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フィンランド小学校事情 Vol.2 就学前教育編

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靴家さちこ フィンランド/ケラヴァ 
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2010-12-08
 

 フィンランドでは、新学期が8月の中旬頃に始まる。新一年生は、その年の1月から12月までの間に7歳になる児童達が対象となる。入学前の6歳児に対して、就学前教育が「無料で」施されるのが、エシコウル(英語でプリスクール/略してエスカリ)だ。今回は、少し話が逆行するが、エスカリでの就学前準備について触れてみたい。

エシコウル/エスカリとは?

 エスカリは義務教育では無いのだが、学校教育法に組み込まれており、2001年より自治体による実施が義務化された。エスカリへの子どもの参加率は97%。エスカリは、パイヴァコティ(保育園)の中か、小学校と同じ敷地内の建物の中などで実施されている。
 時間帯は月曜日から金曜日までの午前中4時間で、ちょうど小学一年生が学校で過ごす一日とほぼ同じ長さになる。ちなみに長男が通ったエスカリはパイヴァコティの中にあるものだったので、児童のほとんどが、午前中をエスカリ、午後はパイヴァコティというようにその両方を連動させた一日を過ごしていた。

◆例:長男が通っていたパイヴァコティ内のエスカリでの一日◆

6時半~8時 : 親の仕事の始業時間に合わせて保育園に登園
8時~8時半 : 保育園で朝食/エスカリだけに通う子どもは家で食べてから登校

8時半    : エスカリ始業
11時半~12時: 昼食
12時~    : お昼寝休憩(さすがに6歳児ともなるともう寝ないので、先生が本を
         読み聞かせ、子ども達はマットの上に雑魚寝/読み聞かせが終わり
         次第、他のお昼寝中の園児を起こさないように静かな遊びを始めても
         良い)
12時半    : エスカリ終業(エスカリだけに通ってきている子どもには、12時半に
         保護者が迎えに来る)

14時~14時半 : おやつ
14時半頃~  : 保育園の敷地内で自由に遊ぶ
17時半     : 保育園終業

+++++


 長男の場合はエスカリだけで通わせていたが、保育園も併用している場合、保育園には半日分だけ支払うことになる。保育料は、保護者の収入によって上限・下限が設けられており、上限はフルタイム保育で一ヶ月230ユーロ、下限は21ユーロ(2008年8月現在)で、半日の場合それぞれの半額となる。

エスカリの授業内容

 長男が通ったエスカリの目的・趣旨は「小学生の生活リズムに慣れ親しむこと」と、心持ちハードルが低めであったが、一応一人一人にテヘタヴァキリヤ(ワークブック)が手渡され、子ども達は「僕(私)はもう、エスカリライネン(エスカリの学生)だよ」と誇らしげだった。

 エスカリは9月から始まって、翌年の5月末に終了したが、その約9ヶ月半の間で長男が学んだ内容は以下の通りだ。

1)アアコセット(フィンランドのアルファベット29文字)の大文字
2)1~10までの数字
3)時計の読み方
4)手芸(毛糸を使って簡単な手織りのマットやフェルト生地のぬいぐるみの縫製)
5)ワークブック(大文字の書き取り、迷路や絵のマッチング、間違い探しや色塗りなど)

プリスクールで使用したワークブック。9月から5月までの約7カ月をかけて一冊こなす。

数字は1から10までの書き取りを習う。先生に寄ると、子ども達は数字が大好きなのだとか。

アアコセット(フィンランド語のアルファベット29文字)は大文字だけ。

一応、家でもできる既製品のワークブックはあるが、プリスクールから特に薦められることはない。長い夏休みに、バカンス先での暇つぶしにやらせてみる。

プリスクールで製作した、恐竜のフェルトのぬいぐるみ。針で指を刺したこともあったが、苦労してつくった作品には強い愛着がある。


 さらに年間行事には、運動会、スキーの練習、バスで遠足、クリスマスパーティーと春パーティー、一日学校訪問、地元の外国人を招いて「文化の日」といったものがある。

 実際に「文化の日」に、日本紹介のプレゼンテーションを頼まれた私は、息子の担任の先生の指導を目の当たりにする機会に恵まれた。私に与えられた時間は約30分強。その間、子ども達には「じっと座っていること」が要求され、このようにして小学校での授業の練習をしているのだと説明された。

 私がプレゼンテーションに差し掛かると、待ってましたとばかりに、先生が地球儀を差し出して生徒達に聞く。「日本がどこにあるか、わかる人!」。しばしの沈黙を破って、22人のうち一人が恐る恐る正しい場所を指差した。続いて私は、日本の子ども達が習う文字として、ひらがな、カタカナを紹介し、日本の子どもの遊びを写真を見せながら説明し、日本から持ってきたおもちゃや子ども向けのDVDを見せて回った。

 一通り終わると、先生が「質問がある人!」と促す。すっと手を挙げた一人が「日本には地震があるそうですが、活火山があるのですか?」と聞いた。そんな生徒がいたかと思うと、ものすごい勢いで挙手をしておきながら、先生に指されると「あっ、忘れちゃった」と顔を真っ赤にして身をよじる子もいる。

 質問は5つか6つで途絶えたが、先生は「何か言いたいことや、披露したい歌や特技は?」と挙手をあおる。そこでどっと手が8割以上挙がったのを見て、先生はそっと私にささやいた。「なんでもいいから、挙手をして発言する練習をさせているの。学校の授業や社会に出てから重要でしょ」。

 息子の担任の先生は、そのように小学校での生活を明確に意識する一方で、細かいことに関してはおおらかだった。例えば、息子はアアコセットの大文字しか読めないので、フィンランド語はほとんど読めなかったのだが、先生は「学校で習うから」と気にも留めない。
 さらに言うと、鉛筆の持ち方もおかしかったので、直すよう家でも指導した方がいいのかと聞いたら「それも学校で習うから」とかぶりを振った。それよりも、息子が日本語が話せることや、習う前にもう時計やカレンダーの読み方を知っていたことなどを大げさに褒め続けてくれた。

 フィンランドでは、「早期教育は意味が無い」という見解が一般的で、「就学を他の欧州の国々より遅めにしていることが、学力世界一の成功のカギ」だと考えられているのだ。

色々なエスカリ

 フィンランドの教育では、授業内容が大きく担任の教師の裁量に任されている点が特色なのだが、エスカリもその例外ではない。ゆえに息子の担任の先生と同様な指導が、フィンランド全土でも行われているという訳ではない。

 知り合いのエスカリの先生などは、広告の写真をハサミで切り取り、貨幣や紙幣も紙で作って、クラスを二つのチームに分けて「お買いものゲーム」というのをやってみたそうだ。「数の感覚を養うのにいいと思って」先生自らが思いついたものだそうだ。さらに、そちらのエスカリでは、クラス全員で市営プールに通うなどの水泳指導もあり、我が息子のエスカリでは、遠足に劇場まで人形劇の観賞に出かけるなど、文化面に力を入れていた。

 このように実にのんびり9ヶ月半という時間をかけて就学準備をするのだが、実際に子どもを通わせてみた感想を述べると、やはり担任の先生の「挙手の練習」は効果的だったと思う。小学校の担任も同じように発表することに重きを置いた授業を展開しているので、エスカリで築いた土台が活かされているようだ。
 そして、小学校一日訪問もまた、実際の小学一年生の隣の席に座らせてもらえるので、息子にはとても具体的に小学校生活がイメージできたようで素晴らしかった。その長男もまた、今度は逆の立場でエスカリライネンを迎え入れ、読めなかったアアコセットも入学後2カ月で読めるようになった。

 次回は、読めない子を読める子にする、小学一年生の母国語(国語)指導について触れてみよう。


フィンランド小学校事情 Vol.4
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