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ソーシャルファーム ―“第三の雇用”に向けたドイツの取り組みから

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飯田恵子 東京都
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2010-12-16
 

はじめに

 ソーシャルファームは、ヨーロッパ発祥の比較的新しい動きである。1970年代にイタリアから始まったとする説もあれば、ドイツやイギリスから始まったとする説もある。定義もさまざまだが、ソーシャルファームが「障害者や労働市場で著しく不利な立場の人の雇用確保」という社会的な目的を持つ点では概ね一致している。ここではソーシャルファームの用語を改めて確認した上で、ドイツの取り組みに焦点をあてつつ、最後に日本の現状を簡単に振り返ってみたい。

ソーシャルファームとは

 「ソーシャルファーム」は、「ソーシャルエンタープライズ」という言葉とともに使われることがあるが、その違いをご存じだろうか?どちらも「社会的企業」と訳されることが多いが、「ソーシャルエンタープライズ」は、主に社会的課題の解決を目的にしながらサービスや製品などの商取引を行う企業を総称して使う場合が多い。
 従業員は通常の賃金や労働条件で働くが、ソーシャルエンタープライズの目的は利潤追求でなく社会的課題の解決なので、それを優先しながら自立経営を行う点で、通常の民間企業や、無償を主とするボランティア団体とは区別される。

 「ソーシャルファーム」は、ソーシャルエンタープライズの一種であるが、特に障害者や労働市場で不利な立場にある人のために安定的な雇用と賃金を確保する、という社会的な目的をもって活動している企業や組織を指す。つまり、障害者や労働市場で不利な者にとっては「福祉的雇用」でも「一般雇用」でもない、その中間に位置するいわば「第三の雇用」となる。

ドイツの取り組み事例

 ドイツでは、ソーシャルファームをどのような概念で捉えているだろうか。ソーシャルエンタープライズ・パートナーシップ前所長のゲーロルド・シュワルツ氏によると、図1のようになる。

図1.ドイツにおけるソーシャルファームの位置づけ


 図1から、ドイツにおけるソーシャルファームは、福祉作業所、職業訓練所、治療施設、一般労働市場のあらゆる要素を少しずつ含む存在であることが分かる。

 ドイツには、約700のソーシャルファームがある(2007年)。シュワルツ氏によると、約2万2000人が雇用されており、その中で障害者の雇用率は約5割に達している。具体的なソーシャルファームには、小都市などにフランチャイズ展開している「CAPスーパーマーケット」や、ユニークなデザイン商品の通販をしている「Loonyデザイン会社」、ハンブルグにある「Stadthaushotel」というホテルなどが挙げられる。

     Stadthaushotelホテル紹介HPより


 ドイツで特徴的なのは、ソーシャルファームに特化したコンサルティング会社や、政府への働きかけを行うロビー集団など、専門家による周辺支援環境が整っている点だ。

 例えばFAFというコンサルティング会社は、ドイツ社会精神医学学会、精神障害者協会、ドイツ心理社会学団体の統括組織などの団体指導者たちが1985年に設立した。ソーシャルファームの起業や経営に関するコンサルティングやセミナーなどを行っており、国内5か所の事務所で15人のスタッフが働いている。

 一方、ロビー集団のBAG Integrationsfirmenは1996年に設立され、主に政治家、福祉関係者、企業関係者などソーシャルファームに関心がある層へ専門新聞を定期送付したり、関連法の導入や法改正時に議会の公聴会で意見を述べたり、マスコミへ情報提供をしたりする活動を行っている。BAG IntegrationsfirmenはFAFの株主でもあり、両者は連携しながらソーシャルファームの発展に取り組んでいる。

 FAF社の調査報告によると、ドイツのソーシャルファームの多くは、一定の割合で障害者らを雇用しながら、一般市場でも競争力のある製品やサービスを提供している。そのため、公的補助金は起業に伴う危険を減らすために支払われるのではなく、ソーシャルファームの25~50%の従業員が障害者であるために生じる損失を補てんするためにのみ支払われている。また、その公的補助金には、一般企業が支払う負担調整金(Ausgleichsabgabe)も含まれる。

 ドイツでは、1974年に創設された「割当雇用制度」が障害者雇用政策の根幹をなしている。現在、障害者の法定雇用率は5%で、20以上の就労ポストを持つ使用者は、少なくとも5%以上、障害者を雇用しなければならない。

 この法定雇用率を達成できない企業は、負担調整金を支払う必要がある。未達成部分について、企業から支払われる納付金の総額は2003年時点で5億7170万ユーロに上り、これが障害者の雇用促進のために用いられている。

 ソーシャルファームは、主として障害者の雇用に重点を置いているが、そのほか労働市場で不利な立場にある人たちも対象としている。どのような人が「労働市場で不利な立場」に該当するかについては各国さまざまだが、ドイツでは近年、2年以上の長期失業者、55歳以上の中高年者、移民、薬物常用者なども対象に含むようになってきている。

日本の取り組み事例 

 日本のソーシャルファームの事例としては、「スワンベーカリー」という全国展開するパン屋が挙げられる。「クロネコヤマトの宅急便」の生みの親である故・小倉昌男氏が障害者の雇用や収入の確保を目的として1998年に設立し、その思想に共鳴したアンデルセンの高木誠一社長が、パン作りや運営のノウハウを無償で提供した。

スワンカフェ&ベーカリー赤阪店

店内の様子

スワンの商品は通販も可能


●スワンの商品は障害者を支える商品として、詰め合わせやデータ入力など障害者の仕事に直結するように開発されている。それと同時にオーガニック食材の利用や環境配慮にも力を入れている。



 政策面では、日本でもドイツと同様に障害者の法定雇用率が設けられており、民間企業は1.8%に設定されている。今年7月1日からは新たに、常時雇用している労働者数が200人を超え300人以下の中小企業事業主も納付金の申告を行う必要があるなど、納付金制度の適用対象となった。平成27年4月1日からは、常時雇用している労働者数が100人を超え200人以下の中小企業事業主にも納付金制度の適用が拡大される予定だ。

 日本のソーシャルファーム支援を行っている炭谷茂氏によると、日本には現在、障害者のほかに、難病者、高齢者、1人親家庭、ニート、引きこもりの若者、元受刑者、被差別部落出身者、ホームレスなど、労働市場において著しく不利な立場にある人が2000万人以上いる。このような人たちを福祉作業所などの公的機関や一般企業での就労に任せるのは限界があり、その解決策の一つとしてソーシャルファームへの期待が高まっているという。

さいごに

 ドイツの取り組みから分かるのは、ソーシャルファームの発展には、製品やサービスそのものに対する一般消費者の支持のほかに、専門家による起業/経営支援、政策の後押し、公的補助金を用いた障害者らの赤字補填による所得保障が非常に重要になるということだ。
 ソーシャルファームは今後ますます発展が見込まれるが、まずは上記のような周辺支援環境の整備が重要な鍵になるだろう。

「障害」について、「害」という言葉が否定的な意味を含むとして「障がい」または「障碍」と表現することがあるが、ここでは法令上の表現との整合性などを考慮して「障害」でという言葉で統一した。


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