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ちょっとだけ不便、でも快適~目からウロコの非電化生活~

「非電化工房」訪問記

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せこ三平(山村玲生) 茨城県古河市
day
2010-11-22
 

ヒデンカ?何それ?

 那須高原にある、ヒデンカコウボウ、って知ってますか?

 那須と言えば、御用邸。で、ヒデンカと言えば、妃殿下、美智子さま?という連想をされる方がいらっしゃるかもしれません。
 ブー。ぜんぜん違います。答えは、「非電化」。非電化工房。

 電気を使わない家電製品?ちょっと言葉に矛盾がありますが、発明家・藤村靖之さんが発明したスグレモノの数々は、「オール非電化」、つまり電気がいらない仕組みになっています。

 たとえば、電気を使わない冷蔵庫。

 ありえない……氷を使うの?大昔のやつ?でも、氷はどうやってつくるの?電気がなくて冷えるわけないっしょ?
 頭の中がクエスチョンマークだらけ。でも、何やら楽しそうな、希望に満ちた雰囲気を感じて、私は、大好きなちえちゃんを誘って、非電化工房見学会への参加を申し込んだのでした。

 10月11日、体育の日、快晴。JR黒磯駅から送迎の車に乗って約20分。降り立つと、そこは藤村さんたちがつくった、夢の非電化テーマパーク。私にとっては、たった一回だけ行ったことのある東京ディズニーランドより百万倍楽しい、ワクワクする場所でした。

アトリエから見た敷地内の池。この場所は、バブルのころ、撮影スタジオだったということです。


原発281基分の電力?

 で、いきなり、今回の藤村さんの話で一番印象に残ったことを、最初に書いちゃいます。

 それは、官民あげて、強力に進められている二つの事業、「オール電化」と「電気自動車」のこと。地球温暖化の原因といわれる二酸化炭素を出さないということで、この二つ、温暖化対策の切り札として、反対する人は多くない。環境のため、と言われると、「ははー、そうですかー」とひれ伏しちゃう感じ。

 でも、藤村さんの試算によると、この二つが普及することによって、日本では新たに原発281基分の電力需要が生まれるということです。

 そんな……。電気足りない足りないって言いながら、そんなに…どうすんの?で、藤村さん、最近、新聞記者たちの前で講演する機会があって、記者たちに尋ねてみたそうです。
「あなたがた、今日の私の話を踏まえて、原発についての記事を書いてくれますか?」
 そうしたら、全員うつむいてしまい、誰もひと言も言わなかったということです。

 学者、評論家、メディア、これらの人たちが、既得権益になってしまい、活力が著しくなくなってしまう……それはしばしば、文明の末期に見られる現象だといいます。

 それを突破する力は、いつも、普通の人、市民たちから生まれるのだと、藤村さんはおっしゃっていました。

 藤村さんの何が素晴らしいかと言って、藤村さんは、既得権益を放棄して、あくまで一人の普通の人、市民たらんとしているように見えることです。

 必要以上にお金を儲けようとしない。
 偉くなるより、幸せでありたい。
 ほどほどの、しあわせ。

 藤村さんのやさしい笑顔と、やわらかな語り口が、その場にいるみんなに、夢と希望と元気を与えてくれました。

見学会スタート

 母屋でのオリエンテーションのあと、藤村さんの息子さんの、けんすけさんのご案内で、見学会が始まりました。全部をご紹介することはできませんので、その中からいくつか選んでみました。

 まず、母屋の前にあった、非電化冷蔵庫。これ、原理は、天気予報でおなじみ、「放射冷却」だそうです。

非電化冷蔵庫。前に立っている帽子のお兄さんが、藤村けんすけさん。


 天板は真っ黒に塗られていて、昼間は太陽光の赤外線を吸収しますが、夜間になると、逆に赤外線を放出し、この時に庫内が冷却されるとのことです。夜間の冷却で、大量の水を保冷し、昼も庫内を冷やしているということです。

 す、す、すごい……。

 原理もさることながら、実際につくってしまう技術と情熱は、並大抵のものではないでしょう。このバージョンは、コストが高くかかってしまったため、ホームセンターで手に入る材料でつくれる普及版を開発したそうです。

 この、非電化冷蔵庫、モンゴルで大活躍のようです。 羊の肉は、夏期は腐りやすく、遊牧民は大切な食糧を、泣く泣く捨てていました。何とかしたいけど、高価な電気冷蔵庫を買うことは、自給自足的生活の遊牧民には無理な話だし、肝心の電気がない。照明やテレビぐらいならソーラーパネルでまかなえますが、冷蔵庫の電気は無理です。

 遊牧民の平均年収は、約二万円だとのこと。いくらぐらいなら冷蔵庫を買ってもいいと思うか? 藤村さんの調査では、「羊二頭分」(約七千円)という答えが出ました。そこで、藤村さんは、地元の企業家に、発明の権利を無償で与え、羊一頭分のコストで、非電化冷蔵庫をつくり、羊二頭分で売るという事業が成立したそうです。

 モンゴルは、晴天の日が多く、放射冷却が起きやすい。非電化冷蔵庫の中は、4度ぐらいまで冷えるとのことで、電気冷蔵庫の温度と変わりません。

 すばらしい。羊が基準というのも、ある意味、地域通貨みたいですね。1ヒツジでつくって、2ヒツジで売る……。

 藤村さん、国際的に活躍されています。アフリカでも、不衛生な水が子供の命を奪っている現状を何とかするために、藤村さんは、太陽光を集めてペットボトルの水を煮沸消毒する装置を発明しました。高熱になると色が変わるシールが利用され、子供たちは、シールの色を見て、安全を確認してから水を飲むことができるようになったということです。私は、その話に感動していました。

夢の非電化生活

 見学ツアーは、藤村けんすけさんの先導で、広い敷地内を移動していきます。
 10月なのに、真夏のような日差しの、暑い一日でした。ここでは、非電化でここまでできるのか、という驚きのアイテムを3点ご紹介します。

 まず、非電化バイオトイレ。

非電化バイオトイレ。下部の箱には、車輪がついていて、移動しやすくなっています。


 バイオトイレは、便を微生物の力で分解して肥料にしますが、冬の間は、微生物の分解力を維持するために、ヒーターを使って土壌を温める必要があるそうです。そのヒーターに、電気を使わざるを得なかったのが、エコロジー派には難点だったのですが、藤村さんたちは、「潜熱蓄熱材」という素材を使うことで、太陽熱を利用し、非電化で40度の熱を保つ方法を開発しました。実際のトイレを使用しての実験は、この冬が初めてということで、実用化は目前ということです。

 つぎに、非電化風呂小屋。

非電化風呂小屋。屋根の傾斜は、太陽光を効率よく当てるために計算されたものですが、見た目もとってもおしゃれ。


 太陽電池で水を汲み上げ、太陽熱温水器で熱します。晴天時は、真冬でも太陽熱のみで入浴できます。薪やゴミを燃料にすることも可能です。
 すべてホームセンターで手に入る材料を用い、五右衛門風呂は廃品を修繕して利用、お弟子さん3人の手で、3週間かけてつくったそうです。費用は、15万円。

 そして、真打ち登場、今回の一押し、非電化籾殻ハウス。

非電化籾殻ハウス。断熱性に優れているので、夏は温度の低い床下の空気を取り入れ、冬は、ダルマストーブでちょっとあたためるだけで、冷暖房はOKということでした。


 この家は、実際に女性のお弟子さんが、一人で住んでいるそうで、見学会があるというのであわてて荷物を運び出したんだそうです。この、断熱材に籾殻をたっぷり使ったセルフビルド・ハウスには、藤村さんが心を使った、4つの特徴があります。

 すてきであること。
 頑丈であること。
 健康であること。
 そして、0エネルギー。

 確かに外見はすてきです。三角パネル組立方式の、頑丈でシンプルなつくりは、みんなの視線をくぎ付けにしました。屋根はススキで葺かれ、てっぺんには風車で回る非電化天窓換気扇。 中に入ってみると、床面積は10平方メートルですが、案外広く感じました。

 床には、室外が乾燥しているときのみ、自然に開いて、室内の湿気を防止する、画期的な「非電化換気孔」。これは、スプリングとナイロンのひもを使ってつくられたもので、同じ機能のものをコンピューター管理の電気仕掛けでつくると、コストが高くかかる上に、メンテナンスがたいへんだし、寿命もかなり短くなってしまうとのことでした。

 これは、すばらしいことです。超ハイテクのコンピューターを使ったものよりも、エネルギーもお金も使わない、自分で出来る単純なものの方が優れているというのです。

 目からウロコ。こういうことって、きっとたくさんあるのかもしれない、と思いました。ただ、マスコミが流す情報が偏っていて、大切でも、お金にならないことはなかなか広がっていかないのではないでしょうか。

 コーフンする私の耳元で、ちえちゃんがささやきました。「これ、つくって……」

 ちなみに、仲間と時間と体力さえあれば、この家は、約20万円で簡単にできるそうです。
 この後、試作実験の場であり、非電化製品や、前電化製品を展示したアトリエを見学し、みんなで記念撮影をしました。

3万円ビジネス10個、のはなし

 母屋に戻って、みんなに、非電化コーヒー焙煎機で煎ったコーヒーやはと麦茶、そして手作りのクッキーがふるまわれました。やさしい笑みを浮かべて、藤村さんが、静かに語り始めます。 藤村さんのお話は、どれも元気の出る、夢のあるお話ばかりでした。

 その中で特に印象に残った、「月3万円ビジネス」のことを、最後に、簡単にご紹介したいと思います。

母屋でお話しする藤村靖之さん。手に持っているのは非電化コーヒー焙煎機。


 実は、この時、ちえちゃんの隣には、面識はなかったものの、偶然にもレアリゼメンバーの大友ねねさんが座っていて、後でそうと知って、びっくりしてしまったのです。
 ねねさんは昨年、世田谷ものづくり学校内の自由大学で、「ナリワイ 月3万円の仕事を10個つくる」という、伊藤洋志さんの講義を受けたのですが、この講義の中で、藤村さんの「月3万円ビジネス」のアイディアを知り、それ以来、特に興味と関心を持っていたそうなのです。

 伊藤さんによると、大正9年の国勢調査で国民から申告された職業は約3万5000種あるそうです。一方、現在の厚生労働省の「日本標準職業分類」によれば、いまや2167職種。わずか80年程度前には、はるかに多様な職業の種類があり、職の多様性も高かったというのです。つまり、業種を絞り込むことで、急成長したのが、高度成長だということです。

 私、むずかしいことは何もわかりませんが、この情報をねねさんから知らされたとき思ったのは、単純に考えて、昔はいろんなことができた日本人が、高度成長を境に、できることが極端に減ってしまった、ということかな、と。

 それはたぶん、大量生産、大量消費の、お金ががっぽり儲かるシステム作りと無縁ではありません。大企業の論理で、労働の効率化を考えた時に、多種多様の職業は駆逐されていく運命だったのでしょう。

 結果、「自分のことを自分で出来ない」お金に頼って生きざるを得ない、平均的日本人像ができあがった。

 これを、できるだけ、「自分のできることは自分で」、そしてお金よりも、人とのネットワークでやってみよう、というのが、藤村さんの言う、3万円ビジネスだと私は理解しています。

 月に30万、50万、稼ごうとすると、相当無理をしなければなりません。
競争して、他人に勝つようなことも必要になって来るかもしれません。でも、3万円ぐらいなら、何とかなりそう。
 3万円の仕事を月に一個考えて、それを10チームで共有する。そうやって、どんどん仕事の輪、人とのつながりを広げていく。それは、競い合いのビジネスではなく、分かち合いのビジネス。

 そこには、同じ夢を共有できる仲間が集まって来そうな感じです。ワクワク、楽しい、を共有する仲間づくり。何もできないと思っていた私が、人とつながることで、きっと何かができる。可能性が見えて来る。

 世の中、捨てたもんじゃないんです。黒磯発の帰りの電車の中、ちえちゃんとビールを飲みながら、私は、心地よい幸福感に浸っていました。

 効率もスピードももういいかげんにしてほしい。便利さと引き換えに、不安なんか要らない。ちょっと不便でも、ビンボーでも、安心、安全、健康で笑顔の方がいいんだ。

 ああ、藤村さんみたいな人が、日本にいる。いいじゃん、いいじゃん、日本。私なりの幸せを見つける旅、そろそろ終着駅が近いのかな……。


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