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人のつながる場所  吉祥寺「Kiss Cafe」(2)/ヒトに効くアート Vol.3

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高橋幸世 バンクーバー、カナダ
day
2007-11-02
 

開かれた場としての「まちのリビング」

 路面に降りたKiss Cafeは「まちのリビング」と呼ばれている。誰でもそこに集まって、気楽におしゃべりできる場所としてのリビング=お茶の間の多目的性と多機能性や、昔懐かしい井戸端会議や村の集会所といった風情がここにはまだ生きている。でも、都会らしいセンスの良さやアートっぽさも同時に兼ね備えていて、なかなか刺激的な場所でもある。

 この気軽で刺激的な「リビング」で、いろんな人が出会い、つながっていく。こんなことができたらいいな、こんなことができたらもっと暮らしが楽しくなるかもしれない、といった普通の市民の目線から生まれたアイディアを、デザイナーやプロデューサーといったプロのクリエーター集団であるNPO Kiss*のコアメンバーたちはそっと見守り、ここぞという時には彼らのスキルを生かして技術面をサポートしてくれたりもする。

[品物を並べれば「リビング」はマーケットに早変わり ]

[リビングにいる感覚でのワークショップも]


 例えば、武蔵野市界隈で子育てをするお母さんたちの「リビング」つながりから始まった『MOMO プロジェクト』では、母親の日常感覚とKiss Cafeのプロのデザインセンスが結びつく形で、実用的でありながら、ポップで楽しい地域の『子育てマップ』が生まれ、現在も吉祥寺界隈の市民会館やショップなどで無料配布されている。リビングのおしゃべりがクオリティーの高い「モノ」に変換されたコラボレーションの好例と言えるだろう。

参加するカフェ

 Kiss Cafeはいい意味でお客を「お客さん」扱いしない場所でもある。NPO Kiss*の池谷さん曰く、ここには「お店の人とお客さんの区別がない」のだそうだ。Kiss Cafeの利用案内には “みなさんの「できるコト」を提供してください”と気軽に書いてある。「できるコト」は運営資金の寄付だったり、ボランティアだったり、イベントの企画だったりと様々だ。いわばリビングを拠点にした文化の持ち寄りパーティーみたいなノリだ。

 Kiss Cafeには経営者と利用者の境界線を取り除くためのちょっと変わった「ツール」もある。このカフェでは年会費を払って「オーナー会員」になったり、カフェの時間のシェア料金を払うことによって「シェアードカフェマスター」になったり、カフェの中で流通する通貨「kiss Cafe債券」を買ったりすることもできる。「オーナー」「シェア」「債券」?どのツールも、ここ場所がサービスを一方的に受け取る場ではなくて、参加者の「できるコト」の総体=Kiss Cafeだということをうまく表している。Kiss Cafeに参加すると、カフェは自分の一部になり、自分はカフェの一部になるというわけだ。

 お客さんだった人がお店の人に変身してしまう一番分かりやすい例が「シェアードカフェマスター」というツールだろう。これはカフェの時間をシェアする料金を払うと、誰でもKiss Cafeの一日マスターになることができるという仕組みだ。料理好きの人が、月に一回だけ厳選した素材と料理法でお洒落な居酒屋を開いている例もあれば、旅行好きの人が、旅先で出会った料理を再現して振る舞うカフェなんていうのもあるらしい。

[憧れのカフェマスターも夢ではない ]


 こうした「シェアードカフェマスター」によるカフェに立ち寄る人たちは、美味しい食べ物や飲み物だけを求めてここに来るのではないだろう。「まちのリビング」での小さな宴は、やっぱりどこか昔懐かしい人と人とのつながりを思い起こさせる。顔の見えるマスターの心のこもった料理をみんなで食べ、知り合いも新しく出会った人も入り交じってあれこれおしゃべりする時、人は街とつながり、人とつながる感覚を一緒に味わっているに違いない。

[さまざまな趣向を凝らした一日カフェが開店する]


ご近所にあるアート

 kiss cafeではライブやビデオ上映などと組合わさってのアート・カフェもよく開催されるそうだ。劇場やアートギャラリーで畏まって鑑賞されるアートとは違って、「リビング」でのアートの魅力は日常からほんの数歩遊びに出たくらいの身近さにある。飲んだり食べたり、おしゃべりしたりというリラックスした雰囲気の中で営まれるアートは、たぶん消化されても消費されはしない。おいしく、楽しく、美しい時間を共有した人たちは新たにまたつながって、満たされたお腹と刺激された感性の幸福な時間の中から、次なるアートが自然発生してくるのだろう。次の宴の主役はあなたかもしれない。

[参加してOK!]


 Kiss Cafeを中心となって立ち上げたのは建築家やデザイナーといったプロの知識を持つ人たちだそうだが、Kiss Cafeという場のあり方のデザインや、様々な「ツール」のデザイン自体が彼らの手による一つのアート作品だと言うこともできそうだ。ハードもソフトも含めてのKiss Cafeという自由な表現の場を、遊びのルールを了解した人たちによって使いこなされ、育てられ、遊ばれ、見守られる住民参加型アートとして捉えてみても面白いかもしれない。

 (ポットラック+欧カフェ)×お茶の間=都市の中に出没したちょっと懐かしい「まちのリビング」。どうやら、人と人とがつながり、アート/文化の発信される場所としての、新しいタイプのカフェが日本で生まれつつあるらしい。リアルな場所で「つながる」ことからはじまる人×人の想像力/創造力が、顔のない公共性や商業性にチャレンジしはじめたようだ。消費する場所ではなくて、何かが生まれる場所としてのご近所のカフェ。ささやかに見えるこうした営みが、人と都市とアートの未来を内側から少しずつ変えていくのかもしれない。

[ 人と街とアートがつながる瞬間 ]

 
(写真提供:Kiss Cafe)


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