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親子のくつろぎの場 - シアトルのカフェ -

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葉っぱ アメリカ・シアトル
day
2010-10-30
 

いつも “アイスコーヒー”

 エスプレッソをベースにしたコーヒー飲料で一躍有名になったシアトルは、まさしくカフェ天国。筆者も以前は、足しげくカフェに通ったものだったが、子供が出来て事態が一転。オムツ・着替えなどの荷物を抱えて一苦労。「公共の場で子供が大泣きしたらどうしよう」の気苦労で二苦労……。そうこうしているうちに、すっかりカフェから足が遠のいてしまった。

 「家飲みでも、おいしいコーヒーなら気が済むかも?」そう思ってコーヒーの銘柄を変えたりもしたが、子供の世話に気を取られて一息つく時には、いつも冷え切ったコーヒーになっていた。それにカフェの喧騒や、知らない人ばかりなのに空間を共有して繋がっている感じは、家ではどうにも得られない。

親子カフェ、デビュー

 シアトルでは自宅・仕事場に次ぐ第3の居場所として、カフェの存在が広く受け入られている。子供用の絵本や遊び道具も日常的に用意されているので、マナーさえわきまえていれば、子供連れでもあまり引け目は感じない。むしろ子供も客として、くつろぎの場を提供されている印象を受ける。「受け入れ態勢が出てきている」というような。

 しかし子供の年齢が上がってくると、静かに座っていることが難しくなる。そんな時、シアトル在住の先輩ママが、親子カフェ兼ギリシャ料理レストランVios Café and Marketplace(以下Vios)を教えてくれた。

 並木道が続く閑静な住宅街の一角にあり、自然光がたくさん入る大きな窓ガラスが目印。入口から右手にはアイスクリームやマリネ、ハマスなどを売るデリがあり、惣菜を買って帰るだけでも便利そう。ナチュラル志向のインテリアもおしゃれで、「本当に子供OKなの?」と疑いつつ店の奥へ視線を動かすと「えっ?」。店のほぼ1/4、たたみ6畳分はゆうにあるキッズエリアが併設されていたのだ。

Viosのキッズエリアでは、親の目の届く範囲で、子供がのびのびと遊べる

利用者の責任で使用後は片付けるように注意書きがある。そのせいかとても整頓されたキッズエリア


 ブロック遊び用のテーブル、おもちゃのパントリーにキッチンセット、絵本に積み木に機関車、と遊び道具が揃うなか、3~4歳の男の子が手で車を押しながら、カーペットの上を動き回っている。その反対側では、幼稚園児と小学生ぐらいの姉妹が、忙しそうに冷蔵庫とパントリーの掃除をしている。親たちは、その脇にあるカウンター席でおしゃべりしたり、スマートフォンでメールをチェックしたりしている。

 低い壁で囲まれているので、子供がどこかに行ってしまう心配がない上、遊び道具もスペースも充実。利用しない手はないじゃない!

Viosらしくあるための場所

 「近くに学校があって、周りは住宅街。家族連れが歩いてやってくるのにぴったりなの」と店のロケーションを説明する店長のDezさん。キッズエリアは2004年のオープン時以来のものだ。オーナーのトーマスさんは、2002年に夫人を亡くして以降、しばらくレストラン業から離れていたが、小さな男の子を育てながら開店にこぎつけたというから、このスペースは、必要あってのものだったのかもしれない。

「ヘルシーな食材でハイクオリティなギリシャ料理を提供しています」と店長のDezさん(写真左)


 しかし店を見渡すと、初老の男女や若い恋人同士など、キッズエリアが目的でなさそうな客もいる。「ここにテーブルを入れたら、もっとお客が入るのに」と尋ねると、Dezさんはこう答えた。

 「実際、トーマスと話したことはあるの。毎日の掃除や整理整頓、おもちゃの洗浄殺菌はもちろん、絵本も頻繁に取り換えているから、メインテナンスは大変。でも、ここを目的に来るお客さまがいるし、Viosらしさのひとつでもあるから必要経費と考えているわ。日本のようにスペースに制約があると、利用を有料にする手はあると思うけれど、今のところお金を取ったり、閉鎖したりすることは考えられないわ。」

 筆者はいわゆる日本の親子カフェに一度だけ行ったことがある。その時驚いたのが、食事中(1時間)は無料だが、その後は利用料がかかることだった。保育士がいたり、大きなジャンプハウスがあったり、スペースの問題があったりと、有料の理由は想像がつく。

 シアトルのカフェでも1時間$5程度の利用料を取るところがあるが、私が知る限り1店のみ。私見では、日米親子カフェの一番の違いはメンタル面でのカフェの位置付け。つまり日本では親子カフェが「ハレ」、アトラクション的なものであるのに対し、シアトルでは「ケ」、日常の延長上にあることだと思う。

 Dezさんは元々この店の常連客だった。子供はいないのでキッズエリアとは無縁だったが、来店するたび、自宅のリビングにいるような居心地良さを感じていたそうだ。そしてある時、店長募集の話を聞いて、業界未経験にも関わらず、応募したのだという。

 「今後は、若者層をもっと取りいれて行きたいの。すでに、夜間のサンドイッチのテイクアウトを開始したり、大人ウケするイベントを計画したりしているけど。さらに大人ウケして、でも子連れもOK、そんな一見相反するような空間を並立させることが今後の頑張りどころかしら」とDezさん。家族全員が自宅の居間にいるようにくつろげる、それが親子カフェを含むシアトルのカフェのあり方だ。

親子から子、そして親へ引き継がれるカフェ

 店を出ようとすると、男の子2人が店のアイスクリームの試食していた。おやつ代わりにアイスを一口いただいた、という風情。「よく来るの、この店? アイスが一番好き?」突然の質問に男の子たちは照れくさそう。「アイスも好きだけど、僕はサンドイッチもよく食べる。」「僕はシシカバブが好き」と答えると、キックボードで並木道を駆け抜けていった。

メディアの人気投票で2年連続ベスト・キッズメニューに選ばれている。そのせいか子供たちにも人気


 viosはギリシャ語でlifeの意味だそうだ。親に連れられて初めて来た日から数年後、今度は友達と連れ立って、あるいはひとりでやって来る。いずれは親となり、自分の子どもと戻って来る日もあるかもしれない。Viosはお客さんのlifeにかかわり続けながら、親子カフェ=居間の延長=ギリシャ料理レストランとしてこれからも変化していくのだろう。


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