirits - Aboriginal Australia, Photography and Poems
*Speech | Prime Minister of Australia
*外務省: 平均寿命の高い国・地域


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