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働きながら介護で悩む時-ドイツの新しい介護政策に学ぶ

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飯田恵子 東京都
day
2010-09-20
 

 少子高齢化が急速にすすむ日本の中で、働きながら近親者の介護問題に悩む人はどのくらいいるだろうか。

 中日新聞が2009年に実施した調査によると、介護保険制度が始まった2000年からの10年間に介護が原因の心中や殺人事件は400件に上っている。
 同調査では、加害者が男性であるケースが4分の3を占めた。また、加害者の職業は、無職の割合が息子で62%。働き盛りの男性が介護のため職に就けず、経済的にも追い詰められていく構図が浮き彫りになっている。

図1.高齢者介護をめぐる家族や親族間での殺人・心中など被介護者が死に至る事件数(資料出所:中日新聞 2009年11月20日)


ドイツの「仕事と介護の両立支援策=家族介護期間」

 ドイツでも少子高齢化がすすみ、同様の問題を抱えている。
 そのドイツでは、政府が今年5月20日にフルタイムで働く労働者のための新しい仕事と介護の両立支援策「家族介護期間(Familienpflegezeit)」を発表して注目を集めている。

 この新しい両立支援策では、家族を介護する労働者は、最大で2年間、労働時間を最大半分(50%)に短縮することができ、その間給料はフルタイムの時の75%をもらうことができる。ただし、介護期間を終えて2年後にフルタイムに戻った時には、2年間賃金を多めにもらっていた分、差額がゼロになるまで給与は少なく受け取ることになる。

 つまり介護のため、2年間、労働時間を半分にして働いていた人は、復帰後2年間、フルタイムで働きながら75%の給料を受け取ることになる。これだと通算4年間受け取る給料の額が25%減ることになるが、家族の介護を優先しつつ働き続けたい労働者にとっては朗報である。しかも介護期間を経ても、退職後に受け取る年金額はフルタイムで働き続けたものとあまり大差が生じないように工夫がされている。

 ドイツの現行制度では、介護休業は取れるが、その期間中は無給になってしまう。今回の支援策だと、労働者は介護をしながら働き続けることもできるし、結果として経営者にも金銭的な負担は生じない。また、企業が優秀な労働者の継続的に確保することにも有利に働く。
 また、近親の介護者と被介護者だけの閉じた世界にならず、一部に訪問介護など、労働者が働いている数時間は外部の介護サービスが入り、閉塞感による心中や殺人事件が起きる可能性も減らすことができるかもしれない。

 ただ、いくつかの懸念は残る。この制度では、企業に一部の給料の前払いを最大2年間強いることになり、中小企業にとってその負担は大きい。そのための対策として、従業員250人以下の企業には金融公庫(KfW)がその分を無利子で融資をする予定だ。また、介護をする労働者が介護期間終了後に病気など何らかの理由でフルタイムに復帰できなくなるという事態もあり得る。その場合に備えて、労働者は予め特別の保険に入るよう求められるが、保険額は月10ユーロと低く抑えられている。

日本の「仕事と介護の両立支援策」

 翻って日本の場合は、今年6月30日に、育児・介護休業改正法が施行されたばかりである。仕事と介護の両立支援については、これまで労働者が家族の介護をする場合、介護休業と合わせて通算93日まで介護休業を取得できることになっていたが、今回の改正で従来の介護休業に加えて、介護のための短期休暇制度が創設された。
 これによって要介護の家族の通院の付き添いなどに対応するため、年5日(対象者が2人以上の場合は年10日)の休暇を新たに取得することができるようになった。このように少しずつだが両立支援策は広がっている。

 ただ、筆者自身、働きながら老親の介護が年々深刻になる中で、今後は日本にも、もう少し長期的視野に立った両立支援の枠組みができないかと期待している。
 特に、仕事と介護の両立には、ドイツのような「労働時間の柔軟な活用」や、また「働き方そのものの柔軟性」が非常に重要になってくるのではないかと思う。具体的には、フレックス制度や裁量労働制、テレワーク、短時間正社員制などを活用する方法だ。
 活用の際には、ドイツの労働現場で広く受け入れられている労働時間を銀行口座のように貯蓄して休暇と等価交換ができたりする「労働時間口座」の考え方も参考になるかもしれない。

 民主党のマニフェスト2010をみると、介護については「在宅医療、訪問看護、在宅介護、在宅リハビリテーションなどを推進し、地域で安心して生活できる環境を整備するとともに、家族など実際に介護にあたっている人を支援します」と書かれているのみで、具体的な政策については触れられていない。詳細については今後決めていくようである。

 いずれにしても、介護を含め、様々な事情を抱える多様な人たちが、無理なく働き続けられる社会制度の構築が今後はより重要になってくるし、そうした政策の発想が求められてくるのではないだろうか。


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