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人のつながる場所  吉祥寺「Kiss Cafe」(1)/ヒトに効くアート Vol.3

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高橋幸世 バンクーバー、カナダ
day
2007-10-29
 

「つながる」場所ってどこ?

 カナダでは「ポットラック・パーティー」という持ち寄りパーティーがよく開かれる。これは誰かの家でやるホームパーティーで、ルールは参加者それぞれが一品ずつ料理を持ち寄ること。みんなの集まれる場所として誰かの家を提供してもらい、食べ物や飲み物を持ち寄って気楽にわいわいやろうというコンセプトだ。カナダではこういう普段着のパーティーが人と人との出会いの場になっている。

 ベルギーのアントワープに住んでいた時には、人が集まったり、出会ったりする場所は「カフェ」だった。日本のカフェ=喫茶店とはちょっと違って、ベルギーのカフェでは昼間でも夜でもお酒が飲める。でも、お酒を飲む目的以上に、カフェは友達や、友達の友達に会う場所として使われている。老いも若きも、お気に入りの “マイ・カフェ” に頻繁に通う。そこに行けば、いつも誰か友達が来ていて、いい音楽があって、コーヒーやお酒があって、つい長居をしてしまうような場所。みんな家のリビングの延長みたいな感覚でカフェを使っている。

[つながる場所ってどこ?]


 自分の家ではなく、学校でも仕事場でもない、リラックスした雰囲気の中で人と出会うための第三の場所。こうした場所は日本だったらさしずめ喫茶店か居酒屋ということになるのだろうが、日本の喫茶店/居酒屋=カフェは、料理やお酒を消費しながら人と会う場所として使われても、そこで新しい出会いが起こるような「場」としてはあまり考えられていない。

 こんなことを想いつつ久々の東京をぶらついていたら、吉祥寺に面白い場所があるよ、と友達に誘われた。辿り着いたのが「吉祥寺Kiss Cafe」。駅から程近い旧近鉄裏に、呼び込みさんが昼間から立っているようなお店と軒を並べて、このカフェは楽しそうに生息している。

 全面ガラス張りの開けっぴろげなエントランスから中を覗くと、手作り風のベンチやカウンターがやや雑然と、でも妙にホっとする風情で並んでいる。さっきまで誰かが座ってたのかなという感じで、ちょっとベンチの上の座布団が乱れてるとこがいい。ご近所さんなのだろうか、通りがけにちょっと声を掛けていく人がいる。この場所は座布団のぬくもりの消えぬうちに次の誰かがやってきて座布団を暖めるような人の行き交いのある場所だな、とピンときた。

 どうやらここは普通の喫茶店ではなく、カナダのポットラックやヨーロッパのカフェのように、人が「つながる」ための場所らしい。人がいい形で「つながる」ことのできる場所にはリアルな時間が流れていて、そこにいるだけで気持ちがいい。そんな空気を感じ取って、早速、Kiss Cafeを運営するNPO Kiss*の主軸メンバー池谷由美子さんにいろいろとお話を伺ってみることにした。

 バーチュアルな場とリアルな場

 このカフェの発生をさかのぼると『吉祥寺Webマガジン』という場に辿り着く。これは1997年にグラフィック・デザイナーやウェブ・デザイナーなどのパソコンを道具として使う仲間が集まって立ち上げた地元吉祥寺の情報誌で、このバーチュアルな場をきっかけにして吉祥寺在住のアーティストやデザイナー、建築家やお店の経営者といった人たちがつながりはじめたのだそうだ。

インターネットは情報の速さや、より多くの人に情報を送ることができるという点では「つながる」ための道具として、これまでのメディアになかったような長所をたくさん持っている。最近は参加型のネットコミュニティーなど、誰でもその気になれば、自由に情報を受け取ったり、送ったりできるようになってきた。でも、実際に人間が鼻と鼻を突き合わせて集ってみれば一瞬で「ああ!」と分かるようなことが、どうも伝わりにくいという面もある。

[ 飾らないスペースに人が行き交う]


 このクリエーター集団のすごいところは、『吉祥寺Webマガジン』で生まれた人と人とのバーチュアルなつながりを、バーチュアルな場にとどめなかったことだ。インターネット上のコミュニティーにアクセスして、ちょっと情報を書き込むくらいの気軽さで、ちょいと足を運ぶことのできるリアルな場をご近所に実際に作ってしまったのだ。

 吉祥寺駅前のビルの6FのスペースにKiss Cafe がオープンしたのが2002年。建築家やデザイナーの仲間の協力を得て改造したNPO Kiss*のオフィス兼住宅を、週末だけカフェスペースとして解放した。ワークショップやトークショーなどの催しを通してメンバーの裾野が広がったが、ビルの上階という立地から、どうしても隠れ家的な空間になってしまっていたそうだ。旧近鉄裏の駐輪場の隣の今の場所に移ったのが2005 年。路面に降りてからは、Kiss Cafeが何か全く知らない一般の通行人もふと足を止め、子供連れの母親や、近所の人たちも立ち寄るようになったという。(つづく)

(写真提供:Kiss Cafe)


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