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加子母村森林モニターツアー報告

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小川珠奈 グリーンキャッスル、インディアナ
day
2010-11-13
 

 昔から、人は山の恵みを受けながら暮らし、山も人が森が間伐することによって豊かな命を育んできた。しかし、今日本で使われている木材の8割は外国産だ。

 日本は先進国の中でも緑が多いほうだ。しかし、人が入らなくなった山に入ってみると、太陽の光は閉ざされ、木はやせ細り、雨が降ると表土が流れ出しそうな山が増えている。「資源のない国」を標榜してきた日本は、目先の利益を追求し、外国の木を切り、自国の資源である森をなおざりにしてきた。

 そんな現状を改善するため、国は2009年7月、「農商工等連携促進法」を施行した。「農商工等連携」とは、農林漁業者と商工業者等が 通常の商取引関係を越えて協力し、お互いの強みを活かして売れる新商品、新サービスの開発、生産等を行い、需要の開拓を行うことだ。しかし全国369ある認定事業のうち、林業連携事業はその一割にも満たない。

 本年6月、株式会社丸二(建設業)と加子母森林組合(林業)が、連携事業の一環として行う「森林モニターツアー」に参加 してみた。

切り株をゆりかごに育ったサワラ。切り株は腐ってなくなっている。


森林ツアー

 吉祥寺駅を朝8:30に出発してバスで約5時間、バス内では、日本林業史のビデオ鑑賞や、森林ツアーの背景が説明され、全く知識のない人でも予備知識を得ることができる。さらに株式会社丸二社長が力を入れる風水入門が開催されたりもする。

 午後になって岐阜県加子母村の森に入ると、深い緑にバスごと包まれた。思わず「きれいな森ですね」と言うと、「いや、ここらへんは全然手入れがされていない荒れた森ですよ」と、森林組合長の内木さんは苦笑した。

 幹に傷のついた木の前でバスが止まった。虫が食い尽くして売り物にならなくなる前に伐採する。他の木を傷つけない方向に倒れるよう、慎重にチェーンソーを 斜めに入れ、今度は反対側から地面と水平に切る。昔は斧だった。斧で切ると切り口が腐りにくく木材が長持ちする代わりに、時間と労力がかかるという。といって、生産性を優先した大型の「高性能林業機械」を使うと、森林の回復力が追いつかない。加子母ではチェーンソーが主流のようだ。

加子母村について

 岐阜県加子母村は、93%が山。人口は約3000人。人口は減少しているが、他地域よりゆるやかな変化だ。加子母の人々の多くは、林業従事者、木材関連の流通業者、森林インストラクター、道具づくり職人、大工など、なんらかの形で山に関わって生きてきた。山の仕事は、春は植林、夏は下刈り、秋冬は枝打ちと、一年中木を切る。昔は、子どもが親や近所の人の山仕事について行って、自然に仕事を覚えたという。

 山の仕事はスパンが長く、人の一生では結果が出ないもの。古い大きな木を伐った時に、香りと共に現れる年輪を見ると、この木を代々守り育ててきた祖先への感謝の気持ち、畏敬の念が溢れてくるそうだ。

 今回のツアーは、林業従事者を養うことのできる流通の仕組みを作ることで、森を守ろうとする取り組みの一つだ。その仕組みづくりは、私たち消費者の意識改革によって実現される。

 50年以上かけて育てた間伐材(密集化する立木を間引く間伐の過程で発生する木材)でも、直径14cm未満のものは市場価格500 円でしか売れず、一本あたり100円程損失がでているという。これを一本 1000円で売れば利益が上がり、林業従事者も生活ができる。

 しかも、それで家の価格が上がるとは限らない。認定事業者には特別流通ルートが 政府によって確保されているため、産地直送が可能になるからだ。実際、株式会社丸二は今年、風呂から柱、土台まで、ヒノキをふんだんに使った25坪で1250万円 の住宅を発表している。


木材加工センター

 木材加工センターでは、丸太の皮を剥ぎ、材木の性質に合わせて、柱、角材、床材や壁材用に加工していく課程を見学した。加工する時に出た木屑は凝縮され、薪として森林組合の各事業所で使われたり、遠くは北海道まで売られているそうだ。

 また、ヒノキの葉や皮を再利用して製品化する事業も行われていた。抽出された精油は、芳香剤や入浴剤、ボディーソープに加工され、ガスは腐敗を遅らせる作用を利用して高級ぶどうの出荷時に使われている。

写真は木材加工センター。切断された木座時がここから乾燥機へ運ばれる


モクモクセンター

 モクモクセンターでは、地域の林産物や、地域内の木工所で生産された木工、工芸品をはじめ、山菜や加工食品、盆栽や緑化木などを販売している。出品する森林組合員は300を越え、地域の産物のアンテナショップとして活躍している。商品には生産者のフルネームつき値札がついており、商品に対する思いや誇りが 感じられた。

明治座

 東濃地方には60棟以上の農村舞台があり、この明治座は、明治27年(1894年)に加子母村の人々によって建てられた。樹齢400年、長さ14メートル 以上の 4本の巨木が座を支えている。

 およそ100年にわたって人々を魅了し、第二次世界大戦中には物置として使われた舞台の楽屋の壁は、役者の落書きでびっしりと覆われている。村の娘たちが自分たちの名前を書いて寄贈した「娘引き幕」も当時のまま、今現在も使われている。
 実は、この明治座にはヒノキが全く使われていない。管理人さんによると、「ヒノキ一本、首ひとつ」というほど、幕府の統制の厳しかった時代を経てきた地元の人々は、大政奉還が行われ、ヒノキが民に解禁された後も、その習慣を引きずっていたらしい。

 明治座は116年経った今も原型をとどめ、地元の人々による地歌舞伎や音大生の弦楽奏が毎年公演されている。「持続可能な社会」ということが言われて久しいが、村人に所々修復され、世紀を超えて今も現役で働く明治座の歴史から学ぶことは多そうだ。

写真は明治座が作られた当初、村の娘が手作りした幕。娘たちの名前がちりばめてある。


「バラバラ」から「つながり」へ

 このモニターツアーは、生産者と消費者の距離を縮めることに大いに役立つと感じた。情報やモノが溢れ、より複雑になってきた社会で、衣食住に関わる身近なものについて案外知らないことが多いことに気づくのだ。

 実際に足を運び、自らの目で見て確かめ、話を聞くことで、バラバラだった人やモノの流れと、自分の生活とのつながりが見えてくる。人はこうしたプロセスを踏んではじめて、メディアや企業の流す情報を取捨選択することができるようになるのではないか。

 組合長の内木さんによると、よく新聞では間伐材を使った「エコ」商品が紹介されるが、このような新商品開発は、木材そのものの値段には影響しないため、林業に収入が入らず、長いスパンで森を守るエコ活動にはならない。

 また、違法伐採された輸入木材が建築に使われているかどうか素人には見分けることは困難で、違法行為を 知らず知らずのうちに支持しかねない。加子母森林組合によると、インドネシアから輸入される木材の半分くらいが違法伐採されたもので、ロシア材から輸入される違法伐採木材もあるらしい。

 加子母森林組合は日本国内でも、伐採届を提出しないで伐採している業者もあると見ている。しかし、外材でも国産材でも製材されてしまえば、出所がわからず、木材を取り扱う業者の良識に頼る他ないという。また、岐阜県を含めてとんどの県が木材が何処で生産されたかを証明する森林認証制度を定めており、違法に伐採されたものでないことを確かめるにはこの証明書を添付してくれるよう業者に求めるしか方法がなさそうだ。

 森林浴や郷土料理、下呂温泉、「パワースポット」を5千円という手軽な価格で楽しめるということで参加した人が多かったようだが、「何が、誰によって、どのように自分の生活を支えているか」、振り返る良いきっかけになったのではないだろうか。
 

加子母森林組合組合長内木さん。背景は美大生が絵巻物を参考にして描いた昔ながらの伐採の様子。


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