reports

サステナビリティ

back
prev_btnnext_btn
title

ヨーロッパの森再生と日本の森再生

leader from from
伴昌彦 東京都
day
2010-10-05
 

1)ヨーロッパの森と日本の森

 ギリシア、ローマの都市国家の時代から産業革命の時代まで、徹底的な森林破壊の歴史を経たヨーロッパ諸国では、19世紀半ば以降、その経験を踏まえて植林が進められた。結果、森林面積はある程度まで回復し、現在は多くの国で持続的な林業が営まれている

 日本でも、古代からしばしば森林の収奪的な利用が行われてきたが、ヨーロッパ諸国との比較の上で、相対的には森林が維持されてきた。近代に入り、本州では明治時代に植林が進められたが、太平洋戦争前後の時期は乱伐により森林が荒廃した。

 戦後、昭和30年代頃からは急増する木材需要にこたえるため各地で造林が行なわれた。この時期の造林は生態学的に不適当な場所や貴重な天然林までスギ・ヒノキの人口林に転換したことで批判されるが、国土の67%に及ぶ現在の高い森林率は、この時期の造林のひとつの成果ではある。

 しかし高度経済成長期以降、日本の林業は衰退の一途を辿ってきた。近年は人工林の育林に必要な間伐が行われず、森林の荒廃が進んでいる。戦後に植林した人工林が伐期を迎えた現在、林業を復活させることが急務となっている。

 林業不振の要因として、木材貿易の自由化による安価な外材の流入や、急峻な地形が挙げられてきたが、ヨーロッパでは低迷する木材価格に苦しみながらも、林業・林業関連産業が盛んな国々がある。

 これらの国々の人件費は日本以上の高水準にあり、気象や地形の面でも必ずしも日本と比較して有利であるとはいえない。例えばオーストリアは日本同様、急峻な地形の山国である。北欧のスウェーデンやフィンランドは、地形は平坦だが、低温のため木の成長速度が遅い。ヨーロッパ林業の興隆の秘密はどこにあるのだろうか。
 
2)持続可能性

 EU共通の森林政策は存在しないが、1998年に策定された林業戦略では、森林と林業に関する共通の目標設定が行なわれている。内容は大気汚染対策や山火事対策、生物多様性など多岐に渡るが、重要視されているのは「持続可能な森林管理」の概念である。

 1903年の森林法で伐採後の再造林が法律で義務付けられてきたスウェーデンでは、古くから持続的な森林の利用が行われてきたが、環境保全を重視する動きの中で、1997年に改正森林法が施工された。

 この中では生物多様性への配慮が明記されている。ドイツやオーストリアでも生物の多様性に配慮し、広葉樹の育成などが行われている。また、ドイツでは、択伐(広い面積の森林を一度に伐採する皆伐ではなく、森林の中から選択的に伐採する方法)―天然更新(樹木から自然に落下した種子から樹木を育て、伐採後の森を再生させる方法)の近自然型林業にシフトしつつある。

 環境配慮を重視するヨーロッパでは、森林認証制度の普及の度合も際立っている。各国独自の認証制度もあるが、世界的な認証制度FSC、ヨーロッパの林業関係者が中心となって発足させたPEFCの2つが主体で、ヨーロッパ諸国の森林の約半分は、いずれかの制度の認証林となっている。PEFCは森林認証制度間の相互認証を行っている。


3)伐採方式

 ドイツやオーストリアでは、100年~120年の間隔で間伐を繰り返す、非皆伐・長伐期施業が定着している。フィンランドやスウェーデンでは皆伐方式がとられているが、長伐期施業である。

 これに対し、日本では40~50年の短伐期で皆伐する方式が中心だった。しかし現在では木材価格の低迷のため、皆伐しても木材の収入で植林や保育のコストを賄えない。この結果、伐採後の森林跡地に植栽せずにそのまま放置する再造林放棄の拡大が問題となっている。

 長伐期施業では一本あたりの樹木の材積が大きくなるため、生産性が高まり、再造林の回数や手間を減らすこともできる。こうしたメリットが周知されるようになってきたことや、短伐期が採算に合わなくなってきた現状を踏まえ、日本でも近年、長伐期施業を推進する施策も行なわれている。

 また、上述のようにドイツでは天然更新にシフトしているが、この方法も植栽や育林の労力を縮減につながるため、環境面のみならずコスト面でも有利である。天然更新については温暖湿潤で樹木の生育を阻害する植物の多い日本では、技術的に難しい面もあるが、今後の研究が待たれる。

4)森林所有者へのサポート

 日本では小規模所有の零細な林家が多く、サラリーマン化、高齢家が進んで、林業経営の意欲のない林家や不在村者保有森林面積も増加している。ドイツ、オーストリアとも、小規模所有が多い構造は日本と同様だが、比較的林業収入への依存度が高く、林業経営に意欲のある農家林家が多い。

 森林所有者をサポートする制度として、ヨーロッパにはフォレスター(森林官)制度がある。ドイツやオーストリアでは全ての森林にフォレスターが配置され、所有者に対して森林経営に関するアドバイスなどを行なうシステムが構築されている。フォレスターはドイツの場合は公務員、オーストリアの場合は森林所有者が直接雇用(小規模所有者は農林会議所が雇用)する形が取られている。

 一方、フィンランドでは所有面積は相対的に大きいが、我が国と同様、サラリーマン化、高齢化が進み、不在村者所有の森林が多い。所有者自身による森林経営は困難であるため、行政機関が全ての森林の状況をデータベース化し、これを元に長期森林計画を策定している。所有者は森林管理計画を任意で購入し、それを森林所有者連盟に委託。森林所有者連盟は林産業に地域の森林資源の情報を提供している。
 
5)路網整備

 長伐期で材積の大きな木を育てるためには、途中で間伐をしながら森林の密度を調整する必要がある。この伐採自体が本来は重要な収入源となる筈だが、間伐材は大径木の材に比較し価格が低い。日本では伐採・集材・搬出のコストが販売価格を上回り、採算がとれないため間伐が進まない、あるいは間伐されても切り捨てられて放置されるケースが多い。

 搬出のコストを下げるためには林道の整備が必須である。ドイツ(旧西ドイツ圏)は118m/ha、オーストリアは87m/haと高い密度で路網が張り巡らされ、林業機械を用いて択伐した木材を効率的に搬出できる。またヨーロッパでは林業の基礎から、高性能林業機械の操作や保守点検まで含めた技能者を養成する体勢が作られている。これに対し、日本の路網密度は16m/haに過ぎず、林業機械を十分に使いこなせる技術者を養成する体勢も整えられていない。

6)バイオエネルギー

 温暖化との関わりで注目される木質バイオマスエネルギーだが、ヨーロッパではその利用拡大が実現している。木材のガス化やエタノール生産はまだ開発段階で、実用化されているのは直接燃焼による熱電利用のみで、住宅におけるストーブ、ボイラーに使う薪やチップとしての利用が多い。

 ヨーロッパにおけるバイオマスエネルギー普及の背景には、政策による支援、及び技術の進展があった。スウェーデンでは石油危機以降、ひとまとまりの地域に配管を通じて熱源を供給する「地域熱供給システム」が普及していた。

 当初は石炭が使用されていたが、90年代に化石燃料に対する炭素税が導入されたことで、木質バイオマスエネルギーはもっとも安価な燃料となった。オーストリアでも同様、石油危機以降に普及した地域熱供給システムが木質バイオマスエネルギーの利用を可能にした。
 90年代後半からはチップボイラーの高性能化によって不定形の残材や樹皮も利用できるようになり、地域熱供給システムの規模も大きくなった。更に個別の家庭にはペレットが普及した。

 また、02年からはグリーン電力法が施工され、再生可能電力が高く買い支えられるようになったことも木質バイオマスエネルギーの利用拡大を後押しした。

 ただしヨーロッパ諸国でもエネルギーとしての利用は、林地残材や製剤工場から出る大鋸屑などに限られており、あくまで付加価値のない木材の副産物利用であることには留意すべきである。


7)日本林業の再生に向けて
 
 ヨーロッパ林業の実践をそのまま日本に当てはめることは出来ないが、森林の持続的な利用を図りつつ、時代の要請に応じて変化を遂げてきた姿勢には学ぶべきものがある。状況の変化の中で補助金や公共事業への依存を強め、衰退を続けてきた日本林業を再生するためには、周辺の産業や流通の構造を含めた大転換が必要となるであろう。

①伐採方式の見直し・路網整備

 上述のようにヨーロッパでは長伐期施業が主流となっているが、日本でもコスト面で有利な長伐期への移行を可能とする条件を整えていくべきであろう。長伐期では間伐から収入が得られることが必須であるが、そのために必要なのが路網整備による集材コストの縮減である。林道に比較して低コストで開設可能な作業道も含め、当該地域の条件にあった高密度路網を整備していくことが求められる。

②流通の合理化

 ドイツでは所有者、あるいは所有者の共同販売組織が、直接製材工場と取引し、運送も自ら行なっている。これに対し、日本では木材を大量・安定的に供給する体勢が整えられていないため、木材は一旦原木市場に集められる。

 こうした非効率的な国産材の流通構造が、集成材や木質ボード等、工業化された木材の需要増に対する適切な対応を阻み、安定的に供給される外材に市場を奪われる要因となってきた。常に一定の量・質の材を供給し、流通の合理化を進めるためには、所有者を取りまとめて一定の規模を確保することが必要である。

③森林組合の改革

 ヨーロッパでは、公的性格を帯びた組織が森林所有者をサポート、あるいは経営代行するシステムが整えられている。こうした組織は日本では森林組合にあたるが、多くの組合は官公造林や市町村有林の整備事業の下請を主な業務としており、所有者のサポートを行なっているのは先進的な組合に限られている。

 不在村者、高齢化が進む中で、森林組合が、森林施業についての啓蒙活動や、小規模所有者の取りまとめといった役割を担い、施業の集約化を図っていけるような改革が求められている。

④国産材の利用拡大

 現在、量産住宅メーカーの作る木造住宅は、主に集成材、乾燥材を利用する工法が主流となっている。こうした木材の原材料になるのは従来外材であったが、流通合理化を進めることで、国産材も製材工場の需要に応えることが可能となる。

 また、現在主流の住宅メーカーの木材需要に応じる一方で、スギやヒノキなど国産材を使って建てられてきた伝統的な住宅工法(伝統構法)を見直すことも重要だ。

 伝統構法が、現在主流の新素材やボルトを多用した在来溝法に耐震性で劣るとは必ずしも言えない。しかし近年改正された木造住宅関連の法基準では、伝統構法が想定されておらず、この工法による住宅が造りにくくなっている。こうした住宅を正当に法基準に位置づけていくことも必要だろう。小規模の調達に対応可能な原木市場には、今後こうした需要を開拓していくことが求められる。

 木材需要の約半分を占めるのは紙・パルプである。しかし、その原料の約7割は輸入材に依存しており、国産材需要を拡大する上では製紙原料への利用も欠かせない。紙・パルプには、建築用などに不向きな低質材や製材残材が利用されるため、国産材の製材を増やすことで製紙原料も増加する。また、搬出等のコストが削減されることで林地残材も活用しやすくなるため、①②を進めることで、必然的にパルプへの活用の条件も整えられる。

 また、戦後、燃料や農業の変化により「里山」と呼ばれる広葉樹の二次林が放置され、資源が蓄積されてきているが、里山林の産業への活用はこれまで殆ど議論されることがなかった。

 路網整備や機械化が進んでいないこと等、現実的には様々な課題があるが、里山林は適正に管理すれば萌芽更新による持続的な利用が可能であり、紙・パルプなどへの活用も検討に値するだろう。

 木質バイオマスエネルギーについても、特筆すべきはパルプ同様、低質材を利用できることである。こうした用途の開拓は、森林の歩留まりを高め、林業の生産性の向上につながることが期待できる。

 現在「国産」は、消費者にとって必ずしも木材製品を選択するインセンティブとなっておらず、森林認証もヨーロッパのように普及していない。木材供給の条件を整備し、用途を拡大すると共に、国産材の活用推進が、森林の多面的機能の発揮、地球環境温暖化防止、違法伐採の排除など、持続可能な社会形成に貢献することをより効果的にPRしていくことが必要であろう。

【参考文献】
「グローバリゼーションの受容による地域林業再生」相川高信 三菱UFJリサーチ&コンサルティング、季刊政策・経営研究 2008 Vol3
「森林・林業再生のビジネスチャンス実現に向けて」梶山恵司 2009 富士通総研「研究レポート」No343
「ドイツとの比較分析による日本林業・木材産業再生論」梶山恵司 2005 富士通総研「研究レポート」No216
「存在感を高めるヨーロッパの森林政策と持続可能な森林管理の広がり」 大田伊久雄 2009 林業経済研究Vol.55 No1
「ドイツ林業と持続可能な森林づくり」 岐阜県林政部林政課 長沼隆 岐阜県森林科学研究所 横井秀一 政策検討課題等調査報告書
「森林からの日本再生」田中淳夫 2007 平凡社
「ヨーロッパの森林管理」 石井寛 神沼公三郎 2005 日本林業調査会
「欧州における木質バイオマスエネルギー利用拡大の背景」久保山裕史 2008 草と木のバイオマス 朝日新聞出版社
「団地化の合意形成手法いろいろ」現代林業 2010年3月号 全国林業改良普及協会

【参考サイト(下の関連サイトを参照)】
borealforest.org  
持続可能な林業経営研究会 
Swedish Forest Agency


このエントリーをはてなブックマークに追加





クリエイティブ・コモンズ メンバー募集 メルマガ 受託型リサーチ レアリゼブックストア サポーター募集 twitter mixi face Flickr