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パレスチナを知ろう 第1回:「沈黙を破る」ヘブロン・ツアー

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ほうきじゅんこ ベイルート、レバノン
day
2011-02-11
 

 「ヒトゴト」から「ジブンゴト」へ。このリアリゼのモットーを念頭に置いても、日本人にはどうしても「ヒトゴト」になってしまいがちなパレスチナ問題。それをなるべく身近に感じてもらえるよう、パレスチナを政治的な視点ではなく、 私個人の視点を通して紹介していきたいと思います。
 このリポートは、私が2007年の冬から春にかけて3ヶ月間、パレスチナ・イスラエルの双方に滞在した経験を元に書いていきます。第1回目はパレスチナ自治区、ヨルダン川西岸にある町ヘブロンです。

 ヘブロンには、ユダヤ教徒、キリスト教徒、イスラム教徒に共通の聖地である、預言者アブラハムとその妻サラの墓があります。その地で、かつては隣人同士として共存していたパレスチナ人(キリスト教徒とイスラム教徒)とユダヤ人。それが今ではパレスチナ人の生活は分断され、抑圧され、破壊されています。


パレスチナ自治区ヨルダン川西岸、ヘブロン市。


 ヘブロンでは、昔からそこに住む圧倒的多数のパレスチナ人と、新しくやってきた少数のユダヤ人入植者が隣同士で住んでいます。例えば、この町にテル・ルメイダという地区があります。この地区には数百人のユダヤ人入植者が数千人のイスラエル軍に守られて、十数万人のパレスチナの間に住んでいます。
 ここではパレスチナ人とユダヤ人が毎日直接顔を合わせるので、特に緊張が高いことで知られています。隣人同士で同じ道を歩いていても一方は大勢のイスラエル軍に守られ、一方はイスラエル軍に虐げられる、といった関係です。

 例えばこの地区に住むパレスチナ人が家から出て、市場にパンを買いに行くとしましょう。市場までは歩いてほんの5分程です。けれども市場に繋がる道は封鎖され、イスラエル軍のチェックポイントが設けられています。パンを買うにも学校に行くにも、この地区を出入りするにはチェックポイントを通らなくてはいけません。

 ここを通過するのにどれだけかかるかは、その日担当のイスラエル兵次第です。パレスチナ人の場合、そのままチェックポイントで十分な理由もなく逮捕されてしまうかもしれません。たとえパンを買いに行くためだけに、そこを通ろうとしたのだとしても。


ヘブロン市、テル・ルメイダ地区、イスラエル軍のチェックポイント


 イスラエル側は、このチェックポイントをユダヤ人入植者保護のためにセキュリティ上必要なものと説明しています。けれどもこれは単なるチェックポイントではなく、パレスチナ人に対する嫌がらせの場でもあります。

 ある雨の日、私がチェックポイントを通ると、年配のパレスチナ人男性が身分証明書のチェックをされていました。パレスチナ人が身分証明書を出すと、イスラエル兵は「照会のため」と称してその場で待つように言います。コンピューターも電話もある時代ですから、「照会」しようと思えばすぐにでもできるはずですが、そこで何時間も待たされることもあります。

 この日担当のイスラエル兵は、そのパレスチナ人男性に雨の中に立って待つように言いました。彼が傘を持っていないのを承知で、建物の軒の下で待つことをわざわざ禁じたのです。
 イスラエル兵は、パレスチナ人に対するこのような嫌がらせを遊び感覚でしょっちゅうします。それに黙って従うパレスチナ人。ここに歴然とした力の差があります。これは国際ニュースでよく聞く、テロリストとしてのパレスチナ人のイメージとだいぶ違うかもしれません。

 もちろん自爆テロという手法を取ったパレスチナ人もごく少数ながら存在することは事実です。けれども、毎日まいにち圧倒的な力の差で押さえつけられ、尊厳を踏みにじられ、普通の生活を送ることへの希望を無くした人たちがどのように感じながら生きているか、想像するのはそんなに難しくないでしょう。


テル・ルメイダのチェックポイントで拘束されているパレスチナ人男性とイスラエル兵士。男性はプラスチック製のひもで手を縛られています。


 イスラエルでは基本的に18歳以上の男女全員に兵役義務があり、多くの兵士は高校を卒業したばかりの若者達です。彼らが急に銃を持たされ、パレスチナ人をコントロールする権限を与えられ、毎日チェックポイントに何時間も立つことになるわけです。退屈だと言っているイスラエル兵士に何人も会いました。
 そして退屈ついでにパレスチナ人を撃ち殺しても、それ相応の罪に問われることはありません。ヘブロンで任務に就く若いイスラエル兵士達がパレスチナ人住民をどのように扱ってきたかは、土井敏邦監督のドキュメンタリー映画「沈黙を破る」でも兵士本人達が語っています。

 この映画に出てくる元イスラエル兵士たちは、沈黙を破ってヘブロンの状況を知ってもらうため、現地でツアーを行っています。土井監督の映画にも出て来た元兵士の一人と話をしたことがあるのですが、彼は「自分はユダヤ人でイスラエルのパスポートを持っているけど、どこが出身か聞かれたらパレスチナと答える」と言っていました。彼は自分たちのしてきたことを外に向かって話し始め、事実を直視することで、この答えに行き着いたのだろうと思うと、そういうユダヤ人もいることに少し希望が見えました。

 読者のみなさんがパレスチナ/イスラエルを訪れる、あるいはお知り合いが訪れる、という機会があれば、是非ヘブロンの「沈黙を破る」ツアーのことを思い出して下さい。英語ですが、彼らは毎週無料でツアーを行っています。ツアーの予定と申し込みは「沈黙を破るBreaking the Silence」のウェブサイトをご覧下さい)。

 このツアーはイスラエル人を対象にヘブライ語でも行われています。多くのイスラエル人はヘブロンで何が行われているか、パレスチナ自治区でイスラエルの軍隊や警察が何をしているかを知りません。あるいは知ろうとしない、知りたくない、というイスラエル人もたくさんいます。 兵役が終わったらそれ以上この問題には関わりたくない、という人もいます。

 そしてイスラエル側の若者達がディスコやバーに繰り出して騒いでいる間に、分離壁の向こうではパレスチナ人が生活を破壊され、拷問され、殺されています。隣にいながらまるで遠くの国のことのように感じてしまうほど、彼らの間には溝があります。逆に遠くにいてもその気があれば相手のことを知ることはできますし、繋がりを感じることはできます。

 相手を知ろうとすること、問題が何かを直視しようとすること、その努力からすべては始まると思うのです。


パレスチナ自治区とイスラエルを分断する壁。こちら側がパレスチナ、向こう側がイスラエル。イギリスのストリート・アーティスト、バンクシーによる壁画が描かれています。


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