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ボルネオにおける森林伐採が先住民族に与えてきた影響

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前田 実津 東京 前田 実津 東京
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2010-11-29
 

 東南アジアにおける大規模な森林伐採が、環境・生態系に取り返しのつかないような影響を与えていることは、これまでメディアでも報道されてきた。「エコ」という言葉を頻繁に聞くようになっているが、そういった環境への意識の高まりに反し、木材伐採によって生活に大きな影響を受けている先住民族については一般的にほとんど知られていないように思える。

 筆者は今年9月にボルネオ(マレーシア・サラワク州)へ取材に赴いた。
 数あるボルネオ先住民族のうち、プナン族は、唯一伝統的に移動生活をしてきた民族だ。吹き矢や銃で狩りを行い、植物の採集で食糧を得て、近くの川で水浴びと洗濯をする。2、3カ月に一度、周囲の果物等森林資源が減ってくると居住地を移すため、他のボルネオ先住民族と異なり農耕を行ってこなかった。これはプナン族の生活の森林資源への依存度がより高いということであり、それだけに木材伐採による影響がより大きいということである。

 政府の定住化政策や森資源の枯渇等の理由で、ほとんどのプナン族が1980年代から定住をはじめた。約1万人いるプナン族のうち、200人程度が今でも移動生活を営んでいると見られている。

夕日を背に、近くの川で水浴びや洗濯をする人々


サゴ椰子から採れるでんぷんは、農耕をしていない彼らにとって唯一のタンパク源だ。切り落としたサゴの木の繊維をこそぎ落し、水で濾過をして乾燥させる作業で、一日がかりだ。


吹き矢で射落とした猿。この日の夕食に調理されて出された。


滞在させて頂いたバ・マロンには子供が2人いるが、移動生活のため学校には通っていない。親たちは、将来のために教育を受けさせたいと考えており、そのためには定住する必要がある。



直面する困難

 プナン族が定住し始めたのは早くて1960年代であり、1958年に改定された先住民土地慣習法(Native Customary Right Law)による慣習地がほとんど認められていない。そのため、定住したとしても、生活の源である森は州政府の土地とみなされているため、いつでも木材企業に伐採権を与えることができると解釈されてしまう。

 また森資源が枯渇するに従って近隣のプナンコミュニティとの土地問題も発生するようになった。元々土地を所有するという概念すらなかった人々が、それをめぐってプナン族同士で争わざるを得なくなっているのだ。

 その他のマレーシア人としての基本的権利もなかなか認められず、戸籍が登録されていなかったり、身分証明のICカードを何度申請しても発行してもらえないケースが多く、バ・マロンでも半数以上が今も身分を証明する書類を持たない。

     何度も車で5時間以上かかる町まで出てICカードを申請したものの、いまだ受理されていないという。



生活、そして意識の変化

 森林資源の破壊とともに、外との接触が急激に増えたことも彼らにとって大きな変化だ。木材伐採用の道ができたことで、町へ出ることが劇的に容易になった。もちろん公共の交通機関などない上に、道はひどいでこぼこ道なので、4WDの自動車やトラックしか利用できない。彼らの森から採れる現金収入源である籐製品や沈香木を町に売りに出る際には、木材を伐採している会社に頼んで乗せていってもらう。定住先を探す際に条件となるのは、川と木材搬出用の道が近くにあることだが、木材伐採会社が操業をやめ、道がなくなってしまうと再度移住せざるを得ないというパラドックスを抱えている。

 また、町へ出たり、近隣のすでに定住したプナンコミュニティへ訪れることで、「いままで自分たちが何を持っていなかったのか」を知ったことも精神的に大きな変化だ。森の恵みとともに生活していた彼らは、定住プナンの持つテレビも、夜でも明るくしてくれる電気も持っていない、自らの「貧しさ」に気づいてしまったのだ。

すでに定住したプナンコミュニティでは、自家発電の電気でテレビも見られる。いまだに狩りに行く者もいるが、コミュニティの敷地内で米を育て、学校や教会の建物もある。


   
日本との関わり

 日本はサラワクからの木材輸入に関して何十年間も、最も大きな顧客の一国であり、また一旦中国に輸入され、安く加工されたサラワク産木材製品も多く輸入している。今年8月に日本木材輸入協会(JLIA)がサラワク州政府と意見交換の場を持った際の記者会見で「日本は違法伐採対策に関してサラワク州政府発行の認証を尊重する」と発表している。

 EU諸国は、木材の第三者認証機関による認証を必要とするため、サラワク州からの木材輸入にはかなりの制限がある。これに対し日本は、先住民族の生活を無視して木材企業に伐採許可を与える張本人であるサラワク州政府が発行する「違法伐採ではない」という認証があれば、問題なく輸入できるということだ。

 さらに、早くから木材伐採会社が入った地域では、伐採後の広大な土地のプランテーション化が進んでおり、パーム椰子、あるいはパルプの原料となるアカシアが植えられている。日本でパーム油は植物由来で「エコ」だとして食品等に多用されているし、アカシアは安価なコピー用紙としてオフィスで大量消費されているが、プランテーションでは大量の農薬が使われるため、それにより汚染された川の水を使うしかない付近の住民は、皮膚病などに苦しんでいる。

次から次へと運び出される伐採された木材


広大な土地が伐採され、その後プランテーションに姿を変えている


農薬に汚染された川沿いに住む人々は、水道など通っていないため、その川で釣りや水浴び、洗濯をせざるを得ない。



彼らの森の消費者としてできること

 バ・マロンの長老、アンウィは言う。「ここで何が起こっているのか、日本の人にただ知ってほしい。私達の状況を見に来てほしい。森は、私たちにとって町の人たちにとってのスーパーマーケットみたいなもの。定住しても森がなくなれば、私達は生きていけないんだ。」

 実際現地に赴くことは難しいかもしれない。だが、彼らに何が起こっているのかを知ること、そして何らかの形で発信して、より多くの人に知ってもらうこと。これは木材を輸入している企業への圧力となる。大きな顧客である日本の輸入企業連が違法伐採に関して状況の改善を求めてきたら、サラワク州政府側も対策を取らざるを得ないだろう。即効性のある解決策などない。少しずつでも、継続して彼らの状況を想うことが、私達にできることだと思う。


イベント報告「サラワクの先住民は今~森林伐採、オイルパームと熱帯雨林」

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